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  • モンタギュー文法からGPSGへ-イディオムの構成性をめぐるモデル理論の修正14

     統語カテゴリーに意味タイプを割り当てた後で、PTQのように、ここに翻訳規則は設定されない。まず、カテゴリーCの語彙項目(α)の翻訳が(16)の部分木により認可される。*

    (16) C,α‘
         ↓
         α

     次に、Cラベルの接点の娘の翻訳を結ぶ際に、(16)のタイプ駆動の方式が採用されている。*

    (17)α∈ME(a, b), β∈ME a, →α(β)∈ME b

     (17)は、α、βがそれぞれ意味タイプ<a, b>、<a>を持つILの有意表現ならば、α(β)は、bタイプの有意表現となることを示している。例えば、(15)のS、NP、VPタイプのILへの翻訳は、(18)となる。
     
    (18)
    1 FR:(S, {NP‘, VP‘}m)={ VP‘(NP)}
    2 FR:(NP, {Det‘, N‘}m)={ Det‘(N)}
    3 FR:(VP, {V[2]‘, NP‘}m)={ V[2]‘(NP)}

    花村嘉英(2022)「モンタギュー文法からGPSGへ-イディオムの構成性をめぐるモデル理論の修正」より

  • モンタギュー文法からGPSGへ-イディオムの構成性をめぐるモデル理論の修正13

    3.2 タイプと翻訳

     PTQは、統語カテゴリーと意味タイプ(ILの有意表現の意味上のクラス分け)間に準同形または構成性の写像を持つが、GPSGでは、双方をつなぐ関数タイプを準同形としては扱わない。これは、1.2.1にも示したように、GPSGでは、統語カテゴリーが意味構造の反映のない素性値指定の場合からなる複合体と見なされているからである。関数タイプによる(10)の統語カテゴリーに対するタイプ割り当ては、(15)になる。但し、複合タイプには、簡略化のためにカテゴリーラベルを用い、Sは、文カテゴリーを、Sは、内包タイプを表している。

    (15)
    1 TYP(S): <s, t>
    2 TYP(NP): <s, <<e, t>, t>>
    3 TYP(N1): <s, <<e, t>, t>>
    4 TYP(Det):< N1, NP>
    5 TYP(VP):<NP, S>

     ここでは、Dowty et al (1981)に従い、PTQで採用されている個体概念(s, e)の代わりに単に個体(e)を当てている。表現のタイプ付与は、モデル内でのそのタイプの可能な支持対象(D)の決定につながる。指示対象は、モデル理論のプリミティブな要素(個体(e), 真理値(t), 内包または指標(s))からなり、例えば、D<s, t>(指標(s)(可能世界(i)と時点(j)の対)の集合からtタイプの集合への関数と読む)は、命題を、D<e, t>は、個体の集合を、D<s, <e, t>, t>>は、個体の集合の属性を表す。

    花村嘉英(2022)「モンタギュー文法からGPSGへ-イディオムの構成性をめぐるモデル理論の修正」より

  • モンタギュー文法からGPSGへ-イディオムの構成性をめぐるモデル理論の修正12

    3  意味論

    3.1 GPSGの意味論

     モデル理論の枠組みで優位表現に対し指示対象を回帰的に定義していくGPSGの意味論は、Montague Grammar 同様、真理条件意味論および可能性世界意味論を備えている。しかし、若干の修正は見られ、以下でその点を考察していく。

    花村嘉英(2022)「モンタギュー文法からGPSGへ-イディオムの構成性をめぐるモデル理論の修正」より

  • モンタギュー文法からGPSGへ-イディオムの構成性をめぐるモデル理論の修正11

     CAPは、部分木の娘同士の素性間を受け持つ。例えば、部分木の文末のうち、因数であるカテゴリーの素性を関数であるカテゴリーに引き渡す役割を果たす。* この種のCAPが作用して、(14)のNP素性がVPに伝わる。HFCは、部分木の語彙的主要部となる娘カテゴリーにその親カテゴリーが待つ主要部素性を受け渡していく。*
     HFCは、部分木の語彙的主要部となる娘カテゴリーにその親カテゴリーが持つ主要部素性を受け渡していく。

