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  • イディオム-モンタギュー文法からGPSGそしてHPSGへ19

    注釈

    1頁
    *MGの解説書としては、Gebauer(1978)、Dowty, Wall and Peters(1981)、白井(1985)などがある。
    *GPSGの解説には、Naumann(1988)、Uszkoreit(1987)、池谷(1988)などがある。
    *この小論では、慣用句(Phraseologie)の基準といえるイディオム性(Idiomatizität)、安定性(Stabilität)、語彙化(Lexikalisierung)、および再生(Reproduzierbarkeit)の中で、特に、イディオム性の高い表現を指してイディオムと呼ぶ。(Fleischer 1982. S. 34)イディオム性とは、個々の構成要素の意味と全体の意味との不規則な関係であり、安定性とは、構成要素の交換の難しさを指し、語彙化とは意味に関する辞書的な扱いであり、語彙化とともに統語上固定したと語彙的な単位を指す。 
    *カテゴリー文法の解説の一つにAjdukiewicz(1967)がある。その中で、基本的なカテゴリーといえる文(s)および名詞(n)と複合的なカテゴリーs/nnは区別され、これらの操作するための規則として、相殺(s/nn→s/n)を持つUCG(Unidirectional Categorial Grammar)が提唱されている(ibid. S.213)。PTQは、この手法を継承する。カテゴリー文法の歴史に関する詳細な説明は、Casaudio(1988)にある。
    *Montague(1974)S.249。
    *(2)S2のような統語規則と統語操作の区別の意義については、Dowty(1982)による説明がある。彼は、主語や目的語に対応する文法概念は、個別言語から離れて、一般的に規定されるとし、例えば、「主語-述語」規則としてS3:<IV, T>,t>を設け、その入力IV(動詞句)、T(名詞句)、その出力t(文)およびこれらを取り持つ統語操作F2のカテゴリー的な指定を普遍的な役割としてS3に課している。
     これに対して、言語間で異なるのは統語操作Fであり、英語(SVO)と日本語(SOV)などの語順の違いは、F2により説明される。このように、統語規則と統語操作の区別を含む統語規則S3により、IVの語句と結びつけられる名詞句は、主語と定義される(ibid. S. 84)。

    花村嘉英(2022)「モンタギュー文法からGPSGへ-イディオムの構成性をめぐるモデル理論の修正」より

  • イディオム-モンタギュー文法からGPSGそしてHPSGへ18

     Thomason(1972)は、(24)のような述語の誤った種類への適用から生じた表現を分類上不正確(sorial incorrectness)と呼び、それに対して真理値はないと考えている。*

    (24)Der Schatten der Zentralheizung ist warm.

    (24)の否定が一見真であるようにみえる。しかし、否定には、選択的な意味(ある選択をすることがすでに他を選択している)と排他的な意味(単に否定されることが拒絶される)があるとして、(24)の否定を前者の意味と考え、真理値付与の対象外として扱っている。* では、真でも偽でもない表現は、どこに位置づけられるのであろうか。
     諸々の特性なり役割からなる論理空間(Logical Space: LS)があるとする。* これは、ある種の概念上の資源から生成される。LSにおける形式言語Lには、二項述語QにLSの部分集合(LSの構成要素の順序対の集合)を割り当てる分類上の指定Eがある。* この部分集合(Eの地域)は、Qが肯定も否定もされうる点を含んでいる。 
    (24)の所在地は、ここである。言語Lには、Eと関連して二項述語QにE(Q)の部分集合s(Q)(sは指標<i, j>)を当てるsが存在する。すなわち、ILの基本表現に指示対象を対応付けるために、ここでは、PTQとは異なる二段階の手順を踏んでいる。
     M、i、j、gに関するILの有意表現αの外延記述を(25)の形に修正する。

    (25)αM,E, i, j, g

     s(Q)を設けることにより、LS中の点pを占める個体Qv1, v2(v1, v2はそれぞれ個体変項)を満たすように、pの集合を指定することができ、spielen‘‘が項としてdie-erste-Geigeだけを選択することが説明される。

