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  • シュテファン・ツヴァイクの「Angst」で執筆脳を考える-不安障害12

    A 情報の認知1は②グループ化、情報の認知2は②新情報、情報の認知3は②問題未解決から推論へ、人工知能は①多層である。 
    B 情報の認知1は③その他の反応、情報の認知2は②新情報、情報の認知3は②問題未解決から推論へ、人工知能は①多層である。
    C 情報の認知1は③その他の反応、情報の認知2は②新情報、情報の認知3は②問題未解決から推論へ、人工知能は①多層である。
    D 情報の認知1は③その他の反応、情報の認知2は②新情報、情報の認知3は②問題未解決から推論へ、人工知能は①多層である。 
    E 情報の認知1は②グループ化、情報の認知2は②新情報、情報の認知3は①計画から問題解決へ、人工知能は①多層である。   
       
    結果
     言語の認知の出力「不安と恐怖」が情報の認知の入力となり、まず何かに反応する。次に、その反応が情報の認知で新情報となり、結局、この場面では、問題未解決のままだが推論が続き、「不安と恐怖」が「自我とパーソナリティ」からなる組みと相互に作用している。 

    花村嘉英(2021)「シュテファン・ツヴァイクの「Angst」の執筆脳について-不安障害」より

  • シュテファン・ツヴァイクの「Angst」で執筆脳を考える-不安障害11

    【連想分析2】
    表3 情報の認知

    A 表2と同じ。情報の認知1 2、情報の認知2 2、情報の認知3 2
    B 表2と同じ。情報の認知1 3、情報の認知2 2、情報の認知3 2
    C 表2と同じ。情報の認知1 3、情報の認知2 2、情報の認知3 2
    D 表2と同じ。情報の認知1 3、情報の認知2 2、情報の認知3 2
    E 表2と同じ。情報の認知1 2、情報の認知2 2、情報の認知3 1

    分析例 
    (1)「Angst」執筆時のシュテファン・ツヴァイクの脳の活動を「自我とパーソナリティ」と考えている。彼の文体は、我々の最も内なる自我を放棄しないように警告する人の心得と見なされる。  
    (2)情報の認知1(感覚情報)
    このプロセルのカラムの特徴は、①ベースとプロファイル、②グループ化、③その他の反応である。 
    (3)情報の認知2(記憶と学習)
    このプロセルのカラムの特徴は、①旧情報、②新情報である。
    (4)情報の認知3(計画、問題解決)  
    このプロセルのカラムの特徴は、①計画から問題解決へ、②問題未解決から推論へ、である。   
    (5)人工知能1 執筆脳を「自我とパーソナリティ」としているため、自我の表出が重要になり、そこに専門家としての調節が効力を発揮する。①自我、②パーソナリティ、③その他。

    花村嘉英(2021)「シュテファン・ツヴァイクの「Angst」の執筆脳について-不安障害」より

  • シュテファン・ツヴァイクの「Angst」で執筆脳を考える-不安障害10

    分析例
    (1)イレーネがすすり泣く。耐えられないことで緊張し、神経が擦り切れ、苦痛で体には感覚がなかった。 
    (2)ここでは、「不安」の執筆脳を「自我とパーソナリティ」と考えているため、意味3の思考の流れは、自我に注目する。
    (3)意味1 1視覚、2聴覚、3味覚、4嗅覚、5触覚、意味2 喜怒哀楽、意味3 心像 1あり2なし、意味4振舞いの1直示と2隠喩。
    (4)人工知能 ①自我、②パーソナリティ  
    テキスト共生の公式
    (1)言語の認知による購読脳の組み合わせを「不安と恐怖」にする。
    (2)文法や意味には、一応ダイナミズムがある。連想分析1の各行の「不安と恐怖」を次のように特定する。
      
    A不安と恐怖=②聴覚+③哀+①あり+①直示という解析の組を、①自我+②パーソナリティという組と合わせる。   
    B不安と恐怖=②聴覚+③哀+①あり+①直示という解析の組を、①自我+②パーソナリティという組と合わせる。     
    C不安と恐怖=⑤触覚+③哀+①あり+①直示という解析の組を、①自我+②パーソナリティという組と合わせる。     
    D不安と恐怖=①視覚+③哀+①あり+②隠喩という解析の組を、①自我+②パーソナリティという組と合わせる。
    E不安と恐怖=①視覚+③哀+①あり+①直示という解析の組を、①自我+②パーソナリティという組と合わせる。
     
