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  • 小林多喜二の「蟹工船」で執筆脳を考える-不安障害2

    2 小林多喜二(1903-1933)の「蟹工船」のLのストーリー

     「蟹工船」の購読脳を「悲惨な労働者の姿と当時の日本の権力」とし、共生の読みによる五感を交えたメンタルヘルスからの執筆脳を「行動のトリガーとしての意欲と不安」にする。周知のように、プロレタリアと呼ばれる労働者は、劣悪な条件で働き、しかも低賃金を余儀なくされ、過労死や失業転職も日常茶飯事であった。いくら働いても貧困で富を得るのは一部の財閥に決まっており、戦争に行って血を流して死ぬのは労働者であった。帝国主義の戦争は、労働者にとって何の利益ももたらさなかった。
     渡邉(2014)にもあるように、多喜二は、国家権力や財閥に対して次第に怒りと憎悪を覚えるようになる。1928年に行われた普通選挙で労農党の候補を応援した時、共産党への弾圧や国家維持法違反による労農組合員の逮捕を受けて、多喜二は強い憤りを覚えた。
     当然のことながら、心の病との関連を考えることができる。大塚他(2007)によると、心の病気の原因は、一つが生物学的な基盤、即ち、脳や神経伝達物質、ホルモン、遺伝子の異常などに起因する身体的なものであり、また一つが無意識の心理、即ち、生活から生まれる学習理論、個人の認知や思考パターン、人間の価値、罪、決定の自由といった問題を処理する能力、社会や文化の影響などである。前者は身体因による精神の病であり、後者は心因による心の病といえる。
     小林多喜二の場合、心因による心の病が考えられる。何か行動を起こすとき、欲求や衝動が行動の動機づけとなり、意味や目的を持った行動をしようとする意思が働く。行動を制御する意思と欲求を合わせて意欲といい、物事を積極的に行おうとする精神作用のことをいう。出版物も当局の弾圧下にあるため、「蟹工船」の購読脳から執筆脳の信号の流れを刺激に対して過敏に反応する強迫観念による不安障障の併発とする。以下では、「多喜二と積極性故の不安障害」というシナジーのメタファーを考察していく。

    (1) 購読と執筆の信号の流れ
    購読脳「悲惨な労働者の姿と当時の日本の権力」→ 執筆脳「行動のトリガーとしての意欲と不安」、故に「多喜二と不安障害」

    花村嘉英(2019)「小林多喜二の「蟹工船」の執筆脳について」より

  • 小林多喜二の「蟹工船」で執筆脳を考える-不安障害1

    1 先行研究

     文学分析は、通常、読者による購読脳が問題になる。一方、シナジーのメタファーは、作家の執筆脳を研究するためのマクロに通じる分析方法である。基本のパターンは、まず縦が購読脳で横が執筆脳になるLのイメージを作り、次に、各場面をLに読みながらデータベースを作成し、全体を組の集合体にする。そして最後に、双方の脳の活動をマージするために、脳内の信号のパスを探す、若しくは、脳のエリアの機能を探す。これがミクロとマクロの中間にあるメゾのデータとなり、狭義の意味でシナジーのメタファーが作られる。この段階では、副専攻を増やすことが重要である。 
     執筆脳は、作者が自身で書いているという事実及び作者がメインで伝えようと思っていることに対する定番の読み及びそれに対する共生の読みと定義する。そのため、この小論では、トーマス・マン(1875-1955)、魯迅(1881-1936)、森鴎外(1862-1922)の執筆脳に関する私の著作を先行研究にする。また、これらの著作の中では、それぞれの作家の執筆脳として文体を取り上げ、とりわけ問題解決の場面を分析の対象にしている。さらに、マクロの分析について地球規模とフォーマットのシフトを意識してナディン・ゴーディマ(1923-2014)を加えると、“The Late Bourgeois World”執筆時の脳の活動が意欲と組になることを先行研究に入れておく。
     筆者の持ち場が言語学のため、購読脳の分析の際に、何かしらの言語分析を試みている。例えば、トーマス・マンには構文分析があり、魯迅にはことばの比較がある。そのため、全集の分析に拘る文学の研究者とは、分析のストーリーに違いがある。文学の研究者であれば、全集の中から一つだけシナジーのメタファーのために作品を選び、その理由を述べればよい。なおLのストーリーについては、人文と理系が交差するため、機械翻訳などで文体の違いを調節するトレーニングが推奨される。
     なお、メゾのデータを束ねて何やら観察で予測が立てば、言語分析や翻訳そして資格に基づくミクロと医学も含めたリスクや観察の社会論からなるマクロとを合わせて、広義の意味でシナジーのメタファーが作られる。

