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  • 森鴎外の「山椒大夫」でファイ係数を考える1

    1 ファイ係数

    ファイ係数は、2行x2行のクロス集計表における行要素と列要素の関連の強さを示す指標である。例えば、

    表1
    喫煙 肺がんありA 肺がんなしB 計N1
    非喫煙 肺がんありC 肺がんなしD 計N2
    肺がんあり 喫煙A 非喫煙C 計M1
    肺がんなし 喫煙B 非喫煙D 計M2

    ファイ係数は、次の式で求められる。絶対値が大きいほど関連が強い。 
    (1)φ = A x D –B x C /√M1 x M2 x N1 x N2

    表2
    係数(絶対値)  評価
    ~0.2      殆ど関連なし。
    0.2~0.4      弱い関連あり。
    0.4~0.7 中程度の関連あり。
    0.7~1 強い関連あり。

    花村嘉英(2021)「森鴎外の『山椒大夫』でファイ係数を考える」より

  • 森鴎外の「山椒大夫」で交絡を考える3

    3 まとめ  

     周知のように、別れは、惜別、出会い、やる気につながる。そのため、森鴎外の「山椒大夫」のデータベースを分析する場合、情動に関連するデータを制御しながら分析レポートを作成すると面白い。交絡の分析に関心がある人は、試みてもらいたい。

    参考文献

    中村好一 基礎から学ぶ楽しい保険統計 医学書院 2016
    高城和義 パーソンズ 医療社会学の構想 岩波書店 2002
    花村嘉英 計算文学入門-Thomas Mannのイロニーはファジィ推論といえるのか? 新風舎 2005
    花村嘉英 从认知语言学的角度浅析鲁迅作品-魯迅をシナジーで読む 華東理工大学出版社 2015
    花村嘉英 日语教育计划书-面向中国人的日语教学法与森鸥外小说的数据库应用 日本語教育のためのプログラム-中国語話者向けの教授法から森鴎外のデータベースまで 南京東南大学出版社 2017
    花村嘉英 从认知语言学的角度浅析纳丁・戈迪默 ナディン・ゴーディマと意欲 華東理工大学出版社 2018
    花村嘉英 シナジーのメタファーの作り方-トーマス・マン、魯迅、森鴎外、ナディン・ゴーディマ、井上靖 中国日语教学研究会上海分会論文集 2018
    花村嘉英 川端康成の「雪国」から見えてくるシナジーのメタファーとは-「無と創造」から「目的達成型の認知発達」へ 中国日语教学研究会上海分会論文集 2019
    花村嘉英 社会学の観点からマクロの文学を考察する-危機管理者としての作家について 中国日语教学研究会上海分会論文集 2020
    森鴎外:山椒大夫・高瀬舟・安部一族 角川文庫 1995
    https://best-biostatistics.com/design/kouraku2.html(いちばんやさしい医療統計 交絡因子とは?)

  • 森鴎外の「山椒大夫」で交絡を考える2

    2 実例 

     森鴎外の執筆時の脳の活動を感情として、「森鴎外と感情」というシナジーのメタファーを考えたことがある。感情の下に情動と畏敬があり、情動の下に創発と誘発がある。「山椒大夫」と「佐橋甚五郎」の違いは、前者が誘発の強い情動(外から内)で、後者が創発の強い情動(内から外)というところにある。感情と対になる概念は、行動である。  
     遠く離れた父親に会いに行く旅の途中で母親と別れるも、姉弟が力を合わせて両親と世話になった人たちに献身の気持ちを伝えるという内容である。これを外から内への思考とすると、ここでの脳の活動は誘発になる。
     ここでは、両親との別れが原因で結果を献身の振舞いにする。消息は、原因結果の一例になる。一方、情動はどうであろうか。隠れた因子として交絡因子になりうるであろうか。
      
