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  • 中島敦の「山月記」の執筆脳について-パーソナリティ障害3

    3 データベースの作成・分析

     データベースの作成法について説明する。エクセルのデータについては、列の前半(文法1から意味5)が構文や意味の解析データ、後半(医学情報から人工知能)が理系に寄せる生成のデータである。一応、L(受容と共生)を反映している。データベースの数字は、登場人物を動かしながら考えている。
     こうしたデータベースを作る場合、共生のカラムの設定が難しい。受容は、それぞれの言語ごとに構文と意味を解析し、何かの組を作ればよい。しかし、共生は、作家の知的財産に基づいた脳の活動が問題になるため、作家ごとにカラムが変わる。

    花村嘉英(2019)「中島敦の「山月記」の購読脳について」より

  • 中島敦の「山月記」の執筆脳について-パーソナリティ障害2

    2 「山月記」の思考によるLのストーリー

    中島敦(1909-1942)は、1942年持病の喘息を抱えながら「山月記」を書き、同年この病が悪化しため、12月4日に33歳で死去する。「山月記」を読めば、誰もが人の人生について思わず考えさせられる。内容は、一連の精神活動の中で思考とつながるため、今回は「中島敦と思考」という組み合わせでシナジーのメタファーについて考察する。
     「山月記」の購読脳を「自尊心と自己愛性パーソナリティ障害」とする。自尊心については、主人公の李徴が認めている。日本成人病予防協会(2014)によると、人から称賛されたいと強く思い、根拠もないのに自分は称賛に値する優れた人間だと信じている。特権意識の強い、己惚れた人間である。自己愛を傷つけられると怒ることもある。この群に属するパーソナリティ障害には、反社会性、境界性、演技性といった基本的な特徴があり、他人を巻き込み派手で劇的な人格が見受けられる。
    購読脳の組み合せ、「自尊心と自己愛性パーソナリティ障害」という出力が、共生の読みの入力となって横にスライドし、出力として「人生と思考」という組を考える。よって「中島敦と思考」というシナジーのメタファーが成立する。
    リスク回避と取れる提言が述べられる。己惚れることなく協調性を持って生活することが人生の心得なのである。なお、パーソナリティ障害は、一般的に病気に対する自身の認識が低いため、治療に至らないことが多い。できるだけ周囲の人を通して調節するとよい。

    花村嘉英(2019)「中島敦の「山月記」の購読脳について」より

  • 中島敦の「山月記」の執筆脳について-パーソナリティ障害1

    1 先行研究

     文学分析は、通常、読者による購読脳が問題になる。一方、シナジーのメタファーは、作家の執筆脳を研究するためのマクロに通じる分析方法である。基本のパターンは、まず縦が購読脳で横が執筆脳になるLのイメージを作り、次に、各場面をLに読みながらデータベースを作成し、全体を組の集合体にする。そして最後に、双方の脳の活動をマージするために、脳内の信号のパスを探す、若しくは、脳のエリアの機能を探す。これがミクロとマクロの中間にあるメゾのデータとなり、狭義の意味でシナジーのメタファーが作られる。この段階では、副専攻を増やすことが重要である。 
     執筆脳は、作者が自身で書いているという事実及び作者がメインで伝えようと思っていることに対する定番の読み及びそれに対する共生の読みと定義する。そのため、この小論では、トーマス・マン(1875-1955)、魯迅(1881-1936)、森鴎外(1862-1922)の執筆脳に関する私の著作を先行研究にする。また、これらの著作の中では、それぞれの作家の執筆脳として文体を取り上げ、とりわけ問題解決の場面を分析の対象にしている。さらに、マクロの分析について地球規模とフォーマットのシフトを意識してナディン・ゴーディマ(1923-2014)を加えると、“The Late Bourgeois World”執筆時の脳の活動は、意欲と組になることを先行研究に入れておく。
     筆者の持ち場が言語学のため、購読脳の分析の際に、何かしらの言語分析を試みている。例えば、トーマス・マンには構文分析があり、魯迅にはことばの比較がある。そのため、全集の分析に拘る文学の研究者とは、分析のストーリーに違いがある。文学の研究者であれば、全集の中から一つだけシナジーのメタファーのために作品を選び、その理由を述べればよい。なお、Lのストーリーについては、人文と理系が交差するため、機械翻訳などで文体の違いを調節するトレーニングが推奨される。
     メゾのデータを束ねて何やら予測が立てば、言語分析や翻訳そして資格に基づくミクロと医学も含めたリスクや観察の社会論からなるマクロとを合わせて、広義の意味でシナジーのメタファーが作られる。