    花村嘉英(2019)「小林多喜二の「蟹工船」の執筆脳について」より

  • 川端康成の「雪国」の多変量解析-クラスタ分析と主成分10

    6 まとめ 

     データベースの数字を用いてクラスタ解析から得られた特徴を場面ごとに平均、標準偏差、中央値、四分位範囲と考察し、それぞれ何が主成分なのか説明できている。そのため、この小論の分析方法は、既存の研究とも照合ができ、統計による文学分析がさらに研究を濃いものにしてくれている。

    【参考文献】
    片野善夫 ほすぴ162号 知っているようで知らない五感のしくみ-視覚 日本成人病予防協会 2018
    加藤剛 多変量解析超入門 技術評論社 2013
    川端康成 雪国 講談社文庫 1979
    花村嘉英 計算文学入門-Thomas Mannのイロニーはファジィ推論といえるのか?新風舎 2005
    花村嘉英 森鴎外の「山椒大夫」のDB化とその分析 中国日语教学研究会江苏分会 2015
    花村嘉英 从认知语言学的角度浅析鲁迅作品-魯迅をシナジーで読む 華東理工大学出版社2015
    花村嘉英 日语教育计划书-面向中国人的日语教学法与森鸥外小说的数据库应用 日本語教育のためのプログラム-中国語話者向けの教授法から森鴎外のデータベースまで 南京東南大学出版社 2017
    花村嘉英 シナジーのメタファーの作り方-トーマス・マン、魯迅、森鴎外、ナディン・ゴーディマ、井上靖 中国日语教学研究会上海分会論文集 華東理工大学出版社
    花村嘉英 从认知语言学的角度浅析纳丁・戈迪默 ナディン・ゴーディマと意欲 華東理工大学出版社 2018
    花村嘉英 川端康成の「雪国」のデータベース 2018
    花村嘉英 川端康成の「雪国」から見えてくるシナジーのメタファーとは-「無と創造」から「目的達成型の認知発達」へ 中国日语教学研究会上海分会論文集 華東理工大学出版社 2019

  • 川端康成の「雪国」の多変量解析-クラスタ分析と主成分9

    【カラム】
    A平均1.4 標準偏差0.49 中央値1.0 四分位範囲1.0
    B平均1.2 標準偏差0.4 中央値1.0 四分位範囲0
    C平均2.0 標準偏差0 中央値2.0 四分位範囲0
    D平均1.8 標準偏差0.45 中央値2.0 四分位範囲2.0
    【クラスタABとクラスタCD】
    AB 平均1.3低い、標準偏差0.44普通、中央値1.0低い、四分位範囲0.5低い
    CD 平均1.9高い、標準偏差0.22普通、中央値2.0高い、四分位範囲1.0高い
    【クラスタからの特徴を手掛かりにし、どういう情報が主成分なのか全体的に掴む】
    CDの数字がそれぞれ高いため、新情報が次々と繋がり火事の場面を描いている。
    【ライン】合計は、言語の認知と情報の認知の和を表す指標であり、文理の各系列をスライドする認知の柱が出す数字となる。
    ① 6.5、視覚+それ以外、直示、新情報、未解決 → 火事の場面。
    ② 6、視覚、直示、新情報、未解決 → 炎の中に火の舌が見える。 
    ③ 6、視覚、直示、新情報、未解決 → 炎が屋根を抜いて立ちあがる。
    ④ 5.5、視覚+それ以外、直示、新情報、解決 → 繭倉が燃えている。
    ⑤ 6.5、視覚+それ以外、直示、新情報、未解決 → 火事の恐ろしさから島村が駒子を抱く。
    ⑥ 6.5、視覚+それ以外、直示、新情報、未解決 → 駒子は泣きだす。
    ⑦ 6.5、視覚+それ以外、隠喩、新情報、解決 → 駒子泣き止む。繭倉の映画。
    ⑧ 7、視覚以外、直示、新情報、未解決 → けが人が出た。
    ⑨ 6.5、視覚以外、直示、新情報、未解決 → 皆が家事を見ていた 。
    ⑩ 6、視覚、直示、新情報、未解決 → 宿の番頭などが家事を見に来た。
    【場面の全体】
     視覚情報が9割以上あり、脳に届く通常の五感の入力信号の割合よりも多い。火事の場面のため、視覚情報が役に立っている。