    1 安寿と厨子王は、人買いに買われて由良の山椒大夫の所で奴婢になり潮汲みと柴刈りを強いられる。健気な中にも父母への思いは募るばかり。ある日、初めて二人一緒に柴刈りに出かけた。姉は予め弟に二人では駄目だから、一人で筑紫の父の所へ行って、佐渡へ母を迎えに行くようにと話した。結局、厨子王は一人で都を目指すことになる。僧形になった厨子王は都に上り、東山の清水寺に泊まる。開運の時がきた。関白師実に事の経緯を話したところ、筑紫に左遷した平正氏の嫡子という身元が判明し、厨子王は師実に客として迎えられる。師実が還俗した厨子王に冠を加えると、欲求を満たしてくれるものに接近する情動が厨子王に生まれるため、1は成立する。  
    2 厨子王は元服後正道と名のった。父の安否を筑紫に尋ねたところ、死亡していることがわかり、正道は身がやつれるほど嘆いた。体の生理状態と心の状態は、密接な関係にある。悲しい時には、涙があふれて全身が緊張し、子供のようにしゃくりあげて泣く。正道もその類である。ここでは身内との惜別による悔しい気持から、哀れな情動が生まれているため、2は成立である。  
    3 その後、正道は丹後の国守になる。都へ上る際に手を貸してくれた曇猛律師は総都にし、安寿を懇ろに弔い、入水した岬に尼寺を建てた。そして、任国のために仕事をしてから、佐渡へ母を探しに行く。母と姉への献身である。これは、正道個人の尊敬の念である。従って、情動は中間因子になる。3は成立である。1から3の全てが成立するため、情動は、交絡因子になりえる。 

    花村嘉英(2021)「森鴎外の『山椒大夫』で交絡を考える」より

  • 森鴎外の「山椒大夫」で交絡を考える1

    1 交絡因子

     観察する2つの因子と相互に関連していて、これらの因子間の観察結果に影響を及ぼす第3の因子のことを交絡因子(confounding factor, confounder)という。ある因子が交絡因子になるためには、以下の3つの条件が必要である。 

    1 アウトカムに影響を与える。交絡因子➩アウトカム
    2 要因との関連がある。交絡因子⇔要因
    3 要因とアウトカムの中間因子ではない。要因×➩中間因子×➩アウトカム

     以上の3つが揃っていれば、因子は交絡因子になる。なお、交絡、交絡因子、交絡バイアスという用語を確認しておく。

    花村嘉英(2021)「森鴎外の『山椒大夫』で交絡を考える」より

  • 志賀直哉の「城の崎にて」で執筆脳を考える9

    4 まとめ

     志賀直哉の執筆時の脳の活動を調べるために、まず受容と共生からなるLのストーリーを文献により組み立てた。次に、「城の崎にて」のLのストーリーをデータベース化して、最後に特定したところを実験で確認した。そのため、テキスト共生によるシナジーのメタファーについては、一応の研究成果が得られている。
     この種の実験をおよそ100人の作家で試みている。その際、日本人と外国人60人対40人、男女比4対1、ノーベル賞作家30人を目安に対照言語が独日であることから非英語の比較を意識してできるだけ日本語以外で英語が突出しないように心掛けている。 

    参考文献

    片野善夫 ほすぴ162号 ヘルスケア出版 2018
    高島明彦 脳のしくみ 日本文芸社 2006
    花村嘉英 計算文学入門-Thomas Mannのイロニーはファジィ推論といえるのか?新風社 2005
    花村嘉英 从认知语言学的角度浅析鲁迅作品-魯迅をシナジーで読む 華東理工大学出版社 2015
    花村嘉英 日语教育计划书-面向中国人的日语教学法与森鸥外小说的数据库应用日本語教育のためのプログラム-中国語話者向けの教授法から森鴎外のデータベースまで 南京東南大学出版社 2017
    花村嘉英 从认知语言学的角度浅析纳丁・戈迪默-ナディン・ゴーディマと意欲 華東理工大学出版社 2018
    花村嘉英 シナジーのメタファーの作り方-トーマス・マン、魯迅、森鴎外、ナディン・ゴーディマ、井上靖 中国日語教学研究会上海分会論文集 2018 
    花村嘉英 川端康成の「雪国」に見る執筆脳について-「無と創造」から「目的達成型の認知発達」へ 中国日語教学研究会上海分会論文集 2019
    志賀直哉 城の崎にて(解説 高田瑞穂) 新潮文庫 1985

  • 志賀直哉の「城の崎にて」で執筆脳を考える8

    表3 情報の認知

    A 表2と同じ。情報の認知1 2、情報の認知2 2、情報の認知3 2
    B 表2と同じ。情報の認知1 2、情報の認知2 2、情報の認知3 2
    C 表2と同じ。情報の認知1 2、情報の認知2 2、情報の認知3 2
    D 表2と同じ。情報の認知1 2、情報の認知2 2、情報の認知3 2
    E 表2と同じ。情報の認知1 3、情報の認知2 2、情報の認知3 1

