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  • 心理学統計の検定を用いて森鴎外の「山椒大夫」を考える6

    1 最初は満足度に差がないと予測する。男性と女性の平均値を取ると、安寿 1.8、厨子王 1.4になる。正道は1.8、母親は1.2になる。しかし、背理法から満足度には差があるにする。 
    2 満足度の1、2は独立変数であり、それにともなう記憶の度合い強弱(2、1)は、従属変数になる。
    3 独立変数そのものの1、2が要因で、独立変数の実際の値、満足度が水準になる。
    4 ここでは、どちらの水準も同じ標本からデータを集めているため、満足度という要因は、参加者内要因になる。
    5 得られた有意確率(p値)を有意水準と比較する。危険率は通常5%未満のため、ここではt検定を採用する。 
    6 t検定では、二つの平均の差を表す統計量(t値)、データの規模を表す自由度(df)、p値(p-value)を説明する。
    [満足度のt検定]
    男の平均1.6、女の平均1.5、よってt値=0.1。
    自由度は、独立した標本の個数から1引いたものである。よってdf=8。
    p値は、0.02。ここでは5%を越えるため、帰無仮説の差があるを採択する。

    花村嘉英(2019)「心理学統計の検定を用いて森鴎外の『山椒大夫』を考える」より

  • 心理学統計の検定を用いて森鴎外の「山椒大夫」を考える5

    具体度2

    正道はうっとりとなって、この詞に聞き惚れた。そのうち臓腑が煮え返るようになって、獣めいた叫びが口から出ようとするのを、歯を食いしばってこらえた。正道2 母親1

    たちまち正道は縛られた縄が解けたように垣のうちへ駆け込んだ。そして足には粟の穂を踏み散らしつつ、女の前に俯伏した。正道2 母親1

    右の手には守本尊を捧げ持って、俯伏したときに、それを額に押し当てていた。女は雀でない、大きいものが粟をあらしに来たのを知った。正道2 母親1

    そしていつもの詞を唱えやめて、見えぬ目でじっと前を見た。そのとき干した貝が水にほとびるように、両方の目に潤いが出た。正道1 母親1

    女は目があいた。「厨子王」という叫びが女の口から出た。二人はぴったり抱き合った。正道2 母親2

    花村嘉英(2019)「心理学統計の検定を用いて森鴎外の「山椒大夫」を考える」より

  • 心理学統計の検定を用いて森鴎外の「山椒大夫」を考える4

    2.3 「山椒大夫」の満足度

     「山椒大夫」は、遠く離れた父親に会いに行く旅の途中で母親と別れるも、姉弟が力を合わせて両親と世話になった人たちに献身の気持ちを伝えるという内容である。ここでは、この小論の研究テーマ、性別による満足度の違いについて、作成したデータベースを基に考察していく。