    花村嘉英(2019)「川端康成の「雪国」の多変量解析-クラスタ分析と主成分」より

  • 川端康成の「雪国」の多変量解析-クラスタ分析と主成分8

    ◆場面3

    二人は振り向くなり、「火事、火事よ!」「火事だ。」
    火の手が下の村の真中にあがっていた。駒子はなにか二声三声叫んで島村の手をつかんだ。
    A1+2B1C2D2

    黒い煙の巻きのぼるなかに炎の舌が見えかくれした。その火は横に這って軒を舐め廻っているようだった。
    A1B1C2D2

    「どこだ、君が元いたお師匠さんの家、近いんじゃないか。」
    「ちがう。」「どのへんだ。」「もっと上よ。停車場寄りよ。」炎が屋根を抜いて立ちあがった。
    A1B1C2D2

    「あら、繭倉だわ。繭倉だわ。あら、あら、繭倉が焼けてるのよ。」と、駒子は言い続けて島村の肩に頬を押しつけた。「繭倉と、繭倉よ。」A1+2B1C2D1

    火は燃えさかって来るばかりだが、高みから大きい星空の下に見下すと、おもちゃの火事のように静かだった。そのくせすさまじい炎の音が聞こえそうな恐ろしさは伝わって来た。島村は駒子を抱いた。
    A1+2B1C2D2

    「こわいことないじゃないか。」
    「いや、いや、いや。」と、駒子はかぶりを振って泣き出した。その顔が島村の掌にいつもより小さく感じられた。固いこめかみが顫えていた。A1+2B1C2D2

    火を見て泣き出したのだが、なにを泣くのかと島村はいぶかりもしないで抱いていた。駒子は不意に泣きやむと顔を離して、「あら、そうだった、繭倉に映画があるのよ、今夜だわ。人がいっぱいはいっているのよ、あんた…。」A1+2B2C2D1

    「そりゃあ大変だ。」「怪我人が出てよ。焼け死ぬわ。」二人はあわてて石段を駆け登った。
    A2B1C2D2

    上の方で騒ぐ声が聞こえるからだ。見上げると高い宿屋の二階三階も、たいていの部屋が障子をあけた明りの廊下に人が出て火事を見ていた。A1+2B1C2D2

    庭のはずれに並んだ聞くの末枯が宿の燈か星明りかで輪郭を浮かべ、ふと火事が写っていると思わせたが、その菊のうしろにも人が立っていた。二人の顔の上へ宿の番頭などが三四人ころぶように下りて来た。
    A1B1C2D2

