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  • イディオム-モンタギュー文法からGPSGそしてHPSGへ9

    3.2  タイプと翻訳

     PTQは、統語カテゴリーと意味タイプ(ILの有意表現の意味上のクラス分け)間に準同形または構成性の写像を持つが、GPSGでは、双方をつなぐ関数タイプを準同形としては扱わない。これは、1.2.1にも示したように、GPSGでは、統語カテゴリーが意味構造の反映のない素性値指定の場合からなる複合体と見なされているからである。関数タイプによる(10)の統語カテゴリーに対するタイプ割り当ては、(15)になる。但し、複合タイプには、簡略化のためにカテゴリーラベルを用い、Sは、文カテゴリーを、Sは、内包タイプを表している。

    (15)
    1 TYP(S): <s, t>
    2 TYP(NP): <s, <<e, t>, t>>
    3 TYP(N1): <s, <<e, t>, t>>
    4 TYP(Det):< N1, NP>
    5 TYP(VP):<NP, S>

    花村嘉英(2022)「イディオム-モンタギュー文法からGPSGそしてHPSGへ」より

  • イディオム-モンタギュー文法からGPSGそしてHPSGへ8

    3  意味論

    3.1 GPSGの意味論

     モデル理論の枠組みで優位表現に対し指示対象を回帰的に定義していくGPSGの意味論は、Montague Grammar 同様、真理条件意味論および可能性世界意味論を備えている。しかし、若干の修正は見られ、以下でその点を考察していく。

    花村嘉英(2022)「イディオム-モンタギュー文法からGPSGそしてHPSGへ」より

  • イディオム-モンタギュー文法からGPSGそしてHPSGへ7

    2.2.4 FFP、CAP、HFC

     これらは、木の中での素性の分布を決定する普遍的な制約である。FFPは、部分木の親カテゴリーの足素性がその娘の足素性のユニフィケーションに等しいことを示してくれる。*足素性は、NP[NULL, +]/NPというカテゴリーのSLASH素性や関係代名詞の素性値指定[WH[WHMOR R]]などに現れる。NULLは、空のX2を導く(13)のメタ規則により認可される。

    (13)スラッシュ終端メタ規則1(Slash Termination)
       X→W, X2

    X→W, X2[NULL, +]

    (14) ein Mann, dessen die Welt bedarf, liest ein Buch. 
    S △ NP[PLU, -] → VP 
    △ liest ein Buch NP[PLU, -] S
    ein Mann △
    NP[WH[WHMOR R]] S/NP

    N[WH[WHMOR R]]   NP[PLU, -] →VP/NP
    dessen die Welt NP[NULL, +]/NP V bedarf

     CAPは、部分木の娘同士の素性間を受け持つ。例えば、部分木の文末のうち、因数であるカテゴリーの素性を関数であるカテゴリーに引き渡す役割を果たす。* この種のCAPが作用して、(14)のNP素性がVPに伝わる。HFCは、部分木の語彙的主要部となる娘カテゴリーにその親カテゴリーが待つ主要部素性を受け渡していく。* HFCは、部分木の語彙的主要部となる娘カテゴリーにその親カテゴリーが持つ主要部素性を受け渡していく。

    (11‘)S[N, -][V, +][V[FIN]]
    △ NP[N, +][V, -][PLU, -][PER, 3] VP[N, -][V, +][V[FIN]][PLU, -]
    △ Det N1 [N, +][V, -][PLU, -][PER, 3] △  V[N, -][V, +][V[FIN]][PLU, -] NP
    Ein Mann N[N, +][V, -][PLU, -][PER, 3] liest ein Buch

    花村嘉英(2022)「イディオム-モンタギュー文法からGPSGそしてHPSGへ」より  

  • イディオム-モンタギュー文法からGPSGそしてHPSGへ6

    2.2.3 メタ規則

     メタ規則は、基本的なID規則だけでは表現できない、ID規則からID規則への関係(受身、等値、スラッシュな)を扱う。その適用範囲は、語彙的ID規則に限られている。また、この規則は、回帰的には使われない。その数を有限とすることで文脈自由の性質を保つのである。*

    (12)主語-助動詞倒置メタ規則(Subject-Aux Inversion: SAI)
    V2[[SUBJ, -]] →W
    V2[[INV, +], [SUBJ, +]] →W, NP

    (12)のメタ規則は、(10)4のようなID規則から文カテゴリーSを平らなS構造へと展開する。Wは、ID規則の中の任意のカテゴリーを表す変数である。また、素性値指定[INV, +]は、[VFORM[FIN]](時制)を素性値指定[SUBJ, +]は、[N, -], [V, +], [BAR, 2]を含意している。*

    花村嘉英(2022)「イディオム-モンタギュー文法からGPSGそしてHPSGへ」より

  • イディオム-モンタギュー文法からGPSGそしてHPSGへ5

    2.2.2 ID規則とLP規則

     親とそれが直接支配する娘とからのみ構成される部分木は、ID規則により写し出される。ID規則の担う情報は、親と娘の直接支配関係だけで、部分木の構成要素間の線的順序は、LP規則に委ねられる。こうした情報の二分化は、ドイツ語などに比べてより語順が自由な言語の場合*、従来のPSGでは、一度に一つの規則が述べられるだけで、句構造を全て列挙しなければならなくなるゆえに取られた措置である。* 

