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  • Thomas Mannの「魔の山」のデータベース化と推定からの分析3

      3 データベースを作成するフローチャート

    ① 知的財産が自分と近い作家を選択する。
    ② 場面のイメージのDBを作成する。場面が浮かぶように話をまとめる。
    ③ 解析イメージから何かの組を作る。言語解析は構文と意味が対象になる。
    ④ 認知科学のモデルは、Lのプロセス全体に適用される。例、前半は言語の分析、後半は情報の分析。
    ⑤ 場面ごとに問題の解決と未解決を確認する。
    ⑥ 問題解決の場面では、Lに縦横滑ってCに到達後、解析イメージに戻る。問題未解決の場面では、すぐに解析イメージに戻る。
    ⑦ 各分野の専門家が思い描くリスク回避を参考にしながら、作家の執筆時の脳の活動を想定する。
    ⑧ 問題解決の場面を中心にして、テキストの共生について考察する。

    ①、②、③は受容の読みのプロセス、④は認知科学の前半と後半、⑤、⑥は異質のCとのイメージ合わせになり、⑦で作家の脳の活動を探り、⑧でシナジーのメタファーに到達する。DBの作成については、これらが全て収まるようにカラムを工夫すること。

    ①  一文一文解析しながら、選択した作家の知的財産を追っていく。例えば、受容の段階で文体などの平易な読みを想定し、共生の段階で知的財産に纏わる異質のCを探る。この作業は②と③でも行われる。
    ②  場面のイメージが浮かぶような対照表を作る。
    ③  テキストの解析を何れかの組にする。例えば、トーマス・マンは「イロニーとファジィ」、魯迅は「馬虎と記憶」という組にする。組が見つからなければ、①から③のプロセスを繰り返す。
    ④  認知プロセスの前半と後半を確認する。
    ⑤  場面の情報の流れを考える。問題解決と問題未解決で場面を分ける。
    ⑥  問題解決の場面は、異質のCに到達後、解析イメージにリターンする。問題未解決の場面は、すぐに解析イメージにリターンする。こう考えると、システムがスムーズになる。
    ⑦  各分野のエキスパートが思い描くリスク回避と意志決定がテーマである。緊急着陸、救急医療、株式市場、環境問題などから生成イメージにつながるようにリスク回避のポイントを作る。そこから、作家の意思決定を考える。
    ⑧  これにより作家の脳の活動の一例といえるシナジーのメタファーが作られる。「トーマス・マンとファジィ」というシナジーのメタファーは、テキスト共生に基づいた組のアンサンブルであり、文学をマクロに考えるための方法である。

    花村嘉英(2017)「Thomas Mannの「魔の山」のデータベース化と推定による分析」より

  • Thomas Mannの「魔の山」のデータベース化と推定からの分析2

    2 フォーマットL

     上記の「計算文学入門」を書きながら、小説を読んで思うという分析は、縦に言語、文学の流れとなり、続けて横にイロニーに関する情報の分析があることに気がついた。つまり、文型と理系の間にTの逆さで認知科学を想定して、人文科学と縦に二本の柱を作るファーマットを崩して、縦に言語、文学を分析する認知と横に情報を分析する認知と区別することにより、研究のフォーマットをLにシフトした。
     研究のフォーマットのシフトは、また、文学をマクロに考察する場合に役に立つ。一般的に地球規模の研究、文学では、東西南北の国地域の比較を言葉を変えながら作品を分析することがマクロの評価項目の一つである。そこに、伝統的な人文、文化、社会の比較とかシステムとメディカルの比較のみならず、フォーマットLも考慮に入れる。
     フォーマットLを評価項目に加えることにより、通常、ボトムアップだけで実績を作るところに、トップダウンで主の専門以外の系列が零点にならないような調整が必要になってくる。また、技術文の翻訳作業による理系のアイデアの調節も生きてくる。小説に関するLのストーリーを使用してDBを作成する場合、エクセルデータの横のラインがリレーショナルになるように、文系と理系のカラムを設けるためである。理系のカラムを設定するには、何れかの理系の実績が必要になるためである。(花村2015、花村2017、花村2018、花村2022)

