ブログ

  • 心理学統計の検定を用いて三浦綾子の「道ありき」を考える2

    2 心理学統計

    心理学統計では、心の働きを数値化しながら客観性を計り、集計や分析を試みる。心を測定する時は、様々な要因がデータに含まれるため、データには誤差が付き物である。そのため、統計学により誤差を取り除き真の値を求めていく必要がある。そうすると、限られた人数のデータから人間一般に共通する心の働きも推測可能になる。

    2.1 有意性検定

     科学では全般的に仮説を立てて検証する方法が使われる。実吉(2013)によると、検定の際に仮説が成り立つかどうかは、作成したデータから決めていく。検定の対象は、そこに有意性の差があるかどうかである。例えば、男女で満足度に差があるのかどうか、または不安度に差があるのかどうか考える。こうした問題に対してデータを集めながら検定すると、解答が見えてくる。

    【検定の流れ】
    帰無仮説と対立仮説を立てる → 独立変数と従属変数を具体的に決め、実験計画を立てる → データを取る → 実験計画に応じた統計検定を行う → 得られた有意確率(p値)を有意水準と比較する → 帰無仮説の棄却、採択を決定する。

     ここで、帰無仮説とは、比較する数値間に差がないという仮説である。対立仮説は比較する数値間に差があるとする仮説である。検定では、まず帰無仮説が正しいことを前提に検討され、帰無仮説が成り立たなければ、それを棄てて対立仮説に移り、差があるという結論にする。つまり背理法による命題の証明である。

    花村嘉英(2019)「心理学統計の検定を用いて三浦綾子の『道ありき』を考える」

  • 心理学統計の検定を用いて三浦綾子の「道ありき」を考える1

    1 先行研究との関係

     データベースを作成ながら購読脳と執筆脳を分析するシナジーのメタファーの研究も次第に安定してきている。これまでバランスを意識して二個二個のルールに基づき多くの組み合わせを作ってきた。統計についても、バラツキ、相関関係、多変量分析と進み、今回の心理学統計を含めれば、バラツキと相関、多変量と心理という組み合わせができる。この小論では、実吉(2013)の心理学統計の検定の手法に従い、三浦綾子の「道ありき」を題材にして男女の満足度の違いについて考えていく。 

    花村嘉英(2019)「心理学統計の検定を用いて三浦綾子の『道ありき』を考える」

  • 三浦綾子の「道ありき」の多変量解析-クラスタ分析と主成分10

    6 まとめ 

     データベースの数字を用いてクラスタ解析から得られた特徴を場面ごとに平均、標準偏差、中央値、四分位範囲と考察し、それぞれ何が主成分なのか説明できている。そのため、この小論の分析方法は、既存の研究とも照合ができ、統計による文学分析がさらに研究を濃くしてくれている。

    【参考文献】

    片野善夫 ほすぴ162号 知っているようで知らない五感のしくみ-視覚 ヘルスケア出版 2018
    加藤剛 多変量解析超入門 技術評論社 2013
    日本成人病予防協会監修 健康管理士一般指導員受験対策講座 ヘルスケア出版 2014 
    三浦綾子の「道ありき」 新潮文庫 2004
    花村嘉英 計算文学入門-Thomas Mannのイロニーはファジィ推論といえるのか? 新風舎 2005
    花村嘉英 从认知语言学的角度浅析鲁迅作品-魯迅をシナジーで読む 華東理工大学出版社 2015
    花村嘉英 日语教育计划书-面向中国人的日语教学法与森鸥外小说的数据库应用 日本語教育のためのプログラム-中国語話者向けの教授法から森鴎外のデータベースまで 南京東南大学出版社 2017
    花村嘉英 シナジーのメタファーの作り方-トーマス・マン、魯迅、森鴎外、ナディン・ゴーディマ、井上靖 中国日語教学研究会上海分解論文集 華東理工大学出版社 2018  
    花村嘉英 从认知语言学的角度浅析纳丁・戈迪默 ナディン・ゴーディマと意欲 
    華東理工大学出版社 2018
    花村嘉英 川端康成の「雪国」から見えてくるシナジーのメタファーとは-「無と創造」から「目的達成型の認知発達」へ 中国日語教学研究会上海分解論文集 華東理工大学出版社 2019
    花村嘉英 三浦綾子の「道ありき」の購読脳について 2019 

