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  • 川端康成の「雪国」の多変量解析-クラスタ分析と主成分2

    2 「雪国」の執筆脳は認知発達

     「雪国」の購読脳を「無と創造」という組にする。無については、川端(1979)の中で高田瑞穂が次のように定義している。
     無は、孤児として育った川端の原点ともいえる感情であり、あらゆる存在よりも広くて大きい自由な実在である。無とはこの青空よりも大きい見たこともない父母に通じ、愛と死が融けあって康成の文学が誕生した。特に、雪国の中では、無が愛と組になると止揚の暗示、つまり愛情となり、愛と死が組になれば、天井へ飛躍したり、時には地下へ埋没する。二つの矛盾対立する概念は、止揚により相互に否定し合いながら、双方を包むより高次の統一体へ発展していく。
     また、創造についても、川端が作品を書きながら、動物の生命や生態をおもちゃにして、一つの理想の鋳型を定め、人工的に畸形的に育てているとする。「雪国」の中では、島村がふと思い、呟き、動く存在で、駒子については指で覚えている女、葉子も眼に火がついてる女として繰り返されるところに康成の創造がある。
     共生の読みのゴールは、「無と創造」という購読脳の出力が入力となり、リレーショナルなデータベースを作成しながら、一文一文をLに読むと次第に見えてくる。人工知能の世界でいう何がしとか健常者の脳の活動でいう何がしということがつかめればよい。イメージとして、まだ知識のない人工知能が特定の目的を意識して次第に育っていく感じがよい。そう考えると、人間に見たてて川端と組みが作れそうである。
     花村(2018)では、購読脳の「無と創造」という出力が、人工知能の認知発達で目的達成となるかどうかを問題にした。また、人工感情と組になりそうな情報の認知1のセカンドのカラムとして顔の表情を設定し、(1)の公式を考えた。

    (1)「無と創造」(購読脳の出力)→「(五感)情報の認知1と顔の表情」→「人工感情」→「認知発達」

     同時にデータベースを作成しながら(1)を確認し、川端康成の執筆脳について「川端と認知発達」というシナジーのメタファーを考察した。

    花村嘉英(2019)「川端康成の「雪国」の多変量解析-クラスタ分析と主成分」より

  • 川端康成の「雪国」の多変量解析-クラスタ分析と主成分1

    1 先行研究との関係

     これまでに、「雪国」の執筆脳を感情として、「川端康成と認知発達」というシナジーのメタファーを作成している。(花村2018)この小論では、さらに多変量解析に注目し、クラスタ分析と主成分について考察する。それぞれの場面で川端康成の執筆脳がデータベースから異なる視点で分析できれば、自ずと客観性は上がっていく。

    花村嘉英(2019)「川端康成の「雪国」の多変量解析-クラスタ分析と主成分」より

  • 心理学統計の検定を用いて川端康成の「雪国」を考える7

    3 まとめ

     川端康成の「雪国」に登場する男と女についてデータベースから心理学統計による人物評価をしてみると、採択した場面については、驚きの度合に関して差がないことが分かった。

    参考文献

    川端康成 雪国 講談社文庫 1979
    花村嘉英 計算文学入門-Thomas Mannのイロニーはファジィ推論といえるのか? 新風社 2005
    花村嘉英 从认知语言学的角度浅析鲁迅作品-魯迅をシナジーで読む 華東理工大学出版社 2015
    花村嘉英 日语教育计划书-面向中国人的日语教学法与森鸥外小说的数据库应用 日本語教育のためのプログラム-中国語話者向けの教授法から森鴎外のデータベースまで 南京東南大学出版社 2017
    花村嘉英 从认知语言学的角度浅析纳丁・戈迪默-ナディン・ゴーディマと意欲 華東理工大学出版社 2018
    花村嘉英 シナジーのメタファーの作り方-トーマス・マン、魯迅、森鴎外、ナディン・ゴーディマ、井上靖 中国日语教学研究会上海分会論文集 2018  
    花村嘉英 川端康成の「雪国」に見る執筆脳について-「無と創造」から「目的達成型の認知発達」へ 中国日语教学研究会上海分会論文集 2019    
    花村嘉英 社会学の観点からマクロの文学を考察する-危機管理者としての作家について 中国日语教学研究会上海分会論文集 2020
    花村嘉英 川端康成の「雪国」のデータベース 2017