    花村嘉英(2017)「Thomas Mannの「魔の山」のデータベース化と推定による分析」より

  • Thomas Mannの「魔の山」のデータベース化と推定からの分析1

    1 自作の入門について

     1989年から1990年代前半にかけて、ドイツのチュービンゲン大学に留学し、意味論を研究した。当時の私の研究テーマは、論理文法で有名なモンターギュ文法を使用したテキスト分析であった。モンターギュ文法は、認知科学の枠組みで言語理論の研究者が、生成文法と組み合わせて構文と意味を解析するために取り組んでいた。
     研究の題材は、トーマス・マンの「魔の山」であり、作品を読みながらドイツ語の構文と意味の解析について分析し、トーマス・マンのイロニーを説明した。しかし、ここで思うことがあった。トーマス・マンのイロニーが理解できるのは、ドイツ語の習得が進んだからであろうか。
     作家が作品を執筆しているときには、当然、何れかの脳の活動がある。トーマス・マンの場合もそれが何かであり、読んで思うイロニーもそこに近づいていくため、内容が理解できると思うようになった。読んで思うトーマス・マンのイロニーは、人工知能でいうファジィ推論に近いことを「魔の山」のいくつかの場面を例にして説明することができた。
     ドイツから帰国後、英日、独日の技術文の翻訳作業に10年余り従事した。文系から寄せて理系のアイデアを調節する機会を得るためである。こうして、2005年、「計算文学入門-Thomas Mannのイロニーはファジィ推論といえるのか?」という研究本を出版することができた。

    花村嘉英(2017)「Thomas Mannの「魔の山」のデータベース化と推定による分析」より

  • シナジーのメタファーのために一作家一作品でできること-トーマス・マン「魔の山」9

    4 相関係数を言葉で表す

     数字の意味を言葉で確認しておく。

    0≦r≦0.2 : ほとんど相関がない
    0.2≦r≦0.4 : やや相関がある
    0.4≦r≦0.7 : かなり相関がある
    0.7≦r≦1 : 強い相関がある

    参考文献

    花村嘉英 計算文学入門-Thomas Mannのイロニーはファジィ推論といえるのか? 新風舎 2005
    花村嘉英 森鴎外の「山椒大夫」のDB化とその分析 中国日语教学研究会江苏分会論文集 2015
    花村嘉英 从认知语言学的角度浅析鲁迅作品-魯迅をシナジーで読む 華東理工大学出版社2015
    花村嘉英 日语教育计划书-面向中国人的日语教学法与森鸥外小说的数据库应用 日本語教育のためのプログラム-中国語話者向けの教授法から森鴎外のデータベースまで  南京東南大学出版社 2017
    花村嘉英 从认知语言学的角度浅析纳丁・戈迪默 ナディン・ゴーディマと意欲 華東理工大学出版社 2018
    花村嘉英 川端康成の「雪国」から見えてくるシナジーのメタファーとは-「無と創造」から「目的達成型の認知発達」へ 中国日语教学研究会上海分会論文集 2019
    前野昌弘 回帰分析超入門 技術評論社 2012
    Thomas Mann Der Zauberberg, Frankfurt a. M., Fischer 1986

  • シナジーのメタファーのために一作家一作品でできること-トーマス・マン「魔の山」8

    計算表
    A 4 1 合計5
    偏差 1.5 -1.5 合計0
    偏差2 2.25 2.25 合計4.5
    B 2 3 合計5
    偏差 0.5 -0.5 合計0
    偏差2 1 1 合計2
    AB偏差の積 -0.75 -0.75 合計-1.5

    ◆相関係数は、次の公式で求めることができる。
    相関係数=[(A-Aの平均値)x(B-Bの平均値)]の和/
    √(A-Aの平均値)2の和x(B-Bの平均値)2の和
    上記計算表を代入すると、
    相関係数 = -1.5/√4.5 x 2 = -1.5/√9 = -1.5/3 = -0.5
    従って、かなり負の相関があるといえる。