    花村嘉英(2022)「モンタギュー文法からGPSGへ-イディオムの構成性をめぐるモデル理論の修正」より

  • イディオム-モンタギュー文法からGPSGそしてHPSGへ17

     修飾語の分析例として、GPSGの枠組みで構成性(フレーゲの原理)を維持するために、イディオムの一部に修飾語を付加 することができるかどうか自身で試したことがある(花村 1991)。但し、本書では、論理文法の歴史に従って構成性を強く意識することはない。条件文やテキストを扱うために、中間処 理に依存する方向で理論が展開していくためである。GPSGは、統語論に文脈自由の句構造文法を、そして意味論にMontague Grammarを採用した世界的に有名な言語理論である。
     ここでの問題点は、例文(36)に示されている。形容詞leibhaftig の形態統語的な修飾は、確かに名詞Hundに掛かっているが、意味的な修飾は、この名詞ではなく動詞になるからである。それ故、本書では、leibhaftigをファジィ論理でいうある種のヘッジとして扱い、さらに、イディオム自体もヘッジと見なすことができるという立場でこの問題を処理している(イディオムの原理)。
     その理由は、Fleischer (1982)が説くように、慣用句がイゾトピー(同位元素性)のようなテキスト内の様相パラメータを 特別な方法で識別することができると考えているからである。これにより、Montague Grammarのイディオム分析は、拡張されることになる。なお、Fleischer (1982)は、イディオム性を語彙の構成要素の意味と文全体の意味の間に存在する不規則な関係としている。

    花村嘉英(2022)「イディオム-モンタギュー文法からGPSGそしてHPSGへ」より

  • イディオム-モンタギュー文法からGPSGそしてHPSGへ16

     この立場に立つと、例えば、schön Xの内容は、 Xの意味にかなり依存することになる。 しかし、(30)のように「美しい」の標準が修飾される名詞(肋骨)によって決まらないことがある。重要な特徴(レントゲン写真)は、むしろ前述の文脈によって提供されると考えた方が自然である。標準(STANDARDの属性値としての役割を果たすパラメータのアンカー)は、修飾される名詞の特徴(関係)によって決まるが、文脈に依存する場合もあるということになる。
     Angeblich(自称の、表向きの)のような形容詞は、angeblich XがXである必要はないという理由から、解説7で説明した制約と一致しないように見える。この場合、名詞の制約は、angeblich な関係の変数として挿入される(31を参照すること)。そして、 angeblicher TäterのようなNʼの内容は、(32)に示されているnom− objになる。この種の名詞により言及される個人は、文脈上決まるある個人が実際に犯罪者でなくても、犯罪者であると主張すれば、成立するからである。

    花村嘉英(2022)「イディオム-モンタギュー文法からGPSGそしてHPSGへ」より

  • イディオム-モンタギュー文法からGPSGそしてHPSGへ15

    5 HPSGによるイディオム分析

     論理文法では、量化と同様に、修飾の問題もしばしば取り上げられている。* ここでは、名詞を修飾する形容詞がテーマになる。また、これと関連してイディオムの内部を修飾する形容詞、例えば、auf den leibhaftigen Hund kommenのleibhaftigについても検討するが、これは、フレーゲの構成性原理がポイントになる。*
     ここでの研究の対象は、修飾語、特に名詞を修飾するまたはイディオムの一部を修飾する形容詞である。まず、付加的な形容詞「青い」の語彙登録に関するローカルな値の処理を見てみよう。(27)のような形容詞は、指標の制限が形容詞からなるpsoa とNʼ主要部の名詞からなるpsoaを含んだNʼを形成するために、名詞の構成要素と結合することになる。
     しばしば議論になるが、色彩用語は、その値自体が目盛りを固定する隠れたパラメータになることがある。ここでは、「青さ」を決定する尺度がそれに当たる。つまり、「青い」という関係が付加的な役割(STANDARD)を持っていて、その値は、文脈上で決まる特徴であり、「青さ」を決定するための標準を提供してくれる。これにより(29)のような形容詞に対して制約を設けることが可能になる。これらは、修飾する名詞と関連した特徴を変数とする関数として処理されるべきである。

    花村嘉英(2022)「イディオム-モンタギュー文法からGPSGそしてHPSGへ」より

  • イディオム-モンタギュー文法からGPSGそしてHPSGへ14

     Thomason(1972)は、(24)のような述語の誤った種類への適用から生じた表現を分類上不正確(sorial incorrectness)と呼び、それに対して真理値はないと考えている。*

    (24)Der Schatten der Zentralheizung ist warm.