  • 心理学統計の検定を用いて川端康成の「雪国」を考える6

    1 最初は驚きの度合に差がないと予測する。平均値を取ると、島村1.4と1.6、葉子1.4、駒子は0.2になる。この差は誤差の可能性がある。
    2 具体度の1、2は独立変数であり、それにともなう驚きの度合は、従属変数になる。
    3 独立変数そのものの1、2が要因で、独立変数の実際の値である驚きの度合が水準になる。
    4 ここでは、どちらの水準も同じ標本からデータを集めているため、具体度という要因は、参加者内要因になる。
    5 得られた有意確率(p値)を有意水準と比較する。危険率は通常5%未満のため、ここではt検定を採用する。  
    6 t検定では、二つの平均の差を表す統計量(t値)、データの規模を表す自由度(df)、p値(p-value)を報告する。
    [不安度のt検定]
    島村1.5 、女平均0.8、よってt値=0.7。
    自由度は、独立した標本の個数から1引いたものである。よってdf=8。
    p値は0.2にする。ここでは5%未満のため、帰無仮説を採用し有意な差がないとする。

    花村嘉英(2019)「心理学統計の検定を用いて川端康成の『雪国』を考える」より

  • 心理学統計の検定を用いて川端康成の「雪国」を考える5

    島村と葉子の驚き
    「なにがおかしいんだ。」「だって、私は一人の人しか看病しないんです。」
    「え?」「もう出来ませんの。」
    「そうか。」と、島村はまた不意打ちを食わせて静かに言った。驚き度島村2 驚き度葉子1

    「毎日君は蕎麦畑の下の墓にばかり参ってるそうだね。」
    「ええ。」「一生のうちに、外の病人を世話することも、外の人の墓に参ることも、もうないと思ってるのか?」「ないわ。」驚き度島村2 驚き度葉子1

    「それに墓を離れて、よく東京へ行けるね?」
    「あら、すみません。連れて行って下さい。」
    「君は恐ろしいやきもち焼きだって、駒子が言ってたよ。あの人は駒子のいいなずけじゃなかったの?」
    驚き度島村2 驚き度葉子2

    「行男さんの?嘘、嘘ですよ。」「駒子が憎いって、どういうわけだ。」
    「駒ちゃん?」と、そこにいる人を呼ぶかのように言って、葉子は島村をきらきら睨んだ。「駒ちゃんをよくしてあげて下さい。」驚き度島村1 驚き度葉子2

    「僕はなんにもしてやれないんだよ。」葉子の目頭に涙が溢れて来ると、畳に落ちていた小さい蛾を掴んで泣きじゃくりながら、「駒ちゃんはわたしが気ちがいになると言うんです。」と、ふっと部屋を出て行ってしまった。驚き度島村1 驚き度葉子1

    花村嘉英(2019)「心理学統計の検定を用いて川端康成の『雪国』を考える」より

  • 心理学統計の検定を用いて川端康成の「雪国」を考える4

    2.3 「雪国」の驚きの度合

     「雪国」は、都会の人島村と温泉芸者の駒子や車中で出会った少女葉子とが織りなす雪国での生活ぶりが描かれている。ここでは、この小論の研究テーマ、性別による驚きの度合の違いについて、作成したデータベースを基に考察していく。

    解答 性別による驚きの度合
    具体度1
    三曲目に都鳥を弾きはじめた頃は、その曲の艶な柔らかさのせいもあって、島村はもう鳥肌たつような思いは消え、温かく安らいで、駒子の顔を見つめた。そうするとしみじみ肉体の親しみが感じられた。
    驚き度島村1 驚き度駒子0

    細く高い鼻は少し寂しいはずだけれども、頬が生き生きと上気しているので、私はここにいますという囁きのように見えた。驚き度島村1 驚き度駒子0

    あの美しく血の滑らかな脣は、小さくつぼめた時も、そこに写る光をぬめぬめ動かしているようで、そのくせ唄につれて大きく開いても、また可憐にすぐ縮まるという風に、彼女の体の魅力そっくりであった。
    驚き度島村2 驚き度駒子0

    粉はなく、都会の水商売で透き通ったところへ、山の色が染めたとでもいう、百合か玉葱みたいな球根を剥いた新しさの皮膚は、首までほんのり血の色が上がっていて、なによりも清潔だった。
    驚き度島村2 驚き度駒子0

    しゃんと坐り構えているのだが、いつになく娘じみて見えた。最後に、今稽古中のをと言って、譜を見ながら新曲浦島を引いてから、駒子は黙って撥を糸の下に挟むと、身体を崩した。
    驚き度島村1 驚き度駒子1

    花村嘉英(2019)「心理学統計の検定を用いて川端康成の『雪国』を考える」より

  • 心理学統計の検定を用いて川端康成の「雪国」を考える3

    2.2 実験計画

    【研究テーマ】
    質問 性別による驚きの度合の違い。
    帰無仮説 男性と女性とで驚きの度合に差がない。
    対立仮説 男性と女性とで驚きの度合に差がある。
    【実験計画】
    独立変数 実験や調査をする人が仮説を検証するために使用する変数。原因と結果でいうと原因である。
    従属変数 独立変数の操作に応じて変化すると考えられる変数。原因と結果でいうと結果である。
    【要因と水準】
    要因 実験者が使用する変数。独立変数そのもの。
    水準 実験者が使用する種類。独立変数が実際にとる値。
    【参加者間要因と参加者内要因】
    参加者間要因 水準のデータが異なる標本から集められる場合。
    参加者内要因 水準のデータが同じ標本から集められる場合。
    【有意確率】
    帰無仮説を前提としたときに、誤差から偶然ある程度の差が標本に生じる確率のこと。危険率とかP値という。また、誤差には、本当はないのに誤って誤差があるとする第一種と誤差があるのに誤っていないとする第二種とがある。実吉(2013)では、5%水準を基準にしている。

    花村嘉英(2019)「心理学統計の検定を用いて川端康成の『雪国』を考える」より

  • 心理学統計の検定を用いて川端康成の「雪国」を考える2

    2.1 有意性検定

     科学では全般的に仮説を立てて検証する方法が使われる。実吉(2013)によると、検定では仮説を立てて成り立つかどうか作ったデータから決めていく。検定の対象は、そこに有意性の差があるのかどうかである。例えば、男女で不安度に差があるのかどうか、高齢者と成人とで記憶の範囲に差があるのかどうか。こうした問題に対してデータを集めながら検定すると、解答が見えてくる。

    【検定の流れ】
    帰無仮説と対立仮説を立てる → 独立変数と従属変数を具体的に決め、実験計画を立てる → データを取る → 実験計画に応じた統計検定を行う → 得られた有意確率(p値)を有意水準と比較する → 帰無仮説の棄却、採択を決定する

     ここで、帰無仮説とは、比較する数値の間に差がないという仮説である。一方、対立仮説は比較する数値間に差があるとする仮説である。検定では、まず帰無仮説が正しいことを前提に検討され、帰無仮説が成り立たなければ、それを棄てて対立仮説に移り、差があるという結論にする。つまり、背理法による命題の証明である。

    花村嘉英(2019)「心理学統計の検定を用いて川端康成の『雪国』を考える」より

  • 心理学統計の検定を用いて川端康成の「雪国」を考える1

    1 先行研究との関係

    データベースを作成ながら購読脳と執筆脳を分析するシナジーのメタファーの研究も次第に安定してきている。これまでにバランスの調節のための二個二個のルールに基づき多くの組み合わせを作ってきた。統計についても、バラツキ、相関関係、多変量分析と進み、今回の心理学統計を含めれば、バラツキと相関、多変量と心理という組み合わせができる。この小論では、実吉(2013)の心理学統計の検定の手法に従い、川端康成の「雪国」を題材にして男女の驚きの度合について考えていく。 

    2 心理学統計

    心理学統計では、心の働きを数値化しながら客観性を計り、集計や分析を試みる。心を測定する時は、様々な要因がデータに含まれるため、データには誤差が付き物である。そのため、統計学により誤差を取り除き真の値を求めていく必要がある。そうすると、限られた人数のデータから人間一般に共通する心の働きも推測可能になる。

    花村嘉英(2019)「心理学統計の検定を用いて川端康成の『雪国』を考える」より

  • 心理学統計の検定を用いて森鴎外の「山椒大夫」を考える7

    3 まとめ

     森鴎外の「山椒大夫」に登場する男と女についてデータベースから心理学統計による人物評価をしてみると、分析対象の場面に関して満足度に差がないことが分かった。

    参考文献

    実吉綾子 心理学統計入門 技術評論社 2013
    花村嘉英 シナジーのメタファーの作り方-トーマス・マン、魯迅、森鴎外、ナディン・ゴーディマ、井上靖 中国日语教学研究会上海分会論文集 2018
    花村嘉英 森鴎外の「山椒大夫」のデータベース 2015
    森鴎外 山椒大夫 角川文庫 1995