    解答1 性別による満足度の違い

    具体度1
    二人は急いで山を降りた。足の運びも前とは違って、姉の熱した心持ちが、暗示のように弟に移って行ったかと思われる。安寿2 厨子王1

    泉の湧く所へ来た。姉は子(かれいけ)に添えてある木の椀(まり)を出して、清水を汲んだ。
    安寿3 厨子王1

    「これがお前の門出を祝うお酒だよ。」弟は椀を飲み干した。「そんなら姉えさん、ご機嫌よう。きっと人に見つからずに、中山まで参ります」安寿2 厨子王2

    厨子王は十歩ばかり残っていた坂道を、一走りに駆け降りて、沼に沿うて街道に出た。そして大雲川の岸を上手へ向かって急ぐのである。安寿1 厨子王2

    安寿は泉の畔(ほとり)に立って、並木の松に隠れてはまた現われる後ろ影を小さくなるまで見送った。
    安寿2 厨子王1

    花村嘉英(2019)「心理学統計の検定を用いて森鴎外の『山椒大夫』を考える」より

  • 心理学統計の検定を用いて森鴎外の「山椒大夫」を考える3

    2.2 実験計画

    【研究テーマ】
    質問1 性別による満足度の違い。
    帰無仮説 男性と女性とで満足度に差がない。
    対立仮説 男性と女性とで満足度に差がある。
    【実験計画】
    独立変数 実験や調査をする人が仮説を検証するために使用する変数。原因と結果でいうと原因である。
    従属変数 独立変数の操作に応じて変化すると考えられる変数。原因と結果でいうと結果である。
    【要因と水準】
    要因 実験者が使用する変数。独立変数そのもの。
    水準 実験者が使用する種類。独立変数が実際にとる値。
    【参加者間要因と参加者内要因】
    参加者間要因 水準のデータが異なる標本から集められる場合。
    参加者内要因 水準のデータが同じ標本から集められる場合。
    【有意確率】
    帰無仮説を前提としたときに、誤差から偶然ある程度の差が標本に生じる確率のこと。危険率とかP値という。また、誤差には、本当はないのに誤って誤差があるとする第一種と誤差があるのに誤ってないとする第二種とがある。実吉(2013)では、5%水準を基準にしている。

    花村嘉英(2019)「心理学統計の検定を用いて森鴎外の『山椒大夫』を考える」より

  • 心理学統計の検定を用いて森鴎外の「山椒大夫」を考える2

    2 心理学統計

    心理学統計では、心の働きを数値化しながら客観性を計り、集計や分析を試みる。心を測定する時は、様々な要因がデータに含まれるため、データには誤差が付き物である。そのため、統計学により誤差を取り除き真の値を求めていく必要がある。そうすると、限られた人数のデータから人間一般に共通する心の働きも推測可能になる。

    2.1 有意性検定

     科学では全般的に仮説を立てて検証する方法が使われる。実吉(2013)によると、検定の際に仮説が成り立つかどうかは、作成したデータから決めていく。検定の対象は、そこに有意性の差があるかどうかである。例えば、男女で不安度に差があるのかどうか、または満足度に差があるのかどうか。こうした問題に対してデータを集めながら検定すると、解答が見えてくる。

    【検定の流れ】
    帰無仮説と対立仮説を立てる → 独立変数と従属変数を具体的に決め、実験計画を立てる → データを取る → 実験計画に応じた統計検定を行う → 得られた有意確率(p値)を有意水準と比較する → 帰無仮説の棄却、採択を決定する

     ここで、帰無仮説とは、比較する数値間に差がないという仮説である。対立仮説は比較する数値間に差があるとする仮説である。検定では、まず帰無仮説が正しいことを前提に検討され、帰無仮説が成り立たなければ、それを棄てて対立仮説に移り、差があるという結論にする。つまり背理法による命題の証明である。

    花村嘉英(2005)「心理学統計の検定を用いて森鴎外の『山椒大夫』を考える」より

  • 心理学統計の検定を用いて森鴎外の「山椒大夫」を考える1

    1 先行研究との関係

     データベースを作成ながら購読脳と執筆脳を分析するシナジーのメタファーの研究も次第に安定してきている。これまでバランスを意識して二個二個のルールに基づき多くの組み合わせを作ってきた。統計についても、バラツキ、相関関係、多変量分析と進み、今回の心理学統計を含めれば、バラツキと相関、多変量と心理という組み合わせができる。この小論では、実吉(2013)の心理学統計の検定の手法に従い、森鴎外の「山椒大夫」を題材にして男女の満足度について考えていく。 

    花村嘉英(2005)「心理学統計の検定を用いて森鴎外の『山椒大夫』を考える」より

  • 心理学統計の検定を用いて井上靖の「わが母の記」を考える8

    3 まとめ

     井上靖の「わが母の記」に登場する男と女についてデータベースから心理学統計による人物評価をしてみると、不安度に関して差があることが分かった。

    【参考文献】

    井上靖 わが母の記 講談社文庫 2012
    実吉綾子 心理学統計入門 技術評論社 2013
    花村嘉英 シナジーのメタファーの作り方-トーマス・マン、魯迅、森鴎外、ナディン・ゴーディマ、井上靖 中国日语教学研究会上海分会論文集 2018
    花村嘉英 井上靖の「わが母の記」のデータベース 2017