     (24)の否定が一見真であるようにみえる。しかし、否定には、選択的な意味(ある選択をすることがすでに他を選択している)と排他的な意味(単に否定されることが拒絶される)があるとして、(24)の否定を前者の意味と考え、真理値付与の対象外として扱っている。* では、真でも偽でもない表現は、どこに位置づけられるのであろうか。
     諸々の特性なり役割からなる論理空間(Logical Space: LS)があるとする。* これは、ある種の概念上の資源から生成される。LSにおける形式言語Lには、二項述語PにLSの部分集合(LSの構成要素の順序対の集合)を割り当てる分類上の指定SPがある。* この部分集合(SPの地域)は、Qが肯定も否定もされうる点を含んでいる。 
     (24)の所在地は、ここである。言語Lには、SPと関連して二項述語QにSP(Q)の部分集合s(Q)(sは指標<i, j>)を当てるsが存在する。すなわち、ILの基本表現に指示対象を対応付けるために、ここでは、PTQとは異なる二段階の手順を踏んでいる。
     M、i、j、gに関するILの有意表現αの外延記述を(25)の形に修正する。

    (25)αM,E, i, j, g

     s(Q)を設けることにより、LS中の点pを占める個体Qv1, v2(v1, v2はそれぞれ個体変項)を満たすように、pの集合を指定することができ、spielen‘‘が項としてdie-erste-Geigeだけを選択することが説明される。

    花村嘉英(2022)「イディオム-モンタギュー文法からGPSGそしてHPSGへ」より

  • イディオム-モンタギュー文法からGPSGそしてHPSGへ13

    4.2 モデル理論の修正

     GPSGが採用しているPTQのモデルの定義とは、基本表現に対して次の形式で指示対象を当てていく。あるタイプの可能な指示対象の集合として、De、Dt、D(a, b) 、D(s, a) がある。*

    (23)M=<A, I, J,≦,F>およびg。
    1 A, I, Jは、それぞれ空でない個体、可能世界、時点の集合。
    2 ≦は、Jに関する線形順序。
    3 Fは、ILのすべての定項を定義域とする関数。
    4 a∈Type、α∈Conaならば、F(a) ∈S a。
    5 gは、ILのすべての変項の集合を定義域とする関数。
    6 uがタイプaの変項であるとg(u) ∈D a。  

     ここで、Fは、aタイプの定項(Con aは、ILのaタイプの定項の集合)に対してその内包としてS aの要素を当て、gは、aタイプの変項に対してその指示対象D aの要素を当てる。しかし、(22)の2種のspielenの内包表現にこの方式を当てた場合、指標の指定に問題が生じる。spielen‘とspielen‘‘は、それそれ<NP, VP>タイプの抵抗ゆえにそれらの外延は、指標に依存することになる。(23)4 αM, i, j, g=F(α)<i, j>。ここでαは、spielen‘またはspielen‘‘。Mは、上記モデル、iは、i∈I、jは、j∈Jである。または、これらがNPタイプを項とし、VPタイプの複合表現を生むことから関数適用規則が使われる。α(β)M, i, j, g=αM, i, j, g(βM, i, j, g)。ここで、βは、die-erste-Geige‘またはdie-erste-Geige‘‘である。この際、spielen‘‘がその項としてdie-erste-Geigeだけを選択する点が説明できない。この点をThomason(1972)に従って修正してみよう。

    花村嘉英(2022)「イディオム-モンタギュー文法からGPSGそしてHPSGへ」より

  • イディオム-モンタギュー文法からGPSGそしてHPSGへ12

    4 イディオムの構成性

    4.1 GPSGのイディオム表記

     これまでのイディオムに関する分析の多くがイディオム内に統語構造は認めるが、その全体の意味が部分の意味からは合成されないとの立場に立っている。* 一方、GPSGは、イディオムの一部に修飾(19)なり量化(20)がかかることを理由として上げ、その部分的な意味にも目を向けた記述法を採用している。*

    (19)auf den leibhaftigen Hund kommen.
    (20)zweiten Nachwuchs ins Leben rufen.
    (21)die erste Geige spielen.