    花村嘉英(2019)「川端康成の「雪国」の多変量解析-クラスタ分析と主成分」より

  • 川端康成の「雪国」の多変量解析-クラスタ分析と主成分7

    【カラム】
    A平均1.6 標準偏差0.49 中央値2.0 四分位範囲1.0
    B平均1.2 標準偏差0.4 中央値1.0 四分位範囲0
    C平均2.0 標準偏差0 中央値2.0 四分位範囲0
    D平均1.8 標準偏差0.4 中央値2.0 四分位範囲0
    【クラスタABとクラスタCD】
    AB 平均1.3普通、標準偏差0.44普通、中央値1.5普通、四分位範囲0.5低い
    CD 平均1.9高い、標準偏差0.22普通、中央値2.0高い、四分位範囲0低い
    【クラスタからの特徴を手掛かりにし、どういう情報が主成分なのか全体的に掴む】
    CDの平均と四分位範囲の数字が高いことから、新情報がテンポよく繋がっている。但し、問題解決はここではなく後回し。
    【ライン】合計は、言語の認知と情報の認知の和を表す指標であり、文理の各系列をスライドする認知の柱が出す数字となる。
    ① 5.5、視覚+それ以外、直示、新情報、解決 → 葉子は看病する人ではない。
    ② 4.5、視覚+それ以外、直示、旧情報、解決 → 一人だけ看病する。
    ③ 7.5、視覚+それ以外、隠喩、新情報、未解決 → 駒子はやきもち焼き。
    ④ 6.5、視覚+それ以外、直示、新情報、未解決 → 駒子をよくしてもらいたい。
    ⑤ 6.5、視覚+それ以外、直示、新情報、未解決 → 島村は何もできないという。
    ⑥ 5、視覚、直示、新情報、解決 → 島村内湯に出かける。
    ⑦ 7、視覚以外、直示、新情報、未解決 → 葉子が子供と内湯に来る。
    ⑧ 7、視覚以外、直示、新情報、未解決 → 葉子が内湯で歌う。
    ⑨ 8、視覚以外、隠喩、新情報、未解決 → 葉子の歌は生き生きとしている。
    ⑩ 6.5、視覚+それ以外、直示、新情報、未解決 → 葉子の声が湯上り後も残っている。
    【場面の全体】
     視覚情報の割合が6割りであり、脳に届く通常の五感の入力信号の割合よりも低いため、視覚以外の情報が問題解決に効いている。

    花村嘉英(2019)「川端康成の「雪国」の多変量解析-クラスタ分析と主成分」より

  • 川端康成の「雪国」の多変量解析-クラスタ分析と主成分6

    ◆場面2 葉子が気持ちを打ち明ける

    「なにがおかしいんだ。」
    「だって、私は一人の人しか看病しないんです。」「え?」
    「もう出来ませんの。」
    「そうか。」と、島村はまた不意打ちを食わせて静かに言った。A1+2B1C2D1

    「毎日君は蕎麦畑の下の墓にばかり参ってるそうだね。」「ええ。」
    「一生のうちに、外の病人を世話することも、外の人の墓に参ることも、もうないと思ってるのか?」「ないわ。」A1+2B1C1D1

    「それに墓を離れて、よく東京へ行けるね?」
    「あら、すみません。連れて行って下さい。」
    「君は恐ろしいやきもち焼きだって、駒子が言ってたよ。あの人は駒子のいいなずけじゃなかったの?」
    A1+2B2C2D2

    「行男さんの?嘘、嘘ですよ。」
    「駒子が憎いって、どういうわけだ。」
    「駒ちゃん?」と、そこにいる人を呼ぶかのように言って、葉子は島村をきらきら睨んだ。「駒ちゃんをよくしてあげて下さい。」A1+2B1C2D2

    「僕はなんにもしてやれないんだよ。」葉子の目頭に涙が溢れて来ると、畳に落ちていた小さい蛾を掴んで泣きじゃくりながら、「駒ちゃんはわたしが気ちがいになると言うんです。」と、ふっと部屋を出て行ってしまった。A1+2B1C2D2

    島村は寒気がした。葉子の殺した蛾を捨てようとして窓をあけると、酔った駒子が客を追いつめるるような中腰になって拳を打っているのが見えた。空は曇っていた。島村は内湯に行った。A1B1C2D1

    隣の女湯へ葉子が宿の子をつれて入って来た。着物を脱がせたり、洗ってやったりするのが、いかにも親切なものいいで、初々しく母の甘い声を聞くように好もしかった。そしてあの声で歌いだした。
    A2B1C2D2