  • 心理学統計の検定を用いて井上靖の「わが母の記」を考える7

    1 最初は井上靖と桑子とで不安度に差がないと予測する。両者の平均値を取ると、井上靖 1.1、桑子 1.3になる。この差は誤差の可能性がある。 
    2 具体度の1、2は独立変数であり、それにともなう不安度の大小は、従属変数になる。
    3 独立変数そのものの1、2が要因で、独立変数の実際の値である不安度が水準になる。
    4 ここでは、どちらの水準も同じ標本からデータを集めているため、具体度という要因は、参加者内要因になる。
    5 得られた有意確率(p値)を有意水準と比較する。危険率は通常5%未満のため、ここではt検定を採用する。
    6 t検定では、二つの平均の差を表す統計量(t値)、データの規模を表す自由度(df)、p値(p-value)を説明する。
    [不安度のt検定]
    井上靖 1.1、桑子 1.3、よってt値=0.2。
    自由度は、独立した標本の個数から1引いたものである。よってdf=8。
    p値は0.02にする。ここでは5%以上のため、帰無仮説を採用し有意な差があるとする。

    花村嘉英(2019)「心理学統計の検定を用いて井上靖の『わが母の記』を考える」より

  • 心理学統計の検定を用いて井上靖の「わが母の記」を考える6

    具体度2

    ・「東京時代も三十ぐらいのときのことが一番多かったようね。いまも同じだとすると三十ぐらいでとまっているのかしら。たいへんね。赤ちゃんになるまで」靖弱い不安1、桑子強い不安1
    ・「同じことさえ繰り返さなかったらほんとにいいおばあちゃんだけど」弱い不安1、弱い不安1 
    ・「おばあちゃんも、とうとう姉さんを憤らせてしまったわね。でも、よく今日まで続いて来たようなものよ」弱い不安1、弱い不安1 
    ・「おばあちゃんは今日はご機嫌よ。昨日は少しいけないおばあちゃんだったけど、今日はお利口さんなの、ねえ」弱い不安1、弱い不安1
    ・「おばあちゃん、わたしたち、おばあちゃんの話をしているのよ」弱い不安1、弱い不安1 

    花村嘉英(2019)「心理学統計の検定を用いて井上靖の『わが母の記』を考える」より

  • 心理学統計の検定を用いて井上靖の「わが母の記」を考える5

    2.3 「わが母の記」の不安度

     「わが母の記」は、認知症を患う作者の母が年齢とともに様々な事件を引き起こし、家族を振り回し、次第に衰えていく様子が描かれている。ここでは、この小論の研究テーマ、性別による不安度の違いついて、作成したデータベースを基に考察していく。

    解答 性別による不安度の違い
    具体度1
    ・母にしてみれば東京などにすむより知人も多い郷里の生活の方がいいに決まっていた。靖弱い不安1、桑子強い不安2
    ・母が弟と妹に連れられて東京の家に入って来た時、私は母が別人のようにやつれているのを見た。強い記憶2、強い不安2
    ・そんな祖母と孫娘の会話を聞いていると、もう心配はなく万事はうまくいくだろうと、私には思われた。弱い不安1、弱い不安1
    ・「さあ、おばあちゃん、同じことを何度でも言っていいよ。こちらは酔っているから今夜は一向にお応えない」弱い不安1、弱い不安1
    ・私は思わず笑い出した。私は自分が何を言ったか覚えていなかったし、勿論母からそのようなことを言われたことも覚えていなかった。弱い不安1、弱い不安1

    花村嘉英(2019)「心理学統計の検定を用いて井上靖の『わが母の記』を考える」より