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  • 堀辰雄の「風立ちぬ」で執筆脳を考える7

    【連想分析2】

    情報の認知1(感覚情報)  
     感覚器官からの情報に注目することから、対象の捉え方が問題になる。また、記憶に基づく感情は、扁桃体と関係しているため、条件反射で無意識に素振りに出てしまう。このプロセルのカラムの特徴は、①ベースとプロファイル、②グループ化、③その他の条件である。
     
    情報の認知2(記憶と学習)  
     外部からの情報を既存の知識構造へ組み込む。この新しい知識はスキーマと呼ばれ、既存の情報と共通する特徴を持っている。未知の情報は、またカテゴリー化される。このプロセスは、経験を通した学習になる。このプロセルのカラムの特徴は、①旧情報、②新情報である。

    情報の認知3(計画、問題解決、推論)  
     受け取った情報は、計画を立てるプロセスでも役に立つ。その際、目的に応じて問題を分析し、解決策を探っていく。しかし、獲得した情報が完全でない場合は、推論が必要になる。このプロセルのカラムの特徴は、①計画から問題解決へ、②問題未解決から推論へである。

    花村嘉英(2023)「堀辰雄の『風立ちぬ』で執筆脳を考える」より

  • 堀辰雄の「風立ちぬ」で執筆脳を考える6

    分析例

    1 私が仕事の好い結末を考える場面。  
    2 この小論では、「風立ちぬ」の執筆脳を「集中とCEN」と考えているため、意味3の思考の流れ、集中に注目する。  
    3 意味1①視覚②聴覚③味覚④嗅覚⑤触覚 、意味2 ①喜②怒③哀④楽、意味3集中①あり②なし、意味4振舞い ①直示②隠喩③記事なし
    4 人工知能 ①集中、②CEN    
     
    テキスト共生の公式   
     
    ステップ1:意味1、2、3、4を合わせて解析の組「従順さと幸福の探求」を作る。
    ステップ2:目の前のことに集中して課題に取り組むと、マインドフルネスに通じるため「集中とCEN」という組を作り、解析の組と合わせる。  

    A:①視覚+①喜+①集中あり+②隠喩という解析の組を、①集中+②CENという組と合わせる。
    B:②聴覚+①喜+①感覚あり+①直示という解析の組を、①集中+②CENという組と合わせる。
    C:②聴覚+①喜+①感覚あり+①直示という解析の組を、①集中+②CENという組と合わせる。 
    D:①視覚+①喜+①感覚あり+①直示という解析の組を、①集中+②CENという組と合わせる。
    E:①視覚+④楽+①感覚あり+①直示という解析の組を、①集中+②CENという組と合わせる。   

    結果  表2については、テキスト共生の公式が適用される。

    花村嘉英(2023)「堀辰雄の『風立ちぬ』で執筆脳を考える」より

  • 堀辰雄の「風立ちぬ」で執筆脳を考える5

    【連想分析1】
    表2 受容と共生のイメージ合わせ

    好い結末を考える

    A そして私達自身までがその一部になり切ってしまっていたようなそういう一瞬時の風景を、こんな具合にこれまでも何遍となく蘇らせたので、それ等のものもいつのまにか私達の存在の一部分になり、そしてもはや季節と共に変化してゆくそれ等のものの、現在の姿が時とすると私達には殆ど見えないものになってしまう位であった。 意味1 1、意味1 1、意味1 1、意味1 2、集中とCEN 1

    B 「あのような幸福な瞬間をおれ達が持てたということは、それだけでももうおれ達がこうして共に生きるのに値したのであろうか?」と私は自分自身に問いかけていた。 
    意味1 2、意味1 1、意味1 1、意味1 1、集中とCEN 2

    C 私の背後にふと軽い足音がした。それは節子にちがいなかった。が、私はふり向こうともせずに、そのままじっとしていた。彼女もまた何も言わずに、私から少し離れたまま立っていた。しかし、私はその息づかいが感ぜられるほど彼女を近ぢかと感じていた。ときおり冷たい風がバルコンの上をなんの音も立てずに掠め過ぎた。何処か遠くの方で枯木が音を引きむしられていた。
    意味1 2、意味1 1、意味1 1、意味1 1、集中とCEN 1

    D 「何を考えているの?」とうとう彼女が口を切った。
     私はそれにはすぐ返事をしないでいた。それから急に彼女の方へふり向いて、不確かなように笑いながら、
    「お前には分っているだろう?」と問い返した。意味1 1、意味1 1、意味1 1、意味1 1、集中とCEN 2