    裏へ出て見たれば 梨の樹が三本 杉の樹が三本 みんなで六本
    下から鳥が 巣をかける 上から雀が 巣をかける
    森のなかの螽斯 どういうて囀るんや お杉友達墓参り
    墓参り一丁一丁一丁や A2B1C2D2

    手鞠唄の幼い早口で生き生きとはずんだ調子は、ついさっきの葉子など夢かと島村に思わせた。
    A2B2C2D2

    葉子が絶え間なく子供にしゃべり立てて上がってからも、その声が笛の音のようにまだそこらに残っていそうで、黒光りに古びた玄関の板敷きに片寄せてある、桐の三味線箱の秋の夜更けらしい静まりにも、島村はなんとなく心惹かれて、持ち主の芸者の名を読んでいると、食器を洗う音の方から駒子が来た。
    A1+2B1C2D2

    花村嘉英(2019)「川端康成の「雪国」の多変量解析-クラスタ分析と主成分」より

  • 川端康成の「雪国」の多変量解析-クラスタ分析と主成分5

    【カラム】
    A平均1.4 標準偏差0.49 中央値1.0 四分位範囲1.0
    B平均1.4 標準偏差0.49 中央値1.0 四分位範囲1.0
    C平均1.8 標準偏差0.4 中央値2.0 四分位範囲0
    D平均1.6 標準偏差0.49 中央値2.0 四分位範囲1.0
    【クラスタABとクラスタCD】
    AB 平均1.4普通、標準偏差0.49普通、中央値1.0普通、四分位範囲1.0普通
    CD 平均1.7高い、標準偏差0.44普通、中央値2.0高い、四分位範囲0.5低い
    【クラスタからの特徴を手掛かりにし、どういう情報が主成分なのか全体的に掴む】
    平均はクラスタABの方が小さい、つまり視覚と直示が多く、新情報も多いことから、登場人物の島村が駒子を観察していることがわかる。
    【ライン】合計は、言語の認知と情報の認知の和を表す指標であり、文理の各系列をスライドする認知の柱が出す数字となる。
    ① 5.5、視覚+それ以外、直示、新情報、解決 → 場面の始まりで落ち着きがある。
    ② 7、視覚、隠喩、新情報、未解決 → 駒子が囁いている。
    ③ 6、視覚、直示、新情報、未解決 → 駒子の身体の魅力。
    ④ 7、視覚、隠喩、新情報、未解決 → 駒子の皮膚は清潔。
    ⑤ 5、視覚、直示、新情報、解決 → 駒子が身体を崩す。
    ⑥ 7、視覚、隠喩、新情報、未解決 → 色気が溢れる。
    ⑦ 5、視覚以外、直示、旧情報、解決 → 都々逸で誰の三味線かわかる。
    ⑧ 6.5、視覚+それ以外、直示、新情報、未解決 → 三味線の稽古の様子。
    ⑨ 5、視覚、直示、旧情報、未解決 → 島村の問いかけに答える。
    ⑩ 5、視覚以外、直示、新情報、解決 → 駒子は夜明けに帰らず昼までいる。
    【場面の全体】
     全体で視覚情報は7割5分であり、脳に届く通常の五感の入力信号の割合よりも低いため、視覚意外の情報が問題解決に効いている。