    結果 上記場面は、「不安と恐怖」という購読脳の条件を満たしている。

    花村嘉英(2021)「シュテファン・ツヴァイクの「Angst」の執筆脳について-不安障害」より

  • シュテファン・ツヴァイクの「Angst」で執筆脳を考える-不安障害9

    【連想分析1】
    表2 言語の認知(文法と意味)

    A "Irene", beruhigte er, "Irene, Irene", immer leiser, immer beschwichtigender den Namen sprechend, als könnte er den verzweifelten Aufruhr der gekrampften Nerven durch die immer zärtlichere Töning des Wortes glätten. Aber nur Schluchzen antwortete ihm, wilde Stöße, Wogen von Schmerz, die den ganzen Körperdurchrollten. Er führte, er trug den zuckenden Körper zum Sofa und bettete ihn hin.
    意味1 2、意味2 3、意味3 1、意味4 1、人工知能 1

    B Aber das Schluchzen wurde nicht still. Wie mit elektrischen Schlägen schüttelte der Weinkramp die Glieder, Wellen von Schauer und Kälter schienen den gefolterten Leib zu überrinnen. Seit Wochen auf das Unerträglichste gespannt, waren die Nerven nun zerrissen, und fessellos tobte die Qual durch den fühllosen Leib.
    意味1 2、意味2 3、意味3 1、意味4 1、人工知能 1

    C Er hielt in höchster Erregung ihren durchschauerten Körper, faßte die kalten Hände, küßte, zuerst beruhigend und dann wild, in Angst und Leidenschaft, ihr Kleid, ihren Nacken, aber da Zucken fuhr immer wie ein Riß über die hingekauerte Gestalt, und von innen rollte die aufstürzende, endlich entfesselte Welle des Schulchzens empor. 意味1 5、意味2 3、意味3 1、意味4 1、人工知能 1

    D Er fühlte das Gesicht an, das kühl war, von Tränen gebadet, und spürte die hämmernden Adern an den Schläfen. Eine unsägliche Angst überkam ihn. Er kniete hin, näher zu ihrem Antlitz zu sprechen.
    意味1 1、意味2 3、意味3 1、意味4 2、人工知能 1

    E "Irene", immer wieder faßte er sie an, "warum weinst du…Jetzt…jetzt ist doch alles vorbei…Warum quälst du dich noch…Du mußt dich nicht ängstigen mehr…Sie wird nie mehr kommen, nie mehr…"
    意味1 1、意味2 3、意味3 1、意味4 1、人工知能 1

    花村嘉英(2021)「シュテファン・ツヴァイクの「Angst」の執筆脳について-不安障害」より

  • シュテファン・ツヴァイクの「Angst」で執筆脳を考える-不安障害8

    4 データベースの作成・分析

     データベースの作成方法について説明する。エクセルのデータについては、列の前半(文法1から意味5)が構文や意味の解析データ、後半(医学情報から人工知能)が理系に寄せる生成のデータである。一応、L(受容と共生)を反映している。データベースの数字は、登場人物を動かしながら考えている。
     こうしたデータベースを作る場合、共生のカラムの設定が難しい。受容はそれぞれの言語ごとに構文と意味を解析し、何かの組を作ればよい。しかし、共生は作家の知的財産に基づいた脳の活動が問題になるため、作家ごとにカラムが変わる。 

    【データベースの作成】
    表1 「Angst」のデータベースのカラム
    文法1 態 能動、受動、使役。
    文法2 時制、相 現在、過去、未来、進行形、完了形。
    文法3 様相 可能、推量、義務、必然。
    意味1  五感 視覚、聴覚、味覚、嗅覚、触覚。
    意味2  喜怒哀楽 喜怒哀楽と記事なし。 
    意味3  振舞い ジェスチャー、身振り。直示と隠喩を考える。
    意味4 自我 あり、なし。
    医学情報 病跡学との接点 受容と共生の共有点。構文や意味の解析から得た組「不安と恐怖」と病跡学でリンクを張るためにメディカル情報を入れる。 
    記憶 短期、作業記憶、長期(陳述と非陳述) 作品から読み取れる記憶を拾う。長期記憶は陳述と非陳述に分類される。
    情報の認知1 感覚情報の捉え方 感覚器官からの情報に注目するため、対象の捉え方が問題になる。
    情報の認知2 記憶と学習 外部からの情報を既存の知識構造へ組み込む。この新しい知識は、既存の情報と共通する特徴があり、未知の情報は、カテゴリー化される。このプロセスは、経験を通した学習になる。記憶の型として、短期、作業記憶、長期(陳述と非陳述)を考える。
    情報の認知3 計画、問題解決、推論 受け取った情報は、計画を立てるときにも役に立つ。目的に応じて問題を分析し、解決策を探っていく。獲得した情報が完全でない場合、推論が必要になる。
    人工知能 自我とパーソナリティ
    エキスパートシステム 自我とは、イドから発する衝動を外界の現実に従わせるように働く。パーソナリティとは、性格とほぼ同義で、特に個人の統一的な持続する特性のこと。