    (9)
    PSG A→BCD, B→BDC, B→CD, C→ABD, C→BAD, C→BDA
    GPSG ID規則 A→B, C, D, B→C, D, C→A, B, D LP規則 B<C, B<D

    ID規則は、語彙的と非語彙的に分かれる。前者には、H[n](nは整数)という語彙的主要部が導入され、SUBCATとBARの素性があるが、後者に下位カテゴリー化はない。

    (10)
    1 S→X2, H[SUBJ, -]
    2 NP→Det, N1
    3 N1→H[1]
    4 VP→H[2], NP[ACC]

    (10)の規則は、LP規則(Det<N, V[MC, +]<NP)およびFSD3[INV、-]を伴い(11)の木を認可する。

    (11)   S
        △
    NP[NOM]  VP
    △ △
    Det N1 V[2] NP[ACC]

    花村嘉英(2022)「イディオム-モンタギュー文法からGPSGそしてHPSGへ」より

  • イディオム-モンタギュー文法からGPSGそしてHPSGへ4

     素性と素性値の対の集合からカテゴリーが構成される。* この対は、素性値指定と呼ばれる。(4)のNPを正確に記すと、それは、次のような素性値指定の集合と考えられる。但し、カテゴリーのNと素性のNを混同してはならない。

    (5)NP=[N, +], [V, -], [BAR, 2], [PLU, -], [PER, 3], [CASE, NOM]]

     カテゴリーには、主要なものと副次的なものとがある。前者は、N、V、A、Pおよびそれらの投射、後者は、Det(限定詞)、CONJ(接続詞)、COMP(補文標識)などで、これらは、BAR素性の値を欠いている。しかし、GPSGでは、BAR指定がなくてもSUBCATが指定されていれば、語彙カテゴリーのメンバーなのである。*

    (6)A=[N, +], [V, -]
    B=[N, +], [PLU, -]
    Unif(A, B) =extension(A) =extension(B)

     (6)は、Unif(A, B)がカテゴリーA、 Bの合成([N, +], [V, -], [PLU, -])を値とする関数で、それがAとBのそれぞれに含まれるすべての素性値指定を拡張したものになるということを表している。カテゴリーA、Bのユニフィケーションとは、A、Bの拡張であり、かつ最小のカテゴリーを求めることである。*
     素性間には、その一定の依存性を表したFCRがある。*

    (7)FCR1 [BAR, 0] =[N]&[V]&[SUBCAT]
    FCR2 [BAR, 1] ⊃~[SUBCAT]
    FCR3 [BAR, 2] ⊃~[SUBCAT]
    FCR4 [NULL, +] ⊃[SLASH]

     FCR1は、あるカテゴリーが[BAR, 0](語彙的主要部)となるには、N、V、SUBCATに関する素性の指定がある時に限るという意味である。FCR2とFCR3は、語彙的主要部の当社が下位カテゴリー化をせず、SUBCATの値を持つことはないといっている。また、FCR4により、NULLから足素性値SLASHが導かれる。NULLは、FFPの説明の際、再び取り上げる。
     素性と素性値が取る通常値を指定するためにFSDがある。*

    (8)FSD1 ~[NULL]
    FSD2 ~[NOM]
    FSD3 [INV, -]

     FSD1とFSD2は、素性[NULL]と素性値[NOM]が有標であることを、FSD3は、限られた場合に等値が起こることを表している。

    花村嘉英(2022)「イディオム-モンタギュー文法からGPSGそしてHPSGへ」より

  • イディオム-モンタギュー文法からGPSGそしてHPSGへ3

     素性は、3種ある。部分木の親と語彙的主要部が等しい値を持つ主要部素性(N、V、PER、BAR、SLASH、INV、VFORM、SUBJなど)、部分木のどの子からも上昇可能な足素性(SLASH、WHなど)そして一つの接点に留まって他に伝わることのない素性(CASE、WHMOR、NULL)とである。CASE、WHMOR(Wh形態)、NULL(音韻的に空)など。*
     素性値には原始的な値とカテゴリー的な値がある。

    (3)PLU+, -
    PRE 1, 2, 3
    CASE NOM, ACC, FEN, DAT
    (4)S NP[[PER, 3], [PLU, -]]
    VP[AGR NP[[PER, 3], [PLU, -]]]

     (3)は、数、人称、格素性がそれぞれ取ることのできる原始的な素性を示し、(4)は、主語と動詞との一致を示す際に用いられるカテゴリー(名詞句で3人称単数)が素性値となる素性AGRを示している。CAPの説明の際に、一致については再び取り上げる。