    花村嘉英(2019)「シナジーのメタファーのために一作家一作品でできること-トーマス・マン『魔の山』」より

  • シナジーのメタファーのために一作家一作品でできること-トーマス・マン「魔の山」7

    A言語の認知(距離):1近い、2それ以外→3、2
    B情報の認知:1問題解決、2未解決→⒈、4
    ◆A、Bそれぞれの平均値を出す。
    Aの平均:(3 + 2)÷ 2 = 2.5
    Bの平均:(1+4)÷ 2 = 2.5
    ◆A、Bそれぞれの偏差を計算する。偏差=各データ-平均値
    Aの偏差:(3 – 2.5)、(2 – 2.5)= 0.5、-0.5
    Bの偏差:(1 – 2.5)、(4 – 2.5)= -⒈.5、⒈.5
    ◆A、Bの偏差をそれぞれ2乗する。
    Aの偏差2乗 = 2.25、2.25
    Bの偏差2乗 = 0.25、0.25
    ◆AとBの偏差同士の積を計算する
    (Aの偏差)x(Bの偏差)= -0.75、-0.75
    ◆AとBを2乗したものを合計する。
    Aの偏差2乗したものの合計 = 2.25 + 2.25 = 4.5
    Bの偏差2乗したものの合計 = 0.25 + 0.25 = 0.5
    ◆AとBの偏差の合計を合計する。-0.75 -0.75 = -1.5

    花村嘉英(2019)「シナジーのメタファーのために一作家一作品でできること-トーマス・マン『魔の山』」より

  • シナジーのメタファーのために一作家一作品でできること-トーマス・マン「魔の山」6

    イロニー的な距離が近づく場面

    "Sie scheinen überrascht, mich zu sehen, Herr Castorp", hatte er mit baritonaler Milde, schleppend, unbedingt etwa geziert und mit einem exotischen Gaumen-r gesprochen, das er jedoch nicht rollte, sondern durch ein nur einmaliges Anschlagen der Zunge gleich hinter den oberen Vorderzähnen erzeugte.意味2 2、情報の認知3 2

    "ich erfülle aber lediglich eine angenehme Pflicht, wenn ich bei Ihnen nun auch nach dem Rechten sehe. Ihr verhältnis zu uns ist in eine neue Phase getreten, über Nacht ist aus dem Gaste ein Kamerad geworden…" (Das Wort "Kamerad" hatte Hans Castorp etwas geängstigt.)  意味2 1、情報の認知3 2

    "Wer hätte es gedacht!" hatte Dr. Krokowski kameradschaftlich gescherzt… "Wer häte es gedacht an dem Abend, als ich Sie zuerst begrüßen durft und Sie meiner irrigen Auffassung – damals war sie irrig – mit der Erklärung begegneten, Sie seien vollkommen gesund."… 意味2 1、情報の認知3 2

    Und auch heute noch, auch nach dem Verlauf Ihrer Untersuchung, kann ich, wie ich nun einmal bin, und im Unterschied von meinem verstehten Chef, diese feuchte Stelle da"- und er hatte mit der Fingerspitze leicht Hans Castorps Schulter berührt – " nicht als im Vordergrunde des Interesses stehend erachten. Sie ist für mich eine sekundäre Erscheinung…Das Organische ist immer sekundär…"…意味2 1、情報の認知3 2

    "Und also ist Ihr Katarrh in meine Augen eine Erscheinung dritter Ordnung", hatte Dr. Krokowski sehr leicht hinzugefügt. "Wie steht es damit? Die Bettruhe wird in dieser Hinsicht gewiß rasch das Ihre tun. Was haben Sie heute gemessen?" Und von da an hatte der Besuch des Assistenten den Charakter einer harmlosen Kontrollvisite getragen, wie er ihn denn auch in den folgenden Tagen und Wochen beständigt trug.
    意味2 2、情報の認知3 1

    花村嘉英(2019)「シナジーのメタファーのために一作家一作品でできること-トーマス・マン『魔の山』」より

  • シナジーのメタファーのために一作家一作品でできること-トーマス・マン「魔の山」5

    3.2 小説の場面に適用する

     サナトリウムは、午後安静療養の時間になる。バリトンで柔らかい引きずるような異国風の口蓋音rに翌朝があるDr.Krokowskiの話しぶりは、Hans CastorpとJoachim Ziemßenのイロニー的な距離に影響を与える。
    「我々の関係は新しい段階に入ったのです。つまり、あなたは、客人から同胞(Kamerad)になったのです。私の目にはカタルを患っているように見えます」とDr.Krokowskiは説明する。Hans CastorpとJoachim Ziemßenの距離が同胞になったことにより、二人は、同じ病気(カタル)を患う療養所の住民という関係になる。つまり、二人のイロニー的な距離は近づいていく。(花村 2005)
     ここでは、データベースから抽出したカラムは、意味2 距離が1近いと2 それ以外、情報の認知3 1問題解決と2未解決である。