    E 彼女は何か罠でも恐れるかのように注意深く私を見た。それを見て、私は、「おれの仕事のことを考えているのじゃないか」とゆっくり言い出した。「おれにはどうしても好い結末が思い浮ばないのだ。おれはおれ達が無駄に生きていたようにはそれを終らせたくはないのだ。どうだ、一つお前もそれをおれと一しょに考えてくれないか?」 意味1 1、意味1 4、意味1 1、意味1 1、集中とCEN 2

    花村嘉英(2023)「堀辰雄の『風立ちぬ』で執筆脳を考える」より

  • 堀辰雄の「風立ちぬ」で執筆脳を考える4

    【データベースの作成】

    表1 「風立ちぬ」のデータベースのカラム

    項目名 内容   説明
    文法1 名詞の格  堀辰雄の助詞の使い方を考える。
    文法2 態    能動、受動、使役。
    文法3 時制、相  現在、過去、未来、進行形、完了形。
    文法4 様相  可能、推量、義務、必然。
    意味1 五感  視覚、聴覚、味覚、嗅覚、触覚。
    意味2 喜怒哀楽  情動との接点。瞬時の思い。
    意味3 思考の流れ 感覚ありなし
    意味4 振舞い  ジェスチャー、身振り。直示と隠喩を考える。
    医学情報 メンタルヘルス 受容と共生の接点。購読脳「従順さと幸福の探求」を共生にスライドさせるため、メディカル情報をここに置く。
    情報の認知1 感覚情報の捉え方 感覚器官からの情報に注目するため、対象の捉え方が問題になる。例えば、ベースとプロファイルやグループ化または条件反射。
    情報の認知2 記憶と学習 外部からの情報を既存の知識構造に組み込む。その際、未知の情報についてはカテゴリー化する。学習につながるため。記憶の型として、短期、作業記憶、長期(陳述と非陳述)を考える。
    情報の認知3 計画、問題解決、推論 受け取った情報は、計画を立てるときにも役に立つ。目的に応じて問題を分析し、解決策を探っていく。獲得した情報が完全でない場合、推論が必要になる。
    人工知能 集中とCEN エキスパートシステム 集中は、ひとところに集めること、CENは、目の前の集中と課題の遂行時に活発になる神経ネットワーク「セントラル・エグゼクティブ・ネットワーク。

    花村嘉英(2023)「堀辰雄の『風立ちぬ』で執筆脳を考える」より

  • 堀辰雄の「風立ちぬ」で執筆脳を考える3

    3 データベースの作成・分析

     データベースの作成法について説明する。エクセルのデータについては、列の前半(文法1から意味5)が構文や意味の解析データ、後半(医学情報から人工知能)が理系に寄せる生成のデータである。一応、L(受容と共生)を反映している。データベースの数字は、登場人物を動かしながら考えている。
     こうしたデータベースを作る場合、共生のカラムの設定が難しい。受容はそれぞれの言語ごとに構文と意味の解析をし、何かの組を作ればよい。しかし、共生は作家の知的財産に基づいた脳の活動が問題になるため、作家ごとにカラムが変わる。

    花村嘉英(2023)「堀辰雄の『風立ちぬ』で執筆脳を考える」より

  • 堀辰雄の「風立ちぬ」で執筆脳を考える2

    2 「風立ちぬ」のLのストーリー

     堀辰雄(1904-1953)は、一高の学生時代に室生犀星を通して知り合った芥川龍之介の影響で文学の道に進むことになる。東大に提出した卒論では芥川について取り上げた。模倣することなく、芥川が仕事を終えたところが辰雄の出発であった。
     「風立ちぬ」は、1936年から1938年にかけて文芸雑誌に発表された。その中でモデルにした節子という女性は、堀辰雄が1933年軽井沢で知り合い、翌年9月に婚約した矢野綾子といわれている。しかし、不幸が訪れる。綾子は肺結核を患い、辰雄も同じ症状になったため、1935年7月、一緒に長野県八ヶ岳山麓にある冨士見高原療養所に入院する。辰雄は回復しても綾子はその12月に亡くなった。辰雄が内容を大切にしているため、小説は事実に即して書かれている。しかし、年数などで多少のずれはある。
     特に最終章の「死のかげの谷」では、病気という運命に従い従順に生きた節子への思いが溢れている。婚約の期間はごくわずかでも、互いを幸福にすることがテーマになっている。つまり、ただ目の前のことに集中できれば、幸福になれるというマインドフルネスの境地に達している。中身を見てみよう。
     初夏の夕方、一瞬生まれる一帯の景色が幸福感に満たされて眺めることができるのは、見慣れているのに今この時でしかなかった。それだけ目の前にある節子との生活に集中していたのである。いつかずっと後になって、美しい夕暮れが蘇ることがあれば、幸福そのものの絵が見えてくるとした。はたして、そんなことが起こった。  
     節子に病室で今のような生活に満足しているか尋ねると、満足しているという。ずっとあとになって思い出したらどんなに美しいことか言われたことがあった。初夏の夕方に似た、秋の午前の全く異なる光を帯びた一面の風景を見て、あの時の幸福に似た、締めつけられるような感動で胸がいっぱいになった。ここではただ目の前の秋の午前の光に集中できている。
     冬になり、薄暗いベッドの中に、静かに寝ている節子は、辰雄の傍にいられるだけでいいという目をして見つめている。辰雄は、幸福を主題に物語を書きながら自分たちの幸福を信じている。ここでも目の前のことに集中している。そのため「死のかげの谷」は、「幸福の谷」と呼べるほどになる。
     「風立ちぬ」の購読脳は、「従順さと幸福の探求」にし、目の前の集中と課題の遂行時に活発になる神経ネットワーク「セントラル・エグゼクティブ・ネットワーク(CEN)」の活動が辰雄にはあるため、執筆脳は「集中とCEN」にする。シナジーのメタファーは、「堀辰雄とマインドフルネス」である。

