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  • 心理学統計の検定を用いてペーター・ハントケの「幸せではないが、もういい」を考える2

    2 心理学統計

     心理学統計では、心の働きを数値化しながら客観性を計り、集計や分析を試みる。心を測定する時は、様々な要因がデータに含まれるため、データには誤差が付き物である。そのため、統計学により誤差を取り除き真の値を求めていく必要がある。そうすると、限られた人数のデータから人間一般に共通する心の働きも推測可能になる。

    2.1 有意性検定

     科学では全般的に仮説を立てて検証する方法が使われる。実吉(2013)によると、検定の際に仮説が成り立つかどうかは、作成したデータから決めていく。検定の対象は、そこに有意性の差があるかどうかである。例えば、男女の性差で満足度に差があるのかどうか、または不安度に差があるのかどうか考える。こうした問題に対してデータを集めながら検定すると、解答が見えてくる。

    【検定の流れ】
    帰無仮説と対立仮説を立てる → 独立変数と従属変数を具体的に決め、実験計画を立てる → データを取る → 実験計画に応じた統計検定を行う → 得られた有意確率(p値)を有意水準と比較する → 帰無仮説の棄却、採択を決定する

     ここで、帰無仮説とは、比較する数値間に差がないという仮説である。対立仮説は比較する数値間に差があるとする仮説である。検定では、まず帰無仮説が正しいことを前提に検討され、帰無仮説が成り立たなければ、それを棄てて対立仮説に移り、差があるという結論にする。つまり背理法による命題の証明である。

    花村嘉英(2020)「心理学統計の検定を用いてペーター・ハントケの『幸せではないが、もういい』を考える」より

  • 心理学統計の検定を用いてペーター・ハントケの「幸せではないが、もういい」を考える1

    1 先行研究との関係

     データベースを作成ながら購読脳と執筆脳を分析するシナジーのメタファーの研究も次第に安定してきている。これまでバランスを意識して二個二個のルールに基づき多くの組み合わせを作ってきた。統計についても、バラツキ、相関関係、多変量分析と進み、今回の心理学統計を含めれば、バラツキと相関、多変量と心理という組み合わせができる。この小論では、実吉(2013)の心理学統計の検定の手法に従い、ハントケの「幸せではないが、もういい」を使用して、作者と母ならびに作者と自身との距離に違いがあるかどうか考えていく。

    花村嘉英(2020)「心理学統計の検定を用いてペーター・ハントケの『幸せではないが、もういい』を考える」より  

  • ペーター・ハントケの「幸せではないが、もういい」の相関関係について6

    4 相関係数を言葉で表す

     数字の意味を言葉で確認しておこう。 

    -0. 7≦r≦-1.0 強い負の相関がある
    -0.4≦r≦-0.7 やや負の相関がある
    0≦r≦-0.4 ほとんど負の相関がない
    0≦r≦0.2 ほとんど正の相関がない
    0.2≦r≦0.4 やや正の相関がある
    0.4≦r≦0.7 かなり正の相関がある
    0.7≦r≦1 強い正の相関がある

    5 まとめ

     ハントケの“Wunschloses Unglück”のデータベースのうち、言語の認知のカラム、感情の縺れが1ある、2ないと、情報の認知のカラム、人工知能で1記憶、2感情は、負の強い相関関係になることがわかった。
     
    参考文献

    花村嘉英 計算文学入門-Thomas Mannのイロニーはファジィ推論といえるのか? 新風舎 2005
    花村嘉英 从认知语言学的角度浅析鲁迅作品-魯迅をシナジーで読む 華東理工大学出版社2015
    花村嘉英 日语教育计划书-面向中国人的日语教学法与森鸥外小说的数据库应用 日本語教育のためのプログラム-中国語話者向けの教授法から森鴎外のデータベースまで 南京東南大学出版社 2017
    花村嘉英 从认知语言学的角度浅析纳丁・戈迪默 ナディン・ゴーディマと意欲 華東理工大学出版社 2018
    前野昌弘 回帰分析超入門 技術評論社 2012
    Peter Handke Wunschloses Unglück Suhrkamp 2019

  • ペーター・ハントケの「幸せではないが、もういい」の相関関係について5

    表2 計算表

    A 1 4 5
    偏差 1.5 -1.5 0
    偏差2 2.25 2.25 4.5
    B 1 4 5
    偏差 -1.5 1.5 0
    偏差2 2.25 2.25 4.5
    AB偏差の積 -2.25 -2.25 -4.5

    ◆相関係数は、次の公式で求めることができる。

    相関係数=[(A-Aの平均値)x(B-Bