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  • 有島武郎の「小さき者へ」で執筆脳を考える8

    4 まとめ

     有島武郎の執筆時の脳の活動を調べるために、まず受容と共生からなるLのストーリーを文献により組み立てた。次に、「小さき者へ」のLのストーリーをデータベース化して、最後に特定したところを実験で確認した。そのため、テキスト共生によるシナジーのメタファーについては、一応の研究成果が得られている。有島武郎に文理共生の素行があったことは、先にも触れた通りである。
     この種の実験をおよそ100人の作家で試みがある。その際、日本人と外国人60人対40人、男女比4対1、ノーベル賞作家30人を目安に対照言語が独日であることから非英語の比較を意識してできるだけ日本語以外で英語が突出しないように心掛けている。 

    参考文献

    有島武郎 小さき者へ・生れ出づる悩み 新潮文庫 2003 
    花村嘉英 計算文学入門-Thomas Mannのイロニーはファジィ推論といえるのか? 新風社 2005
    花村嘉英 从认知语言学的角度浅析鲁迅作品-魯迅をシナジーで読む 華東理工大学出版社 2015
    花村嘉英 日语教育计划书-面向中国人的日语教学法与森鸥外小说的数据库应用 日本語教育のためのプログラム-中国語話者向けの教授法から森鴎外のデータベースまで 南京東南大学出版社 2017
    花村嘉英 从认知语言学的角度浅析纳丁・戈迪默-ナディン・ゴーディマと意欲 華東理工大学出版社 2018
    花村嘉英 シナジーのメタファーの作り方-トーマス・マン、魯迅、森鴎外、ナディン・ゴーディマ、井上靖 中国日語教学研究会上海分会論文集 2018 
    花村嘉英 川端康成の「雪国」に見る執筆脳について-「無と創造」から「目的達成型の認知発達」へ 中国日語教学研究会上海分会論文集 2019
    花村嘉英 社会学の観点からマクロの文学を考察する-危機管理者としての作家について 中国日語教学研究会上海分会論文集 2020
    李光泽主編 日本文学史 大連理工大学出版社 2012

  • 有島武郎の「小さき者へ」で執筆脳を考える7

    表3 情報の認知

    A 表2と同じ。情報の認知1 2、情報の認知2 2、情報の認知3 1
    B 表2と同じ。情報の認知1 2、情報の認知2 2、情報の認知3 2
    C 表2と同じ。情報の認知1 2、情報の認知2 2、情報の認知3 1
    D 表2と同じ。情報の認知1 2、情報の認知2 2、情報の認知3 1
    E 表2と同じ。情報の認知1 2、情報の認知2 2、情報の認知3 1

    A:情報の認知1は②グループ化、情報の認知2は②新情報、情報の認知3は①計画から問題解決へである。
    B:情報の認知1は②グループ化、情報の認知2は②新情報、情報の認知3は②問題未解決から推論へである。
    C:情報の認知1は②グループ化、情報の認知2は②新情報、情報の認知3は①計画から問題解決へである。
    D:情報の認知1は②グループ化、情報の認知2は②新情報、情報の認知3は①計画から問題解決へである。
    E:情報の認知1は②グループ化、情報の認知2は②新情報、情報の認知3は①計画から問題解決へである。

    結果

     有島武郎は、この場面で父親として子供たちに母の死という不幸を乗り越えて、自分の背中を追いつつ恐れず人生を旅するように励ます。つまり、父から子供たちへの指導があるため、「葛藤と子供への指導」と「記憶と感情」という組が相互に作用する。

    花村嘉英(2020)「有島武郎の『小さき者へ』の執筆脳について」より

  • 有島武郎の「小さき者へ」で執筆脳を考える6

    【連想分析2】

    情報の認知1(感覚情報)
     
     感覚器官からの情報に注目することから、対象の捉え方が問題になる。また、記憶に基づく感情は、扁桃体と関係しているため、条件反射で無意識に素振りに出てしまう。このプロセルのカラムの特徴は、①ベースとプロファイル、②グループ化、③条件反射である。
     
    情報の認知2(記憶と学習)
     
     外部からの情報を既存の知識構造へ組み込む。この新しい知識はスキーマと呼ばれ、既存の情報と共通する特徴を持っている。未知の情報は、またカテゴリー化される。このプロセスは、経験を通した学習になる。このプロセルのカラムの特徴は、①旧情報、②新情報である。

    情報の認知3(計画、問題解決、推論)
     
     受け取った情報は、計画を立てるプロセスでも役に立つ。その際、目的に応じて問題を分析し、解決策を探っていく。しかし、獲得した情報が完全でない場合は、推論が必要になる。このプロセルのカラムの特徴は、①計画から問題解決へ、②問題未解決から推論へである。