    花村嘉英(2021)「シュテファン・ツヴァイクの「Angst」の執筆脳について-不安障害」より

  • シュテファン・ツヴァイクの「Angst」で執筆脳を考える-不安障害7

     通知が来なくなって4日経った。(Nun waren es schon vier Tage, dass die Person sich nicht gemeldet hatte.)恐喝の手紙を受け取るという不安は、金の支払により夕べの安らぎを買うことになった。ベルの呼び出しでドアを開けると、驚いたことにそこには醜い顔の恐喝女ワーグナー夫人(das verhasste Gesicht der Erpresserin Frau Wagner)がいた。すぐに片付くとして厚かましくも家の中に入ってくる。何がほしいのか。ワーグナー夫人は、金が必要である。400クローネ。(Sie braucht vierhundert Kronen.)イレーネ夫人は、金がないといい、代わりに婚約指輪を渡す。夫には指輪を掃除に出しているという。(Frau Irene kann nicht. Dier Person sah sie an, von oben bis unten, als wollte sie sie abschaetzen. Zum Beispiel der Ring da. Sie hat deinen Ring zum Putzen gegeben.)外に出てあたりを見回しても誰にも会わない。通りの反対方向から夫の視線を感じた。
     かつての愛人の家の前に来た。イレーネは、喜びで体が震えた。愛人が鍵を開けてドアが開いた。彼に助けを求めるも幻想にとりつかれ荒れ狂う。外に出ると辺りは暗く、夫と思われる人がいても追いかけるには不安があった。彼の姿が影に消えた。薬局で夫に出会う。通りで見た男である。顔は青白く、額に汗をかいている。(Sein Gesicht war fahl, und auf der Stirn funkelte ihm feuchter Schweiss.)通りを並んで歩く。部屋に入り二人は黙っている。夫が優しく接近する。突然イレーネがすすり泣く。耐えられないことで数週間緊張し、神経が擦り切れ苦痛で体には感覚がなかった。(Seit Wochen auf das Unertraeglichste gespannt, waren die Nerven nun zerrissen, und fessellos tobte die Qual durch den fuehllosen Leib.)もう心配することはない、すべてが終わったと夫はいう。(Jetzt ist doch alles vorbei. Du musst dich nicht aengstigen mehr.)イレーネにキスして愛撫する。
     翌朝目を覚ますと部屋のなかは明るく雷雨が去ったようである。何が起こったのか思い出だそうとする。(Sie versuchte sich zu besinnen, was ihr geschehen war, aber alles schien ihr noch Traum.)驚いたことに、指には指輪があり、思考と嫌疑がかみ合って全てのことが理解できた。(An ihrem Finger funkelte der Ring. Mit beinem Male war sie ganz wach.)夫の質問、愛人の驚き、全ての縫い目が巻き戻った。(die Frage ihres Mannes, das Erstaunen ihres Liebhabers, alles Maschen rollten sich auf.)微笑みが彼女の唇に現れ、何が自分の幸福なのかを深く享受するために目を閉じて横になった。(Mit geschlossenen Augen lag sie, um all dies tiefer zu geniessen, was ihr Leben war und nun auch ihr Glueck.)
     シュテファン・ツヴァイクの「Angst」の不安は、第一次世界大戦前夜のヨーロッパにあった日常のものである。イレーネの症状は、疲れやすく集中できず、緊張して眠れないという全般性の不安障害の診断項目に該当し、また、動悸・息切れがする、吐き気がする、不快感があるといったパニック障害の診断項目も確認できるため、購読脳は、「不安と恐怖」にする。「不安と恐怖」が入力になる「Angst」の執筆脳は、「自我とパーソナリティ」である。双方をマージした際のシナジーのメタファーは、「シュテファン・ツヴァイクとストレス反応」にする。