    (11‘) S[N, -][V, +][V[FIN]]
             
    NP[N, +][V, -][PLU, -][PER, 3] VP[N, -][V, +][V[FIN]][PLU, -]
                 
    Det N1 [N, +][V, -][PLU, -][PER, 3] V[N, -][V, +][V[FIN]][PLU, -] NP
     Ein Mann       liest         ein Buch
    N[N, +][V, -][PLU, -][PER, 3]

    花村嘉英(2022)「モンタギュー文法からGPSGへ-イディオムの構成性をめぐるモデル理論の修正」より

  • モンタギュー文法からGPSGへ-イディオムの構成性をめぐるモデル理論の修正10

    2.2.4 FFP、CAP、HFC

     これらは、木の中での素性の分布を決定する普遍的な制約である。FFPは、部分木の親カテゴリーの足素性がその娘の足素性のユニフィケーションに等しいことを示してくれる。*足素性は、NP[NULL, +]/NPというカテゴリーのSLASH素性や関係代名詞の素性値指定[WH[WHMOR R]]などに現れる。NULLは、空のX2を導く(13)のメタ規則により認可される。

    (13)スラッシュ終端メタ規則1(Slash Termination)
       X→W, X2
        ⇩
    X→W, X2[NULL, +]

    (14) S
                      △
    NP[PLU, -] → VP
    △ liest ein Buch
    NP[PLU, -] S
    ein Mann △
    NP[WH[WHMOR R]] S/NP
    | △
    N[WH[WHMOR R]] NP[PLU, -] →VP/NP
    dessen die Welt △
    NP[NULL, +]/NP V
    e bedarf

    花村嘉英(2022)「モンタギュー文法からGPSGへ-イディオムの構成性をめぐるモデル理論の修正」より

  • モンタギュー文法からGPSGへ-イディオムの構成性をめぐるモデル理論の修正9

    2.2.3 メタ規則

     メタ規則は、基本的なID規則だけでは表現できない、ID規則からID規則への関係(受身、等値、スラッシュな)を扱う。その適用範囲は、語彙的ID規則に限られている。また、この規則は、回帰的には使われない。その数を有限とすることで文脈自由の性質を保つのである。*

    (12)主語-助動詞倒置メタ規則(Subject-Aux Inversion: SAI)
    V2[[SUBJ, -]] →W
    V2[[INV, +], [SUBJ, +]] →W, NP

    (12)のメタ規則は、(10)4のようなID規則から文カテゴリーSを平らなS構造へと展開する。Wは、ID規則の中の任意のカテゴリーを表す変数である。また、素性値指定[INV, +]は、[VFORM[FIN]](時制)を素性値指定[SUBJ, +]は、[N, -], [V, +], [BAR, 2]を含意している。*

    花村嘉英(2022)「モンタギュー文法からGPSGへ-イディオムの構成性をめぐるモデル理論の修正」より

  • モンタギュー文法からGPSGへ-イディオムの構成性をめぐるモデル理論の修正8

     ID規則は、語彙的と非語彙的に分かれる。前者には、H[n](nは整数)という語彙的主要部が導入され、SUBCATとBARの素性があるが、後者に下位カテゴリー化はない。

    (10)
    1 S→X2, H[SUBJ, -]
    2 NP→Det, N1
    3 N1→H[1]
    4 VP→H[2], NP[ACC]

     (10)の規則は、LP規則(Det<N, V[MC, +]<NP)およびFSD3[INV、-]を伴い(11)の木を認可する。

    (11)   S
        △
    NP[NOM]  VP
    △ △
    Det N1 V[2] NP[ACC]