    花村嘉英(2019)「川端康成の「雪国」の多変量解析-クラスタ分析と主成分」より

  • 川端康成の「雪国」の多変量解析-クラスタ分析と主成分4

    ◆場面1 駒子の三味線の稽古

    三曲目に都鳥を弾きはじめた頃は、その曲の艶な柔らかさのせいもあって、島村はもう鳥肌たつような思いは消え、温かく安らいで、駒子の顔を見つめた。そうするとしみじみ肉体の親しみが感じられた。
    A1+2B1C2D1
    細く高い鼻は少し寂しいはずだけれども、頬が生き生きと上気しているので、私はここにいますという囁きのように見えた。A1B2C2D2
    あの美しく血の滑らかな脣は、小さくつぼめた時も、そこに写る光をぬめぬめ動かしているようで、そのくせ唄につれて大きく開いても、また可憐にすぐ縮まるという風に、彼女の体の魅力そっくりであった。
    A1B1C2D2
    白粉はなく、都会の水商売で透き通ったところへ、山の色が染めたとでもいう、百合か玉葱みたいな球根を剥いた新しさの皮膚は、首までほんのり血の色が上がっていて、なによりも清潔だった。A1B2C2D2
    しゃんと坐り構えているのだが、いつになく娘じみて見えた。
    最後に、今稽古中のを言って、譜を見ながら新曲浦島を引いてから、駒子は黙って撥を糸の下に挟むと、身体を崩した。A1B1C2D1
    急に色気がこぼれて来た。
    島村はなんとも言えなかったが、駒子も島村の批評を気にする風はさらになく、素直に楽しげだった。
    A1B2C2D2
    「君はここの芸者の三味線をきいただけで、誰だか皆分けるかね。」
    「そりゃ分かりますわ、二十人足らずですもの。都々逸がよく分るわね、一番その人の癖が出るから。」
    A2B1C1D1
    そしてまた三味線を拾い上げると、右足を折ったままずらせて、そのふくろはぎに三味線の胴を載せ、腰は左に崩しながら、体は右に傾けて、
    「小さい時こうして習ったわ。」と、棹を覗き込むと、
    「く、ろ、かあ、みい、の・・・・・。」と、幼げに歌って、ぽつんぽつん鳴らした。
    A1+2B1C2D2
    「黒髪を最初に習ったの?」
    「ううん。」と、駒子はその小さい時のように、かぶりを振った。A1B1C1D2
    それから泊まることがあっても、駒子はもう強いて夜明け前に帰ろうとはしなくなった。
    「駒子ちゃん。」と、尻上がりに廊下の遠くから呼ぶ、宿の女の子を火燵へ抱き入れて余念なく遊んでは、正午近くにその三つの子と湯殿へ行ったりした。A2B1C2D1

    花村嘉英(2019)「川端康成の「雪国」の多変量解析-クラスタ分析と主成分」より

  • 川端康成の「雪国」の多変量解析-クラスタ分析と主成分3

    3 多変量の分析

     多変量を解析するには、クラスタと主成分が有効な分析になる。これらの分析がデータベースの統計処理に繋がるからである。
     多変数のデータでも、最初は1変数ごとの観察から始まる。また、クラスタ分析は、多変数のデータを丸ごと扱う最初の作業ともいえる。似た者同士を集めたクラスタを樹形図からイメージする。それぞれのクラスタの特徴を掴み、それを手掛かりに多変量データの全体像を考えていく。樹形図については、単純な二個二個のクラスタリングの方法を想定し、変数の数や組み合わせを考える。
     作成したデータベースから特性が2つあるカラムを抽出し、グループ分けをする。例えば、A:五感(1視覚と2それ以外)、B:ジェスチャー(1直示と2比喩)、C:情報の認知プロセス(1旧情報と2新情報)、D:情報の認知プロセス(1問題解決と2未解決)というように文系と理系のカラムをそれぞれ2つずつ抽出する。
    まず、ABCDそれぞれの変数の特徴について考える。次に、似た者同士のデータをひとかたまりにし、ここでは言語の認知ABと情報の認知CDにグループ分けをする。得られた変数の特徴からグループそれぞれの特徴を見つける。
     最後に、各場面のラインの合計を考える。それぞれの要素からどのようなことがいえるのであろうか。「雪国」のバラツキが縦のカラムの特徴を表しているのに対し、ここでのクラスタは、一場面のカラムとラインの特徴を表している。
     なお、外界情報の獲得に関する五感の割合は、視覚82%、聴覚11%、嗅覚4%、触覚2%、味覚1%とする。(片野2018)

    花村嘉英(2019)「川端康成の「雪国」の多変量解析-クラスタ分析と主成分」より