     (21)のdie erste Geige とspielenは、複合的な語彙翻訳のメカニズムによって、それぞれ2種の内包表現が割り当てられる。* インフォーマルに記すと、前者は、die-erste-Geige‘(第一バイオリンの内包)とdie erste Geige‘‘(音頭の内包)、後者は、spielen‘(弾くの内包)とspielen‘‘(取るの内包)である。これらの内包表現は、他動詞の翻訳をNPタイプの内包からVPタイプの指示対象への部分関数として扱うことにより結びつけられる。

    (22)fi(spielen‘(die-erste-Geige‘))=spielen‘‘(die-erste-Geige‘‘)

     ここで、fiは意味上の結合しであり、spielen‘とspielen‘‘の定義域は異なる。しかし、このような部分関数を適用するには、モデル理論に関する若干の修正が必要である。

    花村嘉英(2022)「イディオム-モンタギュー文法からGPSGそしてHPSGへ」より

  • イディオム-モンタギュー文法からGPSGそしてHPSGへ11

     次に、Cラベルの接点の娘の翻訳を結ぶ際に、(16)のタイプ駆動の方式が採用されている。*

    (17)α∈ME(a, b), β∈ME a, →α(β)∈ME b

    (17)は、α、βがそれぞれ意味タイプ<a, b>、<a>を持つILの有意表現ならば、α(β)は、タイプの有意表現となることを示している。例えば、(15)のS、NP、VPタイプのILへの翻訳は、(18)となる。

    (18)1 FR:(S, {NP‘, VP‘}m)={ VP‘(NP)}
    2 FR:(NP, {Det‘, N‘}m)={ Det‘(N)}
    3 FR:(VP, {V[2]‘, NP‘}m)={ V[2]‘(NP)}

     関数実現(Functional Realization: FR)は、タイプaとマルチセットS(有限回繰り返される同一要素を含む集合)を入力都市、関数適用の際、要素の複数買いの使用を禁止する制限およびタイプaのILの適切な表現を条件とする集合が出力となる。* こうして(10)のID規則、それに対するLP規則、素性に関する諸条件、(15)のタイプ割り当ておよびタイプ駆動の翻訳を経て、(11‘‘)の木が認可される。

    (11‘‘)  S, lesen‘(ein‘(Buch‘))(ein‘(Mann‘))
    △  NP, ein‘(Mann‘) Det, ein‘ N1, Mann‘ VP, lesen‘ (ein‘(Buch‘)) V [2], lesen‘ NP, ein‘(Buch‘)
    Ein  N[1], Mann‘ liest Det, ein‘ N1, Buch‘ ein N[1],Buch‘, Buch

    花村嘉英(2022)「イディオム-モンタギュー文法からGPSGそしてHPSGへ」より

  • イディオム-モンタギュー文法からGPSGそしてHPSGへ10

     ここでは、Dowty et al (1981)に従い、PTQで採用されている個体概念(s, e)の代わりに単に個体(e)を当てている。表現のタイプ付与は、モデル内でのそのタイプの可能な支持対象(D)の決定につながる。指示対象は、モデル理論のプリミティブな要素(個体(e), 真理値(t), 内包または指標(s))からなり、例えば、D<s, t>(指標(s)(可能世界(i)と時点(j)の対)の集合からtタイプの集合への関数と読む)は、命題を、D<e, t>は、個体の集合を、D<s, <e, t>, t>>は、個体の集合の属性を表す。
     PTQのように、統語カテゴリーに意味タイプを割り当ててから翻訳規則が設定されることはない。まず、カテゴリーCの語彙項目(α)の翻訳が(16)の部分木により認可される。* 

    (16) C,α‘
         ↓
         α

    花村嘉英(2022)「イディオム-モンタギュー文法からGPSGそしてHPSGへ」より