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  • 『話す』 日本語の会話や作文からやさしい翻訳へ3

    1.2 ビジネス会話

     「ビジネス日本語会話」では、学習者に初級が終了した日本語のレベルを求めている。ビジネスは、「ある組織に属している人が、同じ組織または外部の人とその組織の機能または目的を達するために何らかの関わりを持つ行為」と定義され、様々なビジネス上の場面を通して、組織の「うち、そと」とか上下関係のような対人関係で変化する日本語固有の待遇表現を取り上げている(ビジネス日本語会話)。日本語は、直接表現を多様する中国語と異なり、コミュニケーションの際に断定表現を避けながら、間接的な表現を用いることが多い。これは、対人に対してできるだけ丁寧に振舞うといった日本のビジネスルールによっている。
     各課の構成は、ビジネス上のダイアログ(中国語訳付)、語彙、重要な表現(使い方の説明や例文あり)および練習からなっている。ここでは、一課を6コマで終えるケースを想定して教案の説明をする。最初に、新出単語を音読してからダイアログを音読する。ダイアログの背景やキーワードも合わせて説明していく。ここまでで30分から35分である。 
     次に、重要な表現を説明する。取り上げられている表現の数にもよるが、このパートは、30分から35分である。最後に、練習問題を扱うが、この課の重要な表現について場面を想定しながら使用する練習である。慣れるまでは、教師と学生が一対一で練習する。その際、テキストにあるビジネス会話を少し拡張させることもある。このパートは、60分から70分ぐらいである。

    花村嘉英著(2017)「日本語教育のためのプログラム-中国語話者向けの教授法から森鴎外のデータベースまで」より

  • 『話す』 日本語の会話や作文からやさしい翻訳へ2

    1 教案の作成方法

    1.1 日本語の基礎会話

     「みんなの日本語1」と「みんなの日本語2」の教案は、概ね作業内容が同じである。無論、随時内容を動かしながら授業を進めるので、異なる点も出てくる。まず、学期毎に1週間のコマ数を確認してから、時間の配分を決める。ここでは、一課を4コマで終えるケース(2コマx2回、1コマは45分)を想定して、教案の例を説明していく。各課の文型については、補習用の資料を参考にしている。構文の解釈に基づいて、重要なポイントを説明していく。
     例えば、41課は、初歩的な敬語表現の勉強をする。まず、例文を使って発音の練習をする。ここでは、「あげます」、「もらいます」、「くれます」といった受け渡しの表現を勉強する。表現方式を示す際、それぞれ対応する敬語(「さしあげます(謙譲語)」、「いただきます(謙譲語)」、「くださいます(尊敬語)」)についても合わせて説明する。構文については、「動詞て形+さしあげます」、「動詞て形+いただきます」、「動詞て形+くださいます」というように分類して、それぞれテキストにある例文を示す。一回のクラス(45分x 2の場合)では、このパートは30分が目安である。
     次は会話の練習で、まず全員で音読をする。それから二人一組(ペアワーク)で音読の練習をする。学生の数にもよるが、このパートは25分が目安である。練習Aは、文型とその構文の確認である。ここは10分。練習Bについては、回答をすべて黒板に書く。この練習の内容を使って学期末に筆記テストを行うため、学生にも回答を書くように勧めている。ここは40分ぐらい。練習Cは、単語を入れ替えて会話文を作る練習なので、15分とする。各課の最後にある問題のパートは、聴解が25分、残りが30分から35分で進めていく。

    花村嘉英著(2017)「日本語教育のためのプログラム-中国語話者向けの教授法から森鴎外のデータベースまで」より

  • 『話す』 日本語の会話や作文からやさしい翻訳へ1

    【要旨】

     2009年3月から2011年1月まで、武漢科技大学外語外事職業学院で日本語教師を務めている。担当科目は、1年生と2年生のための基礎会話と2年生の後半から3年生にかけて勉強するビジネス会話である。 中国人に日本語の会話や作文を教授する際に、効果が上がると思われる方法について教案を通して検討している。しかし、学期の毎に修正や改良が必要となる。まず、私の教案の作り方について説明し、次に会話や作文からやさしい翻訳まで全体的に関連づけて話を進めていく。最後に現在未解決の問題についても触れようと思う。