  • 三浦綾子の「道ありき」の多変量解析-クラスタ分析と主成分9

    【カラム】
    A平均1.2 標準偏差0.4 中央値1.0 四分位範囲0
    B平均1.0 標準偏差0 中央値1.0 四分位範囲0
    C平均2.0 標準偏差0 中央値2.0 四分位範囲0
    D平均1.4 標準偏差0.49 中央値1.0 四分位範囲1.0
    【クラスタABとクラスタCD】
    AB 平均1.1低い、標準偏差0.2普通、中央値1.0低い、四分位範囲0低い
    CD 平均1.7高い、標準偏差0.24普通、中央値1.5高い、四分位範囲0.5低い
    【クラスタからの特徴を手掛かりにし、どういう情報が主成分なのか全体的に掴む】
    BとCの標準偏差が0のため、直示と新情報を中心に描こうと思っている。
    【ライン】合計は、言語の認知と情報の認知の和を表す指標であり、文理の各系列をスライドする認知の柱が出す数字となる。
    ① 6、視覚以外、直示、新情報、解決 → 精密検査の結果を報告する。
    ② 6、視覚、直示、新情報、未解決 → 旭川の病院に通院する。 
    ③ 6、視覚、直示、新情報、未解決 → 正月三浦光世が見舞いに来る。
    ④ 5、視覚、直示、新情報、解決 → 来年の正月の話もする。
    ⑤ 5、視覚、直示、新情報、解決 → 綾子は嫁に行くことになる。
    【場面の全体】
     視覚情報が8割ほどであり、脳に届く通常の五感の入力信号の割合に近い。従って、ここでは視覚の情報量が普通である。

    花村嘉英(2019)「三浦綾子の「道ありき」の多変量解析-クラスタ分析と主成分」より

  • 三浦綾子の「道ありき」の多変量解析-クラスタ分析と主成分8

    ◆場面3

    北大病院を退院して旭川に帰ったわたしは、精密検査の結果を、家人や三浦光世にあらためて報告した。血痰や喀血で、しばしば死の恐怖をわたしに与えた空洞が、いまや完全に治っていること、カリエスも、七年にわたってギプスベッドに忍耐したおかげで、堅実に治っていることをお互いに奇跡と喜び合った。 
    A2、B1、C2、D1

    ただ、結核性腹膜炎から婦人科の方が少し冒されているため、引き続いて超短波の療法を、旭川の病院で受けることになった。毎日の通院が、わたしの体を次第に鍛えて行った。十貫足らずだった体重が、いつしか十四貫にまでなっていった。 A1、B1、C2、D2

    明けて昭和三十四年の正月である。三浦が一番先に年賀に来てくれた。わたしたちは新年初めての礼拝を、二人で待った。聖書を共に読み、賛美歌を歌い、共に祈った。わたしは彼に尋ねた。「来年のお正月も来て下さるでしょうね。」 A1、B1、C2、D2

    あべかわ餅を食べていた彼は、箸をとめ黙って首を横にふった。「まあ!来てくださらないの?」わたしは驚いて彼を見た。彼はおだやかに笑って言った。「来年の正月は、二人でこの家に年賀に来ましょう」「え?二人で?」彼の言葉にわたしはハッとした。何とも言えない喜びが胸にこみあげた。 A1、B1、C2、D1

    三浦光世が帰った後、わたしは母に彼の言葉を告げた。夕食の時、母が父に言った。「とうさん、今年はタンスを買わなくてはなりませんよ」「タンスを?どうしてだ」「だって、綾ちゃんがと嫁に行くんですって」「綾子がお嫁に?相手は誰だ、人間か」 A1、B1、C2、D1