    花村嘉英(2023)「堀辰雄の『風立ちぬ』で執筆脳を考える」より

  • 堀辰雄の「風立ちぬ」で執筆脳を考える1

    1 先行研究

     文学分析は、通常、読者による購読脳が問題になる。一方、シナジーのメタファーは、作家の執筆脳を研究するためのマクロに通じる分析方法である。基本のパターンは、まず縦が購読脳で横が執筆脳になるLのイメージを作り、次に、各場面をLに読みながらデータベースを作成し、全体を組の集合体にする。そして最後に、双方の脳の活動をマージするために、脳内の信号のパスを探す、若しくは、脳のエリアの機能を探す。これがミクロとマクロの中間にあるメゾのデータとなり、狭義の意味でシナジーのメタファーが作られる。この段階では、副専攻を増やすことが重要である。 
     執筆脳は、作者が自身で書いているという事実及び作者がメインで伝えようと思っていることに対する定番の読み及びそれに対する共生の読みと定義する。そのため、この小論では、トーマス・マン(1875-1955)、魯迅(1881-1936)、森鴎外(1862-1922)の私の著作を先行研究にする。また、これらの著作の中では、それぞれの作家の執筆脳として文体を取り上げ、とりわけ問題解決の場面を分析の対象にしている。さらに、マクロの分析について地球規模とフォーマットのシフトを意識してナディン・ゴーディマ(1923-2014)を加えると、“The Late Bourgeois World”執筆時の脳の活動が意欲と組になることを先行研究に入れておく。 
     筆者の持ち場が言語学のため、購読脳の分析の際に、何かしらの言語分析を試みている。例えば、トーマス・マンには構文分析があり、魯迅にはことばの比較がある。そのため、全集の分析に拘る文学の研究者とは、分析のストーリーに違いがある。文学の研究者であれば、全集の中から一つだけシナジーのメタファーのために作品を選び、その理由を述べればよい。なおLのストーリーについては、人文と理系が交差するため、機械翻訳などで文体の違いを調節するトレーニングが推奨される。

    花村嘉英(2023)「堀辰雄の『風立ちぬ』で執筆脳を考える」より

  • 芥川龍之介の「河童」の多変量解析-クラスタ分析と主成分10

    6 まとめ 

     データベースの数字を用いてクラスタ解析から得られた特徴を場面ごとに平均、標準偏差、中央値、四分位範囲と考察し、それぞれ何が主成分なのか説明できている。そのため、この小論の分析方法は、既存の研究とも照合ができ、統計による文学分析がさらに研究を濃くしてくれている。
     この種の実験は、およそ100人の作家で試みている。その際、日本人と外国人60人対40人、男女比4対1、ノーベル賞作家30人を目安に対照言語が独日であることから非英語の比較を意識して、できるだけ日本語以外で英語が突出しないように心掛けている。 