    花村嘉英著(2017)「日本語教育のためのプログラム-中国語話者向けの教授法から森鴎外のデータベースまで」より

  • 横光利一の「蝿」で執筆脳を考える9

    4 まとめ

     横光利一の執筆時の脳の活動を調べるために、まず受容と共生からなるLのストーリーを文献により組み立てた。次に、「蝿」のLのストーリーをデータベース化して、最後に特定したところを実験で確認した。そのため、テキスト共生によるシナジーのメタファーについては、一応の研究成果が得られている。
     この種の実験をおよそ100人の作家で試みている。その際、日本人と外国人60人対40人、男女比4対1、ノーベル賞作家30人を目安に対照言語が独日であることから非英語の比較を意識してできるだけ日本語以外で英語が突出しないように心掛けている。 

    参考文献

    片野善夫 ほすぴ162号 日本成人病予防協会 2018
    花村嘉英 計算文学入門-Thomas Mannのイロニーはファジィ推論といえるのか? 新風社 2005
    花村嘉英 从认知语言学的角度浅析鲁迅作品-魯迅をシナジーで読む 華東理工大学出版社 2015
    花村嘉英 日语教育计划书-面向中国人的日语教学法与森鸥外小说的数据库应用日本語教育のためのプログラム-中国語話者向けの教授法から森鴎外のデータベースまで 南京東南大学出版社  2017
    花村嘉英 从认知语言学的角度浅析纳丁・戈迪默-ナディン・ゴーディマと意欲 華東理工大学出版社 2018
    花村嘉英 シナジーのメタファーの作り方-トーマス・マン、魯迅、森鴎外、ナディン・ゴーディマ、井上靖 中国日語教学研究会上海分会論文集 2018  
    花村嘉英 川端康成の「雪国」に見る執筆脳について-「無と創造」から「目的達成型の認知発達」へ 中国日語教学研究会上海分会論文集 2019
    花村嘉英 社会学の観点からマクロの文学を考察する-危機管理者としての作家について 中国日語教学研究会上海分会論文集 2020
    花村嘉英 フランツ・カフカの"Die Verwandlung"の執筆脳について ファンブログ 2020
    横光利一 蝿 青空文庫 

  • 横光利一の「蝿」で執筆脳を考える8

    表3 情報の認知

    A 表2と同じ。情報の認知1 3、情報の認知2 2、情報の認知3 2
    B 表2と同じ。情報の認知1 3、情報の認知2 2、情報の認知3 2
    C 表2と同じ。情報の認知1 3、情報の認知2 2、情報の認知3 2
    D 表2と同じ。情報の認知1 3、情報の認知2 2、情報の認知3 2
    E 表2と同じ。情報の認知1 2、情報の認知2 2、情報の認知3 2

    A:情報の認知1は③その他の反応、情報の認知2は②新情報、情報の認知3は②問題未解決から推論へである。
    B:情報の認知1は③その他の反応、情報の認知2は②新情報、情報の認知3は②問題未解決から推論へである。
    C:情報の認知1は③その他の反応、情報の認知2は②新情報、情報の認知3は②問題未解決から推論へである。
    D:情報の認知1は③その他の反応、情報の認知2は②新情報、情報の認知3は②問題未解決から推論へである。
    E:情報の認知1は②グループ化、情報の認知2は②新情報、情報の認知3は②問題未解決から推論へである。 

    結果 横光利一は、この場面で真実を理解しているのは大きな目をした蝿だけで、新情報がテンポよく流れるも問題は未解決のままとし、読み終えて誰もが考えるように工夫している。そのため「蝿の眼と真実」と「観察と思考」という組が相互に作用する。

    花村嘉英(2020)「横光利一の『蝿』の執筆脳について」より

  • 横光利一の「蝿」で執筆脳を考える7

    【連想分析2】

    情報の認知1(感覚情報)
     
     感覚器官からの情報に注目することから、対象の捉え方が問題になる。また、記憶に基づく感情は、扁桃体と関係しているため、条件反射で無意識に素振りに出てしまう。このプロセルのカラムの特徴は、①ベースとプロファイル、②グループ化、③その他の反応である。
     
    情報の認知2(記憶と学習)
     
     外部からの情報を既存の知識構造へ組み込む。この新しい知識はスキーマと呼ばれ、既存の情報と共通する特徴を持っている。未知の情報は、またカテゴリー化される。このプロセスは、経験を通した学習になる。このプロセルのカラムの特徴は、①旧情報、②新情報である。

    情報の認知3(計画、問題解決、推論)
     