    花村嘉英(2019)「三浦綾子の「道ありき」の多変量解析-クラスタ分析と主成分」より

  • 三浦綾子の「道ありき」の多変量解析-クラスタ分析と主成分7

    【カラム】
    A平均1.4 標準偏差0.49 中央値1.0 四分位範囲1.0
    B平均1.2 標準偏差0.4 中央値1.0 四分位範囲0
    C平均1.6 標準偏差0.49 中央値2.0 四分位範囲1.0
    D平均1.6 標準偏差0.49 中央値2.0 四分位範囲1.0
    【クラスタABとクラスタCD】
    AB 平均1.3低い、標準偏差0.44普通、中央値1.0低い、四分位範囲0.5低い
    CD 平均1.6普通、標準偏差0.49普通、中央値2.0高い、四分位範囲1.0低い
    【クラスタからの特徴を手掛かりにし、どういう情報が主成分なのか全体的に掴む】
    前川正を哀れに思う夢であるが、情報は旧から新、問題は未解決から解決へ進んでいく。
    【ライン】合計は、言語の認知と情報の認知の和を表す指標であり、文理の各系列をスライドする認知の柱が出す数字となる。
    ① 7、視覚以外、隠喩、旧情報、未解決 → 自殺をはかったことを愚かと悔やむ。
    ② 5、視覚、直示、新情報、解決 → 前川正の母が見舞いに来る。
    ③ 6、視覚、直示、新情報、未解決 → 前川が死んだと告げる。
    ④ 6、視覚以外、直示、旧情報、未解決 → 夢なのに厭な予感がした。
    ⑤ 5、視覚、直示、新情報、解決 → 前川正は退院することになった。
    【場面の全体】
     視覚情報が6割で通常の五感の入力信号の割合よりも低いため、視覚以外の情報が問題解決に効いている。

    花村嘉英(2019)「三浦綾子の「道ありき」の多変量解析-クラスタ分析と主成分」より

  • 三浦綾子の「道ありき」の多変量解析-クラスタ分析と主成分6

    ◆場面2

    わたしは、曾つて自分が、自殺を計ったことを思い出した。一人の人間が健康を取り戻すのに、これほどの苦しみを経なければならない。何とももったいないことを考えたのかと、その頃になってやっと自分の愚かさが悔やまれたりするのだった。 A2、B2、C1、D2

    彼の二回目の手術が終わった翌朝だった。うつらうつらしているわたしの病室に、彼の母と、弟さんが入って来た。私の所から借りたゴザを返しに来たという。そのゴザは、彼の母が病室に敷いて使うのに、わたしがお貸ししたのだった。 A1、B1、C2、D1

    驚いたわたしが、「どうして、もういらないのですか」と聞くと、「正が先ほど亡くなりましたから、もういらなくなったのです」と、おっしゃって、弟さんと二人で、わたしのベッドにつかまって泣かれるのだった。
    A1、B1、C2、D2

    「そんなはずがありません」
    そう叫ぼうとおもうのだが、なかなか声にならない。やっと声になったかと思った時、わたしは目をさました。いまのが夢だったとは思えないほど、あまりにありありとしていて、わたしは言いようのない不吉な予感がした。いやな夢を見たというより、いやな幻を見せられたという感じだった。 A2、B1、C1、D2

    だが、わたしの夢とは反対に、彼は再び日に日に元気になり、やがて三月の末に退院することになった。彼の父が迎えに来られ、わたしを見舞ってくださった時、わたしは目を真っ赤に泣きはらしていた。大きな手術も無事に終って、元気に反っていくのだから、わたしは誰よりも喜んでいいはずだった。それなのに、なぜかわたしは泣けて仕方がなかった。 A1、B1、C2、D1