    A:情報の認知1は②グループ化、情報の認知2は②新情報、情報の認知3は②問題未解決から推論へである。
    B:情報の認知1は②グループ化、情報の認知2は②新情報、情報の認知3は②問題未解決から推論へである。
    C:情報の認知1は②グループ化、情報の認知2は②新情報、情報の認知3は②問題未解決から推論へである。
    D:情報の認知1は②グループ化、情報の認知2は②新情報、情報の認知3は②問題未解決から推論へである。
    E:情報の認知1は③条件反射、情報の認知2は②新情報、情報の認知3は①計画から問題解決へである。

    結果

     志賀直哉は、この場面で自分が願う静けさの前に鼠のような苦しみが訪れ、自分の怪我についても同じようにできるだけのことはしようと考えた。そしてフェータルな傷ではないといわれて気分が晴れ、ようやく計画から問題解決に達している。そのため「心の静止と凝視」と「認識と課題に対する心的操作」という組が相互に作用する。

    花村嘉英(2020)「志賀直哉の『城の崎にて』の執筆脳について」より

  • 志賀直哉の「城の崎にて」で執筆脳を考える7

    【連想分析2】

    情報の認知1(感覚情報)
     
     感覚器官からの情報に注目することから、対象の捉え方が問題になる。また、記憶に基づく感情は、扁桃体と関係しているため、条件反射で無意識に素振りに出てしまう。このプロセルのカラムの特徴は、①ベースとプロファイル、②グループ化、③条件反射である。
     
    情報の認知2(記憶と学習)
     
     外部からの情報を既存の知識構造へ組み込む。この新しい知識はスキーマと呼ばれ、既存の情報と共通する特徴を持っている。未知の情報は、またカテゴリー化される。このプロセスは、経験を通した学習になる。このプロセルのカラムの特徴は、①旧情報、②新情報である。

    情報の認知3(計画、問題解決、推論)
     
     受け取った情報は、計画を立てるプロセスでも役に立つ。その際、目的に応じて問題を分析し、解決策を探っていく。しかし、獲得した情報が完全でない場合は、推論が必要になる。このプロセルのカラムの特徴は、①計画から問題解決へ、②問題未解決から推論へである。

    花村嘉英(2020)「志賀直哉の『城の崎にて』の執筆脳について」より

  • 志賀直哉の「城の崎にて」で執筆脳を考える6

    分析例

    1 円山川で鼠が逃げ廻る場面。
    2 この小論では、「城の崎にて」の購読脳を「心の静止と凝視」と考えているため、意味4の思考の流れ、動から静へのありなしに注目する。
    3 意味1 ①喜②怒③哀④楽、意味2 ①視覚②聴覚③味覚④嗅覚⑤触覚、意味3動から静へ①あり②なし、意味4振舞い ①直示②隠喩③記事なし
    4 人工知能 ①認識、②心的操作 

    テキスト共生の公式

    ステップ1:意味1、2、3、4を合わせて解析の組「心の静止と凝視」を作る。
    ステップ2:動から静への精神状態から「認識と課題に対する心的操作」という組を作り、解析の組と合わせる。

    A:①喜+「①視覚+②聴覚」+①直示+②動から静なしという解析の組を、知る作用と成果並びにある課題に対する心的操作からなる①認知と②心的操作という組と合わせる。
    B:④楽+「①視覚+②聴覚」+①直示+②動から静なしという解析の組を、知る作用と成果並びにある課題に対する心的操作からなる①認知と②心的操作という組と合わせる。
    C:④楽+①視覚+①直示+②動から静なしという解析の組を、知る作用と成果並びにある課題に対する心的操作からなる①認知と②心的操作という組と合わせる。 
    D:①喜+①視覚+①直示+②動から静なしという解析の組を、知る作用と成果並びにある課題に対する心的操作からなる①認知と②心的操作という組と合わせる。
    E:③哀+①視覚+①直示+①動から静ありという解析の組を、知る作用と成果並びにある課題に対する心的操作からなる①認知と②心的操作という組と合わせる。