     受け取った情報は、計画を立てるプロセスでも役に立つ。その際、目的に応じて問題を分析し、解決策を探っていく。しかし、獲得した情報が完全でない場合は、推論が必要になる。このプロセルのカラムの特徴は、①計画から問題解決へ、②問題未解決から推論へである。 

    花村嘉英(2020)「横光利一の『蝿』の執筆脳について」より

  • 横光利一の「蝿」で執筆脳を考える6

    分析例

    1 馬車が滑落する場面。
    2 この小論では、「蝿」の購読脳を「蝿の眼と真実」と考えているため、意味3の注意ありなしに注目する。 
    3 意味1 ①視覚②聴覚③味覚④嗅覚⑤触覚、意味2 ①喜②怒③哀④楽、意味3振舞い ①直示②隠喩③記事なし、意味4注意①あり②なし、4 人工知能 ①観察、②思考 
      
    テキスト共生の公式

    ステップ1:意味1、2、3、4を合わせて解析の組「蝿の眼と真実」を作る。
    ステップ2:蝿の眼を通した「観察と思考」という組を作り、解析の組と合わせる。

    A:①視覚+③哀+①直示+②注意ありという解析の組を、知蝿の眼を通した①観察ありと②思考なしという組と合わせる。 
    B:「①視覚+②聴覚」+③哀+①直示+②注意ありという解析の組を、知蝿の眼を通した①観察ありと②思考なしという組と合わせる。
    C:「①視覚+③味覚」+③哀+①直示+②注意ありという解析の組を、知蝿の眼を通した①観察ありと②思考なしという組と合わせる。 
    D:①視覚+③哀+①直示+②注意ありという解析の組を、知蝿の眼を通した①観察ありと②思考なしという組と合わせる。
    E:「①視覚+②聴覚」+③哀+①直示+②注意ありという解析の組を、知蝿の眼を通した①観察ありと②思考ありという組と合わせる。

    結果 表2については、テキスト共生の公式が適用される。

    花村嘉英(2020)「横光利一の『蝿』の執筆脳について」より

  • 横光利一の「蝿」で執筆脳を考える5

    【連想分析1】
    表2 受容と共生のイメージ合わせ 馬車が滑落する場面

    A 馭者台では鞭が動き停った。農婦は田舎紳士の帯の鎖に眼をつけた。「もう幾時ですかいな。十二時は過ぎましたかいな。街へ着くと正午過ぎになりますやろな。」
    意味1 1、意味2 3、意味3 1、意味4 1、人工知脳 1

    B 馭者台では喇叭が鳴らなくなった。そうして腹掛けの饅頭を、今や尽ことごとく胃の腑の中へ落し込んでしまった馭者は、一層猫背を張らせて居眠り出した。その居眠りは、馬車の上から、かの眼の大きな蠅が押し黙った数段の梨畑を眺め、真夏の太陽の光りを受けて真赤に栄えた赤土の断崖を仰ぎ、突然に現れた激流を見下して、そうして馬車が高い崖路の高低でかたかたときしみ出す音を聞いてもまだ続いた。
    意味1 1+2、意味2 3、意味3 1、意味4 1、人工知脳 1

    C しかし、乗客の中で、その馭者の居眠りを知っていた者は、僅かにただ蠅一疋であるらしかった。蠅は車体の屋根の上から、馭者の垂れ下った半白の頭に飛び移り、それから、濡れた馬の背中に留とまって汗を舐めた。 意味1 1+3、意味2 3、意味3 1、意味4 1、人工知脳 1

    D 馬車は崖の頂上へさしかかった。馬は前方に現れた眼匿しの中の路に従って柔順に曲り始めた。しかし、そのとき、彼は自分の胴と、車体の幅とを考えることは出来なかった。一つの車輪が路から外れた。突然、馬は車体に引かれて突き立った。意味1 1、意味2 3、意味3 1、意味4 1、人工知脳 1

    E 瞬間、蠅は飛び上った。と、車体と一緒に崖の下へ墜落して行く放埒な馬の腹が眼についた。そうして、人馬の悲鳴が高く一声発せられると、河原の上では、圧し重なった人と馬と板片との塊りが、沈黙したまま動かなかった。が、眼の大きな蠅は、今や完全に休まったその羽根に力を籠めて、ただひとり、悠々と青空の中を飛んでいった。 意味1 1+3、意味2 3、意味3 1、意味4 1、人工知脳 1+2