    花村嘉英(2021)「シュテファン・ツヴァイクの「Angst」の執筆脳について-不安障害」より

  • シュテファン・ツヴァイクの「Angst」で執筆脳を考える-不安障害6

    3.2 不安障害

     8年間の結婚生活は、イレーネにとって幸福の振り子が快適に揺れる時間で、子供を授かり我家も得た。しかし、彼女の不安が心の小部屋に入口を見出そうと、小さな思い出を内気なハンマーで叩く。3日間イレーネは家から出なかった。8年間の結婚生活より長い時間である。(Drei Tage hatte sie nun das Haus nicht verlassen. Diese drei Tage im Kerker der Zimmer schienen ihr laenger als die acht Jahre ihrer Ehre.)3日目の晩、彼女は夢を見た。どこへ行っても恐喝女が彼女を待ち伏せし、家に戻れば夫がナイフを振り上げる。助けを求める。夫がベッドの縁に座って彼女を病人のように見る。叫んだからである。強い不安感に襲われているため不安障害の症状が出ている。
     イレーネは、どうやら自分の感情に捕らわれて不安を生み出す性格のようである。次の日、昼食中に女中が手紙を持って来た。(Am nechsten Tage, als sie gemeinsam beim Mittagessen sassen – brachte das Dienstmaedchen einen Brief. )封を開けると、持参者にすぐ100クローネを渡すように3行で書いてある。日付も署名もない。Der brief war kurz. Drei Zeilen: “Bitte, geben Sie dem Ueberbringer dieses sofort hundert Kronen.” Keine Unterschrift, kein Datum.)封筒に紙幣を折り畳んで玄関で待機している配達人に渡す。躊躇することなく催眠術にかかったように。恐ろしい不快感、見たこともない夫の視線が気になった。心の奥が震えているのを感じる。これもまた強い不安感に襲われている不安障害の症状である。幸運なことに昼食は、すぐに終わった。また、手紙を暖炉の中に投げ入れ、気持ちは落ち着いた。一応心のコントロールはできている。
     次の日にまたメモ書きが届く。今度は200クローネの請求である。次第に額が増えていく。イレーネは、不安から動悸がし手足が疲れて眠れない。やはり不安障害の症状である。夫は、彼女を病人のように扱うようになった。
     おばさんが数日前に少年に色とりどりの子馬を贈った。年下の少女は羨ましい。次の日突然馬は消え、偶然に細かく切られてストーブの中で見つかった。勿論少女に嫌疑がかかる。最初は否定していた彼女も兄弟を傷つけたことを問われると、泣いて詫びる。イレーネの夫は、自分の罪だと認識したことがよいことだという。

    花村嘉英(2021)「シュテファン・ツヴァイクの「Angst」の執筆脳について-不安障害」より

  • シュテファン・ツヴァイクの「Angst」で執筆脳を考える-不安障害5

    表2 ストレス反応の経路
    ・ストレッサーから大脳皮質 ストレッサーを受けると人間の脳の一番外側にある大脳皮質で刺激をキャッチする。
    ・扁桃体から視床下部 喜怒哀楽や快不快といった情動を認識し、情動や理性的な判断や思考を行う前頭葉を経て、脳幹に位置し、自律神経と内分泌を支配する司令塔である。ここに情報が伝達されると、副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン(CRH)が放出される。
    ・内分泌系(HPA) CRHにより刺激された脳下垂体から副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)が産生放出される。これが副腎皮質に到達すると、コルチゾールが分泌される。コルチゾールは、代謝や免疫機能を活性化し、短期的なストレス状態にうまく適応する。
    ・自律神経系(SAM) CRHが放出され自律神経が刺激されると、交感神経に受け継がれ、ノルアドレナリンが分泌され、刺激を受けた副腎髄質からはアドレナリンやノルアドレナリンが分泌される。血管の収縮、血圧上昇、心拍数の増加などを促す。
    ・免疫系  ストレッサーが作用したり異物が体内に侵入することにより、多くの段階の免疫システムを稼働させ、それに抵抗しようとする。