    花村嘉英(2019)「中島敦の「山月記」の購読脳について」より

  • 小林多喜二の「蟹工船」で執筆脳を考える-不安障害9

    5 まとめ

     労働者たちは、この場面でグループ型で外部から情報を取り込み、旧情報を基に問題未解決から問題解決へ向かっている。そのため「悲惨な労働者の姿と当時の日本の権力」と「行動のトリガーとしての意欲と不安」という組が相互に作用し、「小林多喜二と不安障害」というシナジーのメタファーが成立する。
     この種の実験をおよそ100人の作家で試みている。その際、日本人と外国人60人対40人、男女比4対1、ノーベル賞作家30人を目安に対照言語が独日であることから非英語の比較を意識してできるだけ日本語以外で英語が突出しないように心掛けている。 

    参考文献

    大塚俊男他 こころの病気を知る事典 弘文堂 2007 
    小林多喜二 蟹工船 青空文庫
    小林多喜二 蟹工船 現代語訳 渡邉文幸 理論社 2014
    日本成人病予防協会監修 健康管理士一般指導員通信講座テキスト ヘルスケア出版 2014
    花村嘉英 計算文学入門-Thomas Mannのイロニーはファジィ推論といえるのか? 新風舎 2005
    花村嘉英 从认知语言学的角度浅析鲁迅作品-魯迅をシナジーで読む 華東理工大学出版社 2015
    花村嘉英 日语教育计划书-面向中国人的日语教学法与森鸥外小说的数据库应用 日本語教育のためのプログラム-中国語話者向けの教授法から森鴎外のデータベースまで 南京東南大学出版社 2017
    花村嘉英 从认知语言学的角度浅析纳丁・戈迪默-ナディン・ゴーディマと意欲 華東理工大学出版社 2018
    花村嘉英 川端康成の「雪国」に見る執筆脳について-「無と創造」から「目的達成型の認知発達」へ 中国日語教学研究会上海分会論文集 2019
    花村嘉英 小林多喜二「蟹工船」のデータベース 2019

  • 小林多喜二の「蟹工船」で執筆脳を考える-不安障害8

    情報の認知の流れ

    A 情報の認知1は③その他の反応、情報の認知2は②新情報、情報の認知3は②問題未解決から推論へ、である。
    B 情報の認知1は②グループ化、情報の認知2は①旧情報、情報の認知3は②問題未解決から推論へ、である。
    C 情報の認知1は②グループ化、情報の認知2は①旧情報、情報の認知3は②問題未解決から推論へ、である。
    D 情報の認知1は②グループ化、情報の認知2は①旧情報②新情報、情報の認知3は①計画から問題解決へ、である。
    E 情報の認知1は②グループ化、情報の認知2は①旧情報②新情報、情報の認知3は①計画から問題解決へ、である。

    結果 不安を伴うも、労働者たちは、一応この場面で問題未解決から問題解決へ向かっている。

    花村嘉英(2019)「小林多喜二の「蟹工船」の執筆脳について」より

  • 小林多喜二の「蟹工船」で執筆脳を考える-不安障害7

    表3 感情と行動の認知プロセス

    A 然し「今に見ろ」を百遍繰りかえして、それが何になるか。ストライキが惨めに敗れてから、仕事は「畜生、思い知ったか」とばかりに、過酷になった。それは今までの過酷にもう一つ更に加えられた監督の復仇的な過酷さだった。限度というものの一番極端を越えていた。今ではもう仕事は堪え難いところまで行っていた。
    情報の認知1 3 情報の認知2 2 情報の認知3 2

    B 「間違っていた。ああやって、九人なら九人という人間を、表に出すんでなかった。まるで、俺達の急所はここだ、と知らせてやっているようなものではないか。俺達全部は、全部が一緒になったという風にやらなければならなかったのだ。そしたら監督だって、駆逐艦に無電は打てなかったろう。まさか、俺達全部を引き渡してしまうなんて事、出来ないからな。仕事が、出来なくなるもの」
    情報の認知1 2 情報の認知2 1 情報の認知3 2

    C 「そうだな」
    「そうだよ。今度こそ、このまま仕事していたんじゃ、俺達本当に殺されるよ。犠牲者を出さないように全部で、一緒にサボルことだ。この前と同じ手で。吃りが云ったでないか、何より力を合わせることだって。それに力を合わせたらどんなことが出来たか、ということも分っている筈だ」
    情報の認知1 2 情報の認知2 1 情報の認知3 2