    花村嘉英(2019)「シナジーのメタファーのために一作家一作品でできること-トーマス・マン『魔の山』」より

  • シナジーのメタファーのために一作家一作品でできること-トーマス・マン「魔の山」4

    3 統計処理-相関

    3.1 相関の作り方

     シナジーのメタファーのために作成しているデータベースは、データの種類で見ると、俗に言う測れないカテゴリーデータからなる。数量データといわれる身長、体重、気温、湿度などとは異なり、値が連続ではなく飛び飛びで離散的となる。カテゴリーデータは、対象の性質を表したり、現象や、区別を表したりする。性別、好き、嫌い、うまい、まずい、おもしろいなどあるものの性質や現象が示される。(前野2012)
     相関とは原因から結果が生じ、互いに関係しあっていることをいう。また、相関関係があるとは、ある測定値の変化に対して他の測定値も変化する場合に使われる。相関の強さは、ピアソンの相関係数で表す。合わせて共分散という統計用語が重要となる。

    (1) 共分散の公式
    共分散=[(xの各データ-xの平均値)x(yの各データ-yの平均値)]の和/データ数
       =[(xの偏差)x(yの偏差)]の和/データ数
       = xとyの偏差積の和/データ数

    正の相関があると0より大きく、負の相関があると0より小さくなる。

    (2) 相関係数(ピアソン)
    相関係数=XYの偏差平方和/√(Xの偏差平方和)x(Yの偏差平方和)

    「魔の山」の問題解決の場面を使用して、簡単な例を見てみよう。

    花村嘉英(2019)「シナジーのメタファーのために一作家一作品でできること-トーマス・マン『魔の山』」より

  • シナジーのメタファーのために一作家一作品でできること-トーマス・マン「魔の山」3

    2.2 標準偏差による分析
     
     グループA、グループB、グループC、グループDそれぞれの標準偏差を計算する。その際、場面1、場面2、場面3の特性1と特性2のそれぞれの値は、質量ではなく指標であるため、特性の個数を数えて算術平均を出し、それぞれの値から算術平均を引き、その2乗の和集合の平均を求め、これを平方に開いていく。
    求められた各グループの標準偏差の数字は、何を表しているのだろうか。数字の意味が説明できれば、分析は、一応の成果が得られたことになる。 

    ◆グループA 五感(1視覚と2その他)
    場面1(特性1、5個と特性2、0個)の標準偏差は、0となる。
    場面2(特性1、0個と特性2、5個)の標準偏差は、0となる。
    場面3(特性1、1個と特性2、4個)の標準偏差は、0.4となる。
    【数字からわかること】
    場面1、場面2、場面3を通して、視覚情報に偏りがあるため、「魔の山」は、五感の情報にバラツキがある作品といえる。

    ◆グループB ジェスチャー(1直示と2隠喩)
    場面1(特性1、0個と特性2、5個)の標準偏差は、0となる。
    場面2(特性1、2個と特性2、3個)の標準偏差は、0.49となる。
    場面3(特性1、3個と特性2、2個)の標準偏差は、0.49となる。
    【数字からわかること】
    場面1、場面2、場面3を通して、比喩が多い作品といえる。

    ◆グループC 情報の認知プロセス(1旧情報と2新情報)
    場面1(特性1、1個と特性2、4個)の標準偏差は、0.4となる。
    場面2(特性1、0個と特性2、5個)の標準偏差は、0となる。
    場面3(特性1、1個と特性2、4個)の標準偏差は、0.49となる。
    【数字からわかること】
    場面1、場面2、場面3を通して、新情報の2が多いため、講演の場面は、ストーリーがテンポよく展開していることがわかる。

    ◆グループD 情報の認知プロセス(1問題解決と2未解決)
    場面1(特性1、2個と特性2、3個)の標準偏差は、0.49となる。
    場面2(特性1、2個と特性2、3個)の標準偏差は、0.49となる。
    場面3(特性1、3個と特性2、2個)の標準偏差は、0.49となる。
    【数字からわかること】
    「魔の山」は、場面1、場面2、場面3を通して問題未解決が多いため、時間をかけて調節する時間の小説であることがわかる。

    花村嘉英(2019)「シナジーのメタファーのために一作家一作品でできること-トーマス・マン『魔の山』」より