    結果 
    表2については、テキスト共生の公式が適用される。

    花村嘉英(2020)「志賀直哉の『城の崎にて』の執筆脳について」より

  • 志賀直哉の「城の崎にて」で執筆脳を考える5

    【連想分析1】

    表2 受容と共生のイメージ合わせ
    円山川で鼠が逃げ廻る場面
    A 「一の湯」の前から小川は往来の真ん中をゆるやかに流れ、円山川へ入る。ある所まで来ると橋だの岸だのに人が立って何かのかわの中の物を見ながら騒いでいた。それは大きな鼠を川へ投げ込んだのを見ているのだ。鼠は一生懸命に泳いで逃げようとする。
    意味1 1、意味2 1+2、意味3 1、意味4 2.健常脳 1
    B 鼠には首の所に七寸ばかりの魚串が貫してあった。頭の上に三寸程、咽喉の下に三寸程それが出ている。鼠は石垣へ這い上がろうとする。子供がニ三人、四十位の車夫が一人、それへ石を投げる。却々当たらない。カチッカチッと石垣に当たって跳ね返った。
    意味1 4、意味2 1+2、意味3 1、意味4 2.健常脳 1
    C 見物人は大声で笑った。鼠は石垣の間にようやく前足をかけた。然し這入ろうとすると魚串が直ぐにつかえた。そして又水へ落ちる。鼠はどうかして助かろうとしている。顔の表情は人間にわからなかったが動作の表情に、それが一生懸命である事がよくわかった。
    意味1 4、意味2 1、意味3 1、意味4 2.健常脳 1
    D 鼠は何処かへ逃げこむことが出来れば助かると思っているように、長い串を刺されたまま又川の真ん中の方へ泳ぎ出た。子供や車夫は益々面白がって石を投げた。傍の洗場の前で餌を漁っていた二三羽の家鴨が石が飛んでくるのでびっくりし、首を伸ばしてきょろきょろとした。
    意味1 1、意味2 1、意味3 1、意味4 2.健常脳 1
    E スポッ、スポッと石が水へ投げ込まれた。家鴨は頓狂な顔をして首をのばしたまま、鳴きながら、忙しく足を動かして上流の方へ泳いでいった。自分は鼠の最期を見る気がしなかった。
    意味1 3、意味2 1、意味3 1、意味4 1.健常脳 2

    花村嘉英(2020)「志賀直哉の『城の崎にて』の執筆脳について」より

  • 志賀直哉の「城の崎にて」で執筆脳を考える4

    3    データベースの作成・分析

     データベースの作成法について説明する。エクセルのデータについては、列の前半(文法1から意味5)が構文や意味の解析データ、後半(医学情報から人工知能)が理系に寄せる生成のデータである。一応、L(受容と共生)を反映している。データベースの数字は、登場人物を動かしながら考えている。
     こうしたデータベースを作る場合、共生のカラムの設定が難しい。受容は、それぞれの言語ごとに構文と意味を解析し、何かの組を作ればよい。しかし、共生は、作家の知的財産に基づいた脳の活動が問題になるため、作家ごとにカラムが変わる。

    【データベースの作成】
    表1 「城之崎にて」のデータベースのカラム
    文法1 名詞の格  直哉の助詞の使い方を考える。
    文法2 態 能動、受動、使役。
    文法3 時制、相  現在、過去、未来、進行形、完了形。
    文法4 様相  可能、推量、義務、必然。
    意味1 喜怒哀楽  情動との接点。瞬時の思い。
    意味2 五感  視覚、聴覚、味覚、嗅覚、触覚。
    意味3 思考の流れ 動から静へ、ありなし。
    意味4 振舞い ジェスチャー、身振り。直示と隠喩を考える。
    医学情報  病跡学との接点 受容と共生の共有点。構文や意味の解析から得た組「心の静止と凝視」と病跡学でリンクを張るためにメディカル情報を入れる。
    情報の認知1 感覚情報の捉え方 感覚器官からの情報に注目するため、対象の捉え方が問題になる。例えば、ベースとプロファイルやグループ化または条件反射。
    情報の認知2 記憶と学習 外部からの情報を既存の知識構造に組み込む。その際、未知の情報についてはカテゴリー化する。学習につながるため。記憶の型として、短期、作業記憶、長期(陳述と非陳述)を考える。
    情報の認知3 計画、問題解決、推論 受け取った情報は、計画を立てるときにも役に立つ。目的に応じて問題を分析し、解決策を探っていく。獲得した情報が完全でない場合、推論が必要になる。
    人工知能 エキスパートシステム 知る作用と成果並びにある課題に対する心的操作。

    花村嘉英(2020)「志賀直哉の『城の崎にて』の執筆脳について」より