    D 「それでも若し駆逐艦を呼んだら、皆で―この時こそ力を合わせて、一人も残らず引渡されよう!その方がかえって助かるんだ」
    「んかも知らない。然し考えてみれば、そんなことになったら、監督が第一あわてるよ、会社の手前。代りを函館から取り寄せるのには遅すぎるし、出来高だって問題にならない程少ないし。……うまくやったら、これア案外大丈夫だど」
    「大丈夫だよ。それに不思議に誰だって、ビクビクしていないしな。皆、畜生!ッて気でいる」
    情報の認知1 2 情報の認知2 1 情報の認知3 1
    E 「本当のことを云えば、そんな先きの成算なんて、どうでもいいんだ。――死ぬか、生きるか、だからな」 「ん、もう一回だ!」
     そして、彼等は、立ち上った。――もう一度!
    情報の認知1 2 情報の認知2 1 情報の認知3 1

    花村嘉英(2019)「小林多喜二の「蟹工船」の執筆脳について」より

  • 小林多喜二の「蟹工船」で執筆脳を考える-不安障害6

    【連想分析2】

    情報の認知1(感覚情報)
     感覚器官からの情報に注目することから、対象の捉え方が問題になる。また、記憶に基づく感情は、扁桃体と関係しているため、条件反射で無意識に素振りに出てしまう。このプロセルのカラムの特徴は、①ベースとプロファイル、②グループ化、③その他の反応である。

    情報の認知2(記憶と学習)
    外部からの情報を既存の知識構造へ組み込む。この新しい知識はスキーマと呼ばれ、既存の情報と共通する特徴を持っている。未知の情報はまたカテゴリー化される。このプロセスは、経験を通した学習になる。このプロセルのカラムの特徴は、①旧情報、②新情報である。

    情報の認知3(計画、問題解決、推論)
    受け取った情報は、計画を立てるプロセスでも役に立つ。その際、目的に応じて問題を分析し、解決策を探っていく。しかし、獲得した情報が完全でない場合は、推論が必要になる。このプロセルのカラムの特徴は、①計画から問題解決へ、②問題未解決から推論へ、である。

    花村嘉英(2019)「小林多喜二の「蟹工船」の執筆脳について」より

  • 小林多喜二の「蟹工船」で執筆脳を考える-不安障害5

    分析例

    意味1①視覚②聴覚③味覚④嗅覚⑤触覚、意味2①喜②怒③哀④楽、意味3振舞い①直示②隠喩、意味4階級①労働者②権力者、人工知能1行動のトリガーとしての意欲①あり②なし、人工知能2不安障害①あり②なし
    テキスト共生の公式
    ステップ1 解析の組は、悲惨な労働者の姿(意味1、2、3)と当時の日本の権力(意味4)とする。
    ステップ2 不安障害の特性から「行動のトリガーとしての意欲と不安」という組を作り、解析の組と合わせる。
    A 悲惨な労働者の姿(②聴覚+③哀+①直示)と当時の日本の権力(①労働者+②権力者)という組を、行動のトリガー(①あり)と不安(①あり)からなる組と合わせる。
    B 悲惨な労働者の姿((①視覚+②聴覚)+③哀+①直示)と当時の日本の権力(①労働者)という組を、行動のトリガー(②なし)と不安(①あり)からなる組と合わせる。
    C 悲惨な労働者の姿(②聴覚+③哀+①直示)と当時の日本の権力(①労働者)という組を、行動のトリガー(①あり)と不安(①あり)からなる組と合わせる。
    D 悲惨な労働者の姿(②聴覚+①喜+①直示)と当時の日本の権力(①労働者+②権力)という組を、行動のトリガー(①あり)と不安(②なし)からなる組と合わせる。
    E 悲惨な労働者の姿((①視覚+②聴覚)+①喜+①直示)と当時の日本の権力(①労働者)という組を、行動のトリガー(①あり)と不安(①あり)からなる組と合わせる。

    結果
    表2については、テキスト共生が適用される。

    花村嘉英(2019)「小林多喜二の「蟹工船」の執筆脳について」より

  • 小林多喜二の「蟹工船」で執筆脳を考える-不安障害4

    A 然し「今に見ろ」を百遍繰りかえして、それが何になるか。ストライキが惨めに敗れてから、仕事は「畜生、思い知ったか」とばかりに、過酷になった。それは今までの過酷にもう一つ更に加えられた監督の復仇的な過酷さだった。限度というものの一番極端を越えていた。今ではもう仕事は堪え難いところまで行っていた。 
    意味1 2 意味2 3 意味3 1 意味4 1+2 AI1 1 AI2 1