    花村嘉英(2020)「横光利一の『蝿』の執筆脳について」より

  • 横光利一の「蝿」で執筆脳を考える4

    3    データベースの作成・分析

     データベースの作成法について説明する。エクセルのデータについては、列の前半(文法1から意味5)が構文や意味の解析データ、後半(医学情報から人工知能)が理系に寄せる生成のデータである。一応、L(受容と共生)を反映している。データベースの数字は、登場人物を動かしながら考えている。
     こうしたデータベースを作る場合、共生のカラムの設定が難しい。受容は、それぞれの言語ごとに構文と意味を解析し、何かの組を作ればよい。しかし、共生は、作家の知的財産に基づいた脳の活動が問題になるため、作家ごとにカラムが変わる。

    【データベースの作成】

    表1 「蝿」のデータベースのカラム
    文法1 名詞の格 横光の助詞の使い方を考える。
    文法2 態  能動、受動、使役。
    文法3 時制、相 現在、過去、未来、進行形、完了形。
    文法4 様相 可能、推量、義務、必然。
    意味1  五感 視覚、聴覚、味覚、嗅覚、触覚。
    意味2  喜怒哀楽 情動との接点。瞬時の思い。
    意味3  振舞い ジェスチャー、身振り。直示と隠喩を考える。
    意味4 思考の流れ 注意ありなし。
    意味5 数字 作品からとれる数字。 
    医学情報 病跡学との接点 受容と共生の共有点。構文や意味の解析から得た組「蝿の眼と真実」と病跡学でリンクを張るためにメディカル情報を入れる。
    情報の認知1 感覚情報の捉え方 感覚器官からの情報に注目するため、対象の捉え方が問題になる。例えば、ベースとプロファイルやグループ化または条件反射。
    情報の認知2 記憶と学習 外部からの情報を既存の知識構造に組み込む。その際、未知の情報についてはカテゴリー化する。学習につながるため。記憶の型として、短期、作業記憶、長期(陳述と非陳述)を考える。
    情報の認知3 計画、問題解決、推論 受け取った情報は、計画を立てるときにも役に立つ。目的に応じて問題を分析し、解決策を探っていく。獲得した情報が完全でない場合、推論が必要になる。
    人工知能 エキスパートシステム 1観察、2思考。

    花村嘉英(2020)「横光利一の『蝿』の執筆脳について」より

  • 横光利一の「蝿」で執筆脳を考える3

     ところが鞭や喇叭が鳴らなくなった。馭者が居眠りを始めた。蝿は、梨畑を眺め、真夏の太陽の光りを受けた赤土の断崖を仰ぎ、激流を見下した。馭者の居眠りを知っていた者は、この蝿だけである。蝿は車体の屋根の上から、馭者の半白の頭に飛び移り、それから、濡れた馬の背中に留まって汗を舐めた。 
     一つの車輪が路から外れた。蝿は飛び上った。車体と一緒に崖の下へ墜落して行く馬の腹が眼についた。そして、人馬の悲鳴が高く一声発せられると、河原の上では、圧し重なった人と馬の塊りが、沈黙したまま動かなかった。眼の大きな蠅は、今や完全に休まったその羽根に力を籠めて、ただひとり、悠々と青空の中を飛んでいった。
     つまり、蝿と乗客の視覚情報は、全く異なるものになった。そして、順調に街に辿り着くと思っていたところに、突然、脱輪から滑落事故が起こり死亡するというフィナーレが来る。非線形ともいえるため、カオス理論に通じる作品と考えることができる。  
     その場に居合わせた人は、真実の理解からほど遠く、第三者、ここでは大きな目の蝿が真の理解者である。「蝿」の購読脳は、「蝿の眼と真実」にする。
     通常、五感情報の80%以上が視覚情報といわれる。片野(2018)によると、目で見たものは、物体から跳ね返ってくる光を受け取り物体の色や形、大きさ、立体感などを認識している。大きな目の蝿が見たものは、物体から跳ね返ってくる光を受け取り物体の色や形、大きさ、立体感などの認識になっている。
     こうすると、「蝿」の執筆脳は、「観察と思考」と見なされ、心の活動を脳の働きと考えた場合、シナジーのメタファーは、「横光利一と観察としての思考」になる。
     埼玉県所沢市にあるトトロの森を舞台にしたアニメーションの監督、宮崎駿も森に生息する昆虫の眼から見た現実世界の観察を研究している。

    花村嘉英(2020)「横光利一の『蝿』の執筆脳について」より