    花村嘉英(2020)「有島武郎の『小さき者へ』の執筆脳について」より

  • 有島武郎の「小さき者へ」で執筆脳を考える5

    分析例

    1 子供たちを励ます場面。
    2 この小論では、「小さき者へ」の購読脳を「葛藤と子供への指導」と考えているため、意味4の思考の流れ、指導ありなしに注目する。
    3 意味1 ①視覚②聴覚③味覚④嗅覚⑤触覚、意味2 ①喜②怒③哀④楽、意味3振舞い ①直示②隠喩③記事なし、意味4指導①あり②なし
    4 人工知能 ①記憶②感情
     
    テキスト共生の公式

    ステップ1:意味1、2、3、4を合わせて解析の組「葛藤と子供への指導」を作る。
    ステップ2:子供を激励する気持ちから「記憶と感情」という組を作り、解析の組と合わせる。 

    A:①視覚+④楽+①直示+①指導ありという解析の組を、①記憶と②感情からなる人工知能と合わせる。
    B:②聴覚+①喜+②隠喩+①指導ありという解析の組を、①記憶と②感情からなる人工知能と合わせる。 
    C:①視覚+④楽+②隠喩+①指導ありという解析の組を、①記憶と②感情からなる人工知能と合わせる。 
    D:①視覚+④楽+①直示+①指導ありという解析の組を、①記憶と②感情からなる人工知能と合わせる。
    E:①視覚+④楽+②隠喩+①指導ありという解析の組を、①記憶と②感情からなる人工知能と合わせる。  

    結果 表2については、テキスト共生の公式が適用される。

    花村嘉英(2020)「有島武郎の『小さき者へ』の執筆脳について」より

  • 有島武郎の「小さき者へ」で執筆脳を考える4

    【連想分析1】
    表2 受容と共生のイメージ合わせ

    A 私がお前たちの母上の写真を撮ってやろうといったら、思う存分化粧をして一番の晴着を着て、私の二階の書斎に這入って来た。私は寧むしろ驚いてその姿を眺めた。母上は淋しく笑って私にいった。産は女の出陣だ。いい子を生むか死ぬか、そのどっちかだ。だから死際しにぎわの装いをしたのだ。――その時も私は心なく笑ってしまった。然し、今はそれも笑ってはいられない。
    意味1 1、意味2 4、意味3 1、意味4 1、記憶感情2

    B 深夜の沈黙は私を厳粛にする。私の前には机を隔ててお前たちの母上が坐っているようにさえ思う。その母上の愛は遺書にあるようにお前たちを護らずにはいないだろう。よく眠れ。不可思議な時というものの作用にお前たちを打任してよく眠れ。意味1 2、意味2 1、意味3 2、意味4 1、記憶感情1

    C そうして明日は昨日よりも大きく賢くなって、寝床の中から跳おどり出して来い。私は私の役目をなし遂げる事に全力を尽すだろう。私の一生が如何いかに失敗であろうとも、又私が如何なる誘惑に打負けようとも、お前たちは私の足跡に不純な何物をも見出し得ないだけの事はする。きっとする。
    意味1 1、意味2 4、意味3 2、意味4 1、記憶感情2

    D お前たちは私の斃れた所から新しく歩み出さねばならないのだ。然しどちらの方向にどう歩まねばならぬかは、かすかながらにもお前達は私の足跡から探し出す事が出来るだろう。
    意味1 1、意味2 4、意味3 1、意味4 1、記憶感情2

    E 小さき者よ。不幸なそして同時に幸福なお前たちの父と母との祝福を胸にしめて人の世の旅に登れ。前途は遠い。そして暗い。然し恐れてはならぬ。恐れない者の前に道は開ける。行け。勇んで。小さき者よ。
    意味1 1、意味2 4、意味3 2、意味4 1、記憶感情2

    花村嘉英(2020)「有島武郎の『小さき者へ』の執筆脳について」より

  • 有島武郎の「小さき者へ」で執筆脳を考える3

    3 データベースの作成・分析

     データベースの作成法について説明する。エクセルのデータについては、列の前半(文法1から意味5)が構文や意味の解析データ、後半(医学情報から人工知能)が理系に寄せる生成のデータである。一応、L(受容と共生)を反映している。データベースの数字は、登場人物を動かしながら考えている。
     こうしたデータベースを作る場合、共生のカラムの設定が難しい。受容は、それぞれの言語ごとに構文と意味を解析し、何かの組を作ればよい。しかし、共生は、作家の知的財産に基づいた脳の活動が問題になるため、作家ごとにカラムが変わる。