    花村嘉英(2021)「シュテファン・ツヴァイクの「Angst」の執筆脳について-不安障害」より

  • シュテファン・ツヴァイクの「Angst」で執筆脳を考える-不安障害4

     小説の冒頭でイレーネ夫人は、入ってくる女性と強くぶつかった。女は、イレーネが手にした財布や通帳を見て、「哀れな奴」(Luder)と呟く。イレーネは、車の中で吐き気がして喉に苦いものが登ってきた。(Immer staerker wurde das Ubelkeitsgefuehl, immer hoeher klomm es in die Kehl.)エネルギーを一つにまとめ、超人的に努力していくつもの道を先に進み、家に辿り着く。食堂に入ると夫フリッツがテーブルで新聞を読んでいる。帽子を取らないイレーネにとてもイライラしているけど何をしていたのか夫が問いただす。自分の部屋へ行き帽子を取って居間に戻る。問題焦点型のコーピングである。
    しかし、彼女の思考は、恐ろしいほど恐喝女の近くにあった。(Ihre Gedanken kamen in die grauenhafte Naehe der Erpresserin.)ここでイレーネにとって恐喝女は、ストレスフルであり、ストレス反応として情動に変化が見られる。対処法は、愛人への短い手紙である。問題焦点型のコーピングである。
     イレーネは、女の記憶を惑わすために黒い目立たない洋服を着て別の帽子を被った。しかし、喫茶店が近いことが残念であった。(Irene nahm diesmal ein dunkles, unauffaelliges Kleid und einen anderen Hut. Aber fast leid war es ihr, dass die Konditorei so nahe lag.)入っていくと恋人は角に座っていた。静かに声を抑えている。30分話し彼から離れ、予期せぬ成功が自分の顔への好奇心を刺激した。
     イレーネは、ストレス状態にとりあえず適応している。つまり、扁桃体で認識された情動からくる快不快の感情を前頭葉でコントロールし、冷静さを取り戻している。大脳皮質から扁桃体を経て、視床下部に情報が伝達され、内分泌系と自律神経系が相互に影響を及ぼしながらホメオスタシスを保っている。

    花村嘉英(2021)「シュテファン・ツヴァイクの「Angst」の執筆脳について-不安障害」より

  • シュテファン・ツヴァイクの「Angst」で執筆脳を考える-不安障害3

    3 「Angst」のLのストーリー 

    3.1 ストレス反応の経路
     
     不安と恐怖は、危険を察知して身を守るための防御反応として備わっている感情である。しかし、不安は、内側から沸き起こり、恐怖は、事故や災害、人間関係など外的な原因により生まれる。1910年にウィーンで書かれたツヴァイクの「Angst」は、主人公のイレーネ夫人にまつわるストレスの問題が鍵になる。
     片野(2021)によると、ストレスを構成する要素は、ストレッサー、認知的評価、その対処、ストレス反応である。成年期にあるイレーネ夫人が受けたストレッサーは、社会的なものである。人間関係のトラブル、多忙、いじめ、リストラ、家族の死、挫折、失敗、離婚、結婚などがその例になる。周囲から刺激を受けた際、それが有害か否か認知的に評価し、それに対抗してコーピングで刺激を処理する。コーピングには問題焦点型と情動焦点型がある。
     ストレスが有害であると認知した時、一般的に体には不安や怒り、恐怖、焦りといった情動変化がみられる。続いて、動機や冷や汗、鳥肌、震えといった身体変化が現れ、仕事のミスや事故の増加など行動に変化がでる。

    表1 ストレスの認知的評価

    認知的評価               説明
    一次反応 ストレッサーを受けた時にそれが自分にとって有害か無害かの判断をする。例えば、無関係は無害、不可能は有害になる。
    二次反応 ストレスフルと評価されたストレッサーに対し、その状況を処理して切り抜けるために何をすべきか検討する段階である。
    ストレス反応 情動、身体、行動に変化がある。
    コーピング 周囲から刺激を受けた際、それが有害か否か認知的に評価し、それに対して意識的に行動すること。問題焦点型コーピングは、ストレッサーそのものに働きかけ原因を解決し除去する一方、情動焦点型コーピングは、ストレッサーそのものに働きかけずそれに対する考え方や感情を変えようとする。

    花村嘉英(2021)「シュテファン・ツヴァイクの「Angst」の執筆脳について-不安障害」より