    花村嘉英(2019)「三浦綾子の「道ありき」の多変量解析-クラスタ分析と主成分」より

  • 三浦綾子の「道ありき」の多変量解析-クラスタ分析と主成分5

    A平均1.0 標準偏差0 中央値1.0 四分位範囲0
    B平均1.4 標準偏差0.49 中央値1.0 四分位範囲1.0
    C平均2.0 標準偏差0 中央値2.0 四分位範囲0
    D平均1.0 標準偏差0 中央値1.0 四分位範囲0
    【クラスタABとクラスタCD】
    AB 平均1.2普通、標準偏差0.24普通、中央値1.0低い、四分位範囲0.5低い
    CD 平均1.5高い、標準偏差0低い、中央値]1.5普通、四分位範囲0低い
    【クラスタからの特徴を手掛かりにし、どういう情報が主成分なのか全体的に掴む】
    A、C、Dのバラツキが小さいことから、作者の考察は一定している。
    【ライン】合計は、言語の認知と情報の認知の和を表す指標であり、文理の各系列をスライドする認知の柱が出す数字となる。
    ① 5、視覚、直示、新情報、解決 → 釈迦が一人で山に入る。
    ② 5、視覚、直示、新情報、解決 → 宗教に見る共通性。
    ③ 6、視覚、直示、新情報、未解決 → 発見による転機。
    ④ 6、視覚以外、直示、旧情報、未解決 → 追いつめられると何かが開ける。
    ⑤ 5、視覚、直示、新情報、解決 → 求道生活を修正。
    【場面の全体】
     全体で視覚情報は10割であり、脳に届く通常の五感の入力信号の割合よりもかなり高いため、視覚の情報が問題解決に効いている。

    花村嘉英(2019)「三浦綾子の「道ありき」の多変量解析-クラスタ分析と主成分」より

  • 三浦綾子の「道ありき」の多変量解析-クラスタ分析と主成分4

    ◆場面1

    言ってみれば、この世で望める限りの幸福を一心に集めていたわけだ。しかし彼は老人を見て、人間の衰えゆく姿を思い、葬式を見て、人の命の有限なることも思った。そしてある夜ひそかに、王宮も王子の地位も、美しい妻も子も棄てて、一人山の中に入ってしまった。 A1、B1、C2、D1

    つまり釈迦は、今まで自分が幸福だと思っていたものに、むなしさだけを感じ取ってしまったのであろう。伝導の書といい、釈迦といい、そのそもそもの初めには虚無があったということに、わたしは宗教というものに共通する一つの姿を見た。 A1、B1、C2、D1

    わたし自身、敗戦以来すっかり虚無的になっていたから、この発見はわたしに一つの転機をもたらした。
    A1、B1、C2、D1

    虚無は、この世のすべてのものを否定するむなしい考え方であり、ついには自分自身をも否定することになるわけだが、そこまで追いつめられた時に、何かが開けるということを、伝導の書にわたしは感じた。
    A1、B2、C2、D1

    この伝導の書の終わりにあった、「何時の若き日に、何時の造り主をおぼえよ」の一言は、それ故にひどくわたしの心を打った。それ以来私たちの求道生活は、次第にまじめになっていった。A1、B2、C2、D1

    花村嘉英(2019)「三浦綾子の「道ありき」の多変量解析-クラスタ分析と主成分」より

  • 三浦綾子の「道ありき」の多変量解析-クラスタ分析と主成分3

    3 多変量の分析

     多変量を解析するには、クラスタと主成分が有効な分析になる。これらの分析がデータベースの統計処理に繋がるからである。
     多変数のデータでも、最初は1変数ごとの観察から始まる。また、クラスタ分析は、多変数のデータを丸ごと扱う最初の作業ともいえる。似た者同士を集めたクラスタを樹形図からイメージする。それぞれのクラスタの特徴を掴み、それを手掛かりに多変量データの全体像を考えていく。樹形図については、単純な二個二個のクラスタリングの方法を想定し、変数の数や組み合わせを考える。
     作成したデータベースから特性が2つあるカラムを抽出し、グループ分けをする。例えば、A五感(1視覚と2それ以外)、Bジェスチャー(1直示と2比喩)、C情報の認知プロセス(1旧情報と2新情報)、D情報の認知プロセス(1問題解決と2未解決)というように文系と理系のカラムをそれぞれ2つずつ抽出する。
     まず、ABCDそれぞれの変数の特徴について考える。次に、似た者同士のデータをひとかたまりにし、ここでは言語の認知ABと情報の認知CDにグループ分けをする。得られた変数の特徴からグループそれぞれの特徴を見つける。
     最後に、各場面のラインの合計を考える。それぞれの要素からどのようなことがいえるのであろうか。「道ありき」のバラツキが縦のカラムの特徴を表しているのに対し、ここでのクラスタは、一場面のカラムとラインの特徴を表している。
     なお、外界情報の獲得に関する五感の割合は、視覚82%、聴覚11%、嗅覚4%、触覚2%、味覚1%とする。(片野2018)

    花村嘉英(2019)「三浦綾子の「道ありき」の多変量解析-クラスタ分析と主成分」より