    【参考文献】
    芥川龍之介 河童 角川文庫 2008
    片野善夫 ほすぴ162号 知っているようで知らない五感のしくみ-視覚 日本成人病予防協会 2018
    加藤剛 多変量解析超入門 技術評論社 2013
    花村嘉英 計算文学入門-Thomas Mannのイロニーはファジィ推論といえるのか? 新風舎 2005
    花村嘉英 从认知语言学的角度浅析鲁迅作品-魯迅をシナジーで読む 華東理工大学出版社 2015
    花村嘉英 日语教育计划书-面向中国人的日语教学法与森鸥外小说的数据库应用 日本語教育のためのプログラム-中国語話者向けの教授法から森鴎外のデータベースまで 南京東南大学出版社 2017
    花村嘉英 シナジーのメタファーの作り方-トーマス・マン、魯迅、森鴎外、ナディン・ゴーディマ、井上靖 中国日语教学研究会上海分会論文集 華東理工大学出版社 2018  
    花村嘉英 从认知语言学的角度浅析纳丁・戈迪默 ナディン・ゴーディマと意欲 華東理工大学出版社 2018
    花村嘉英 川端康成の「雪国」から見えてくるシナジーのメタファーとは-「無と創造」から「目的達成型の認知発達」へ 中国日语教学研究会上海分会論文集 華東理工大学出版社 2019
    花村嘉英 芥川龍之介の「河童」の購読脳について 2020 

  • 芥川龍之介の「河童」の多変量解析-クラスタ分析と主成分9

    【カラム】
    A平均1.2 標準偏差0.4 中央値1.0 四分位範囲0  
    B平均1.8 標準偏差0.4 中央値2.0 四分位範囲0
    C平均2.0 標準偏差0 中央値2.0 四分位範囲0
    D平均1.8 標準偏差0.4 中央値2.0 四分位範囲0
    【クラスタABとクラスタCD】
    AB 平均1.5普通、標準偏差0.4普通、中央値1.5普通、四分位範囲0低い
    CD 平均1.9高い、標準偏差0.2普通、中央値2.0高い、四分位範囲0低い
    【クラスタからの特徴を手掛かりにし、どういう情報が主成分なのか全体的に掴む】
    A、B、C、Dのバラツキが比較的小さいことから、作者の考察は一定している。
    【ライン】合計は、言語の認知と情報の認知の和を表す指標であり、文理の各系列をスライドする認知の柱が出す数字となる。
    ① 7、視覚、隠喩、新情報、未解決 →いろいろな河童の訪問を受けた。 
    ② 7、視覚、隠喩、新情報、未解決 →医者のチャック、哲学者のマッグの見舞いなど。 
    ③ 8、視覚以外、隠喩、新情報、未解決 →硝子会社の社長のゲエルも来た。 
    ④ 7、視覚、隠喩、新情報、未解決 →クラバックの土産なんかない。
    ⑤ 5、視覚、直示、新情報、解決 →トックの全集の一冊を朗読する。
    【場面の全体】
     全体で視覚情報は8割であり、脳に届く通常の五感の入力信号の割合で視覚の情報が問題解決に効いており、新情報も多くテンポよくストーリーが展開している。

    花村嘉英(2020)「芥川龍之介の『河童』の多変量解析-クラスタ分析と主成分」より

  • 芥川龍之介の「河童」の多変量解析-クラスタ分析と主成分8

    ◆場面3 河童の訪問

    それから僕は二三日ごとにいろいろの河童の訪問を受けました。僕の病はS博士によれば早発性痴呆症ということです。しかしあの医者のチャックは(これははなはだあなたにも失礼に当たるのに違いありません。)僕は早発性痴呆症患者ではない、早発性痴呆症患者はS博士をはじめ、あなたがた自身だと言っていました。
    A1、B2、C2、D2

    医者のチャックも来るくらいですから、学生のラップや哲学者のマッグの見舞いにきたことはもちろんです。が、あの漁夫のバッグのほかに昼間はだれも尋ねてきません。A1、B2、C2、D2

    ことに二三匹いっしょに来るのは夜、――それも月のある夜です。僕はゆうべも月明りの中に硝子会社の社長のゲエルや哲学者のマッグと話をしました。のみならず音楽家のクラバックにもヴァイオリンを一曲弾いてもらいました。A2、B2、C2、D2

    そら、向こうの机の上に黒百合の花束がのっているでしょう? あれもゆうべクラバックが土産に持ってきてくれたものです。……(僕は後ろを振り返ってみた。が、もちろん机の上には花束も何ものっていなかった。)A1、B2、C2、D2

    それからこの本も哲学者のマッグがわざわざ持ってきてくれたものです。ちょっと最初の詩を読んでごらんなさい。いや、あなたは河童の国の言葉を御存知になるはずはありません。では代わりに読んでみましょう。これは近ごろ出版になったトックの全集の一冊です。――(彼は古い電話帳をひろげ、こういう詩をおお声に読みはじめた。)A1、B1、C2、D1

    花村嘉英(2020)「芥川龍之介の『河童』の多変量解析-クラスタ分析と主成分」より