    花村嘉英(2022)「モンタギュー文法からGPSGへ-イディオムの構成性をめぐるモデル理論の修正」より

  • モンタギュー文法からGPSGへ-イディオムの構成性をめぐるモデル理論の修正7

    2.2.2 ID規則とLP規則

     親とそれが直接支配する娘とからのみ構成される部分木は、ID規則により写し出される。ID規則の担う情報は、親と娘の直接支配関係だけで、部分木の構成要素間の線的順序は、LP規則に委ねられる。こうした情報の二分化は、ドイツ語などに比べてより語順が自由な言語の場合*、従来のPSGでは、一度に一つの規則が述べられるだけで、句構造を全て列挙しなければならなくなるゆえに取られた措置である。* 

    (9) PSG GPSG
    A→BCD ID規則  LP規則
    B→BDC A→B, C, D B<C
    B→CD B→C, D B<D
    C→ABD C→A, B, D
    C→BAD
    C→BDA

     ID規則は、語彙的と非語彙的に分かれる。前者には、H[n](nは整数)という語彙的主要部が導入され、SUBCATとBARの素性があるが、後者に下位カテゴリー化はない。

    花村嘉英(2022)「モンタギュー文法からGPSGへ-イディオムの構成性をめぐるモデル理論の修正」より

  • モンタギュー文法からGPSGへ-イディオムの構成性をめぐるモデル理論の修正6

    素性間には、その一定の依存性を表したFCRがある。*

    (7)
    FCR1 [BAR, 0] =[N]&[V]&[SUBCAT]
    FCR2 [BAR, 1] ⊃~[SUBCAT]
    FCR3 [BAR, 2] ⊃~[SUBCAT]
    FCR4 [NULL, +] ⊃[SLASH]

     FCR1は、あるカテゴリーが[BAR, 0](語彙的主要部)となるには、N、V、SUBCATに関する素性の指定がある時に限るという意味である。FCR2とFCR3は、語彙的主要部の当社が下位カテゴリー化をせず、SUBCATの値を持つことはないといっている。また、FCR4により、NULLから足素性値SLASHが導かれる。NULLは、FFPの説明の際、再び取り上げる。
     素性と素性値が取る通常値を指定するためにFSDがある。*

    (8)FSD1 ~[NULL]
    FSD2 ~[NOM]
    FSD3 [INV, -]

     FSD1とFSD2は、素性[NULL]と素性値[NOM]が有標であることを、FSD3は、限られた場合に等値が起こることを表している。

    花村嘉英(2022)「モンタギュー文法からGPSGへ-イディオムの構成性をめぐるモデル理論の修正」より

  • モンタギュー文法からGPSGへ-イディオムの構成性をめぐるモデル理論の修正5

     素性と素性値の対の集合からカテゴリーが構成される。* この対は、素性値指定と呼ばれる。(4)のNPを正確に記すと、それは、次のような素性値指定の集合と考えられる。但し、カテゴリーのNと素性のNを混同してはならない。

    (5)NP=[N, +], [V, -], [BAR, 2], [PLU, -], [PER, 3], [CASE, NOM]]

     カテゴリーには、主要なものと副次的なものとがある。前者は、N、V、A、Pおよびそれらの投射、後者は、Det(限定詞)、CONJ(接続詞)、COMP(補文標識)などで、これらは、BAR素性の値を欠いている。しかし、GPSGでは、BAR指定がなくてもSUBCATが指定されていれば、語彙カテゴリーのメンバーなのである。*

    (6)
    A=[N, +], [V, -]
    B=[N, +], [PLU, -]
    Unif(A, B) =extension(A) =extension(B)

    (6)は、Unif(A, B)がカテゴリーA、 Bの合成([N, +], [V, -], [PLU, -])を値とする関数で、それがAとBのそれぞれに含まれるすべての素性値指定を拡張したものになるということを表している。カテゴリーA、Bのユニフィケーションとは、A、Bの拡張であり、かつ最小のカテゴリーを求めることである。*

    花村嘉英(2022)「モンタギュー文法からGPSGへ-イディオムの構成性をめぐるモデル理論の修正」より