    B 「間違っていた。ああやって、九人なら九人という人間を、表に出すんでなかった。まるで、俺達の急所はここだ、と知らせてやっているようなものではないか。俺達全部は、全部が一緒になったという風にやらなければならなかったのだ。そしたら監督だって、駆逐艦に無電は打てなかったろう。まさか、俺達全部を引き渡してしまうなんて事、出来ないからな。仕事が、出来なくなるもの」
    意味1 1+2 意味2 3 意味3 1 意味4 1 AI1 2 AI2 1

    C「そうだな」
    「そうだよ。今度こそ、このまま仕事していたんじゃ、俺達本当に殺されるよ。犠牲者を出さないように全部で、一緒にサボルことだ。この前と同じ手で。吃りが云ったでないか、何より力を合わせることだって。それに力を合わせたらどんなことが出来たか、ということも分っている筈だ」
    意味1 2 意味2 3 意味3 1 意味4 1 AI1 1 AI2 1

    D 「それでも若し駆逐艦を呼んだら、皆で―この時こそ力を合わせて、一人も残らず引渡されよう!その方がかえって助かるんだ」
    「んかも知らない。然し考えてみれば、そんなことになったら、監督が第一あわてるよ、会社の手前。代りを函館から取り寄せるのには遅すぎるし、出来高だって問題にならない程少ないし。……うまくやったら、これア案外大丈夫だど」
    「大丈夫だよ。それに不思議に誰だって、ビクビクしていないしな。皆、畜生!ッて気でいる」
    意味1 2 意味2 1 意味3 1 意味4 1+2 AI1 1 AI2 2

    E 「本当のことを云えば、そんな先きの成算なんて、どうでもいいんだ。――死ぬか、生きるか、だからな」 「ん、もう一回だ!」
     そして、彼等は、立ち上った。――もう一度!
    意味1 1+2 意味2 1 意味3 1 意味4 1 AI1 1 AI2 1

    花村嘉英(2019)「小林多喜二の「蟹工船」の執筆脳について」より

  • 小林多喜二の「蟹工船」で執筆脳を考える-不安障害3

    3 データベースの作成・分析

     データベースの作成法について説明する。エクセルのデータについては、列の前半(文法1から意味5)が構文や意味の解析データ、後半(医学情報から人工知能)が理系に寄せる生成のデータである。一応、L(受容と共生)を反映している。データベースの数字は、もちろん登場人物を動かしながら考えている。
     こうしたデータベースを作る場合、共生のカラムの設定が難しい。受容は、それぞれの言語ごとに構文と意味を解析し、何かの組を作ればよい。しかし、共生は、作家の知的財産に基づいた脳の活動が問題になるため、作家ごとにカラムが変わる。

    【データベースの作成】 表1 「蟹工船」のデータベースのカラム
    文法1 名詞の格 鴎外の助詞の使い方を考える。
    文法2 ヴォイス 能動、受動、使役。
    文法3 テンス、アスペクト 現在、過去、未来、進行形、完了形。
    文法4 モダリティ 様相の表現。可能、推量、義務、必然。
    意味1  五感 視覚、聴覚、味覚、嗅覚、触覚。
    意味2 喜怒哀楽 情動との接点。瞬時の思い。
    意味3  振舞い ジェスチャー、身振り。直示と隠喩を考える。
    意味4 行動・意欲 ある、なし
    医学情報 病跡学との接点 受容と共生の共有点。構文や意味の解析から得た組「情動と尊敬の念」と病跡学でリンクを張るためにメディカル情報を入れる。
    記憶 短期、作業記憶、長期(陳述と非陳述) 作品から読み取れる記憶を拾う。長期記憶は陳述と非陳述に分類される。
    情報の認知1 感覚情報の捉え方 感覚器官からの情報に注目するため、対象の捉え方が問題になる。例えば、ベースとプロファイルやグループ化または条件反射。
    情報の認知2 記憶と学習 外部からの情報を既存の知識構造に組み込む。その際、未知の情報についてはカテゴリー化する。学習につながるため。記憶の型として、短期、作業記憶、長期(陳述と非陳述)を考える。
    情報の認知3 計画、問題解決、推論 受け取った情報は、計画を立てるときにも役に立つ。目的に応じて問題を分析し、解決策を探っていく。獲得した情報が完全でない場合、推論が必要になる。
    人工知能 行動のトリガー エキスパートシステム 味や目的を持った行動の動機や行動を制御する意志や欲求からなる積極的な精神作用。
    人工知能 不安障害 エキスパートシステム ストレスの強さが問題なのではなく、性格や経験により構築された考え方、物事の捉え方が原因といえる。

    花村嘉英(2019)「小林多喜二の「蟹工船」の執筆脳について」より