    花村嘉英(2022)「イディオム-モンタギュー文法からGPSGそしてHPSGへ」より

  • イディオム-モンタギュー文法からGPSGそしてHPSGへ2

    2 統語論

    2.1 PTQの統語規則

     PTQで採用されている17の規則の多くがカテゴリー文法*に基づく関数適応規則になっており、(1)のように規定されるカテゴリー間を連接していく。*

    (1) 1 e, t∋Cat、2 A, B∈Catならば、A/B, A//B∈Cat
    (2)S1 すべてのカテゴリーに対してBA⊆PA、S2 α∈PIV/IVまたはα∈PIV//IVでβ∈PIVならば、F1(α, β)∈PIV

    (1)では、eが個体を、tが真理値を表すカテゴリーで、A/B、A//BはともにBカテゴリーと結び付いてAカテゴリーを派生する。2種のスラッシュは、統語上の区別のために採用されている。(2)S1は、複合表現を派生する規則ではなく、任意のカテゴリーに関し、そのすべての基本表現がその句の集合に含まれることを説明している。(2)S2は、例えば、動詞句修飾の副詞langsam(IV//IV)がlaufenなどの自動詞(IV=t/e)と結び付いて新たな動詞句を派生する一方、lesenと結びついてversuchen zu lesenのような表現を派生するversuchenのカテゴリーがIV//IVとなることを示している。*
     PTQには話法の助動詞のカテゴリーはない。これは、内包論理の中で演算子として現れる。否定詞も基本表現には含まれず、時制演算子とともに主部と述部を結びつける統語規則の中で導入され、接続詞も文なり句なりを結ぶ統語規則として組み込まれている。さらに、限定詞に関する統語規則の一つとして普通名詞に不定冠詞を加えて名詞句を派生する規則がある。

    花村嘉英(2022)「イディオム-モンタギュー文法からGPSGそしてHPSGへ」より

  • イディオム-モンタギュー文法からGPSGそしてHPSGへ1

    1 はじめに

     この論文は、モンタギュー文法(Montague Grammar: MG)*から一般化句構造文法(Generalized Phrase Structure Grammar: GPSG)*そして主要部駆動句構造文法(Head driven Phrase Structure Grammar:HPSG)への理論的な変遷を追いつつ、GPSGやHPSGが採用しているイディオムや修飾語の分析*に対し、モデル理論からの修正を試みる。
     最初に、それぞれの理論の統語規則を考察し、GPSGによるMGの意味論の修正を行い、イディオムに関する内包論理(Intensional Logic: IL)の有意表現に対する指示対象の割り当て方を検討する。
     続いて、GPSGの統語論と意味論を拡張することに成功したHPSGを使用して、イディオムの内部が修飾される例を分析する。形容詞の修飾は、統語的であるが、意味的には副詞のように動詞にかかる。これをHPSGによるイディオムの原理で説明する。また、イディオムが小説に入ったときの扱いについても合わせて検討する。

    花村嘉英(2022)「イディオム-モンタギュー文法からGPSGそしてHPSGへ」より

  • 阿部公房の「飢餓同盟」で執筆脳を考える8

    4 まとめ

     阿部公房の執筆時の脳の活動を調べるために、まず受容と共生からなるLのストーリーを文献により組み立てた。次に、「飢餓同盟」のLのストーリーをデータベース化し、最後に文献で留めたところを実験で確認した。そのため、テキスト共生によるシナジーのメタファーについては、一応の研究成果が得られている。
     この種の実験をおよそ100人の作家で試みている。その際、日本人と外国人60人対40人、男女比4対1、ノーベル賞作家30人を目安に対照言語が独日であることから非英語の比較を意識してできるだけ日本語以外で英語が突出しないように心掛けている。
     
    参考文献

    阿部公房 飢餓同盟 新潮文庫 2011
    花村嘉英 計算文学入門-Thomas Mannのイロニーはファジィ推論といえるのか? 新風舎 2005
    花村嘉英 从认知语言学的角度浅析鲁迅作品-魯迅をシナジーで読む 華東理工大学出版社 2015
    花村嘉英 日语教育计划书-面向中国人的日语教学法与森鸥外小说的数据库应用 日本語教育のためのプログラム-中国語話者向けの教授法から森鴎外のデータベースまで 南京東南大学出版社 2017
    花村嘉英 从认知语言学的角度浅析纳丁・戈迪默-ナディン・ゴーディマと意欲 華東理工大学出版社 2018
    花村嘉英 シナジーのメタファーの作り方-トーマス・マン、魯迅、森鴎外、ナディン・ゴーディマ、井上靖 中国日語教学研究会上海分会論文集 2018  
    花村嘉英 川端康成の「雪国」に見る執筆脳について-「無と創造」から「目的達成型の認知発達」へ 中国日語教学研究会上海分会論文集 2019
    花村嘉英 社会学の観点からマクロの文学を考察する-危機管理者としての作家について 中国日語教学研究会上海分会論文集 2020
    花村嘉英 社会学の観点からマクロの文学を考察する-自然や文化の観察者としての作家について ブログ「シナジーのメタファー」 2020年 

    花村嘉英(2020)「阿部公房の『飢餓同盟』の執筆脳について」より