    【データベースの作成】
    表1 「小さき者へ」のデータベースのカラム

    文法1 名詞の格 有島の助詞の使い方を考える。
    文法2 態 能動、受動、使役。
    文法3 時制、相 現在、過去、未来、進行形、完了形。
    文法4 様相 可能、推量、義務、必然。
    意味1  五感 視覚、聴覚、味覚、嗅覚、触覚。
    意味2  喜怒哀楽 情動との接点。瞬時の思い。
    意味3  振舞い ジェスチャー、身振り。直示と隠喩を考える。
    意味4 思考の流れ 指導あり、なし。
    意味5 数字 作品からとれる数字。 
    医学情報 病跡学との接点 受容と共生の共有点。構文や意味の解析から得た組「葛藤と子供への指導」と病跡学でリンクを張るためにメディカル情報を入れる。 
    情報の認知1 感覚情報の捉え方 感覚器官からの情報に注目するため、対象の捉え方が問題になる。例えば、ベースとプロファイルやグループ化または条件反射。
    情報の認知2 記憶と学習 外部からの情報を既存の知識構造に組み込む。その際、未知の情報についてはカテゴリー化する。学習につながるため。記憶の型として、短期、作業記憶、長期(陳述と非陳述)を考える。
    情報の認知3 計画、問題解決、推論 受け取った情報は、計画を立てるときにも役に立つ。目的に応じて問題を分析し、解決策を探っていく。獲得した情報が完全でない場合、推論が必要になる。
    人工知能 エキスパートシステム 1記憶と2感情。

    花村嘉英(2020)「有島武郎の『小さき者へ』の執筆脳について」より

  • 有島武郎の「小さき者へ」で執筆脳を考える2

    2 Lのストーリーについて 

     有島武郎(1878-1923)は、官僚の息子として東京に生まれ、10歳で学習院に入学し、11歳で当時の皇太子の学友に選ばれ、19歳の時に卒業した。札幌農学校ではキリスト教の影響を受けた。「聖書を食とし、祈祷を糧とする」生活は、苦行であり、このころから武郎には、鬱の症状がみられ循環性気質があった。鎌倉幕府の農政に関する研究で農学士になる。
     その後、軍隊で実績を作るも一年間で除隊し、恩師の新渡戸稲造に意見をきき渡米する。ハバフォード・カレッジの大学院では、英国史、中世史、労働問題そしてドイツ語を学んだ。修士論文では、神話の時代から将軍家の滅亡までを考察しながら日本の文明の発展を論じている。その後、ボストンのハーバード大学の大学院では、美術史、宗教史、欧州史などを学び、社会主義にも関心を持ち、ボルチモア、ワシントンと移動しながらロシアや北欧系の文学を通して自分の文学思想を見出した。
     こうしてみると、作家として活躍するまでに、文系理系の双方で研究実績があり、文理共生の素行はできていた。
     帰国後、母校の予科講師となり、英語の先生をする傍ら、神尾安子と結婚する。すでに32歳になっていた。また、武者小路実篤、志賀直哉らに出会い、白樺派のメンバーとして小説や評論を書いた。私小説「小さき者へ」(1918)は、結核患者の妻安子が登場人物に選ばれたところに当時の事情が窺われる。そして、妻と父が相次いで死んだことが生活に変化を齎し、専業で作家になった。
     幼児を残したまま結核で死んでいく妻(1917年8月2日没)を思う気持ちは、苦境に負けることなく自分を越えてほしいと子供たちに期待する父親としての思いと交錯し、短編ながらも小さなことがそうでなく、大きなこともそうでないことが伝わる。
     そこで、「小さき者へ」の購読脳は、「葛藤と子供への指導」とし、執筆脳は、「記憶と感情」にする。また、「小さき者へ」に関するシナジーのメタファーは、「有島武郎と葛藤」である。

    花村嘉英(2020)「有島武郎の『小さき者へ』の執筆脳について」より

  • 有島武郎の「小さき者へ」で執筆脳を考える1

    1 はじめに

     文学分析は、通常、読者による購読脳が問題になる。一方、シナジーのメタファーは、作家の執筆脳を研究するためのマクロに通じる分析方法である。基本のパターンは、まず縦が購読脳で横が執筆脳になるLのイメージを作り、次に、各場面をLに読みながらデータベースを作成し全体を組の集合体にする。そして最後に、双方の脳の活動をマージするために、脳内の信号のパスを探す、若しくは、脳のエリアの機能を探す。これがミクロとマクロの中間にあるメゾのデータとなり、狭義の意味でシナジーのメタファーが作られる。
     執筆脳の定義は、作者が自身で書いているという事実及び作者がメインで伝えようと思っていることに対する定番の読み及びそれに対する共生の読みとする。そのため、この小論では、トーマス・マン(1875-1955)、魯迅(1881-1936)、森鴎外(1862-1922)の執筆脳に関する私の著作を先行研究とする。また、トーマス・マン、魯迅、森鴎外の著作の中では、それぞれの作家の執筆脳として文体を取り上げ、とりわけ問題解決の場面を分析の対象にしている。さらに、マクロの分析について地球規模とフォーマットのシフトを意識してナディン・ゴーディマ(1923-2014)を加えると、“The Late Bourgeois World”執筆時の脳の活動が意欲と組になることを先行研究に加えておく。
     筆者の持ち場が言語学のため、購読脳の分析の際に、何かしらの言語分析を試みている。例えば、トーマス・マンには構文分析があり、魯迅にはことばの比較がある。そのため、全集の分析に拘る文学の研究者とは、分析のストーリーに違いがある。言語の研究者であれば、全集の中から一つだけLの分析のために作品を選び、その理由を述べればよい。なおLのストーリーは、人文と理系が交差するため、機械翻訳などで文体の違いのトレーニングをするとよい。
     なお、メゾのデータを束ねて何やらリスクの予測が立てば、言語分析や翻訳そして検定に基づくミクロと医学も含めたリスク社会論からなるマクロを合わせて広義の意味でシナジーのメタファーが作られる。

    花村嘉英(2020)「有島武郎の『小さき者へ』の執筆脳について」より

  • 堀辰雄の「風立ちぬ」で執筆脳を考える9

    4 まとめ

     堀辰雄の執筆時の脳の活動を調べるために、まず受容と共生からなるLのストーリーを文献により組み立てた。次に、「風立ちぬ」のLのストーリーをデータベース化し、最後に文献で止めたところを実験で確認した。そのため、テキスト共生によるシナジーのメタファーについては、一応の研究成果が得られている。
     この種の実験をおよそ100人の作家で試みている。その際、日本人と外国人6対4、男女比4対1、ノーベル賞作家30人を目安に対照言語が独日であることから非英語の比較を意識してできるだけ日本語以外で英語が突出しないように心掛けている。

    参考文献

    川野泰周 マインドフルネス実践講座 キャリアカレッジ 2020
    花村嘉英 計算文学入門-Thomas Mannのイロニーはファジィ推論といえるのか? 新風舎 2005
    花村嘉英 从认知语言学的角度浅析鲁迅作品-魯迅をシナジーで読む 華東理工大学出版社 2015
    花村嘉英 日语教育计划书-面向中国人的日语教学法与森鸥外小说的数据库应用 日本語教育のためのプログラム-中国語話者向けの教授法から森鴎外のデータベースまで 南京東南大学出版社 2017
    花村嘉英 从认知语言学的角度浅析纳丁・戈迪默-ナディン・ゴーディマと意欲 華東理工大学出版社 2018
    花村嘉英 シナジーのメタファーの作り方-トーマス・マン、魯迅、森鴎外、ナディン・ゴーディマ、井上靖 中国日語教学研究会上海分会論文集 2018  
    花村嘉英 川端康成の「雪国」に見る執筆脳について-「無と創造」から「目的達成型の認知発達」へ 中国日語教学研究会上海分会論文集 2019
    花村嘉英 社会学の観点からマクロの文学を考察する-危機管理者としての作家について 中国日語教学研究会上海分会論文集 2020
    堀辰雄 風立ちぬ (解説 池内輝雄) 集英社文庫 2013

    花村嘉英(2023)「堀辰雄の『風立ちぬ』で執筆脳を考える」より

  • 堀辰雄の「風立ちぬ」で執筆脳を考える8

    表3 情報の認知

    同上   情報の認知1 情報の認知2 情報の認知3
    A 表2と同じ。 2      2      2
    B 表2と同じ。 2      2     2
    C 表2と同じ。 3      2      2
    D 表2と同じ。 2      2     2
    E 表2と同じ。 2      2     2

    A:情報の認知1は②グループ化、情報の認知2は②新情報、情報の認知3は②問題未解決から推論へである。
    B:情報の認知1は②グループ化、情報の認知2は②新情報、情報の認知3は②問題未解決から推論へである。
    C:情報の認知1は③その他の条件、情報の認知2は②新情報、情報の認知3は②問題未解決から推論へである。
    D:情報の認知1は②グループ化、情報の認知2は②新情報、情報の認知3は②問題未解決から推論へである。
    E:情報の認知1は②グループ化、情報の認知2は②新情報、情報の認知3は②問題未解決から推論へである。  

    結果  
     堀辰雄は、この場面でなかなか書けない執筆中の仕事の結末を何とか好く考えたいと述べている。運命に逆らわず幸福を探しながら、目の前の仕事に集中し課題に取り組む姿勢があるため、「従順さと幸福の探求」と「集中とCEN」という組が相互に作用する。   

    花村嘉英(2023)「堀辰雄の『風立ちぬ』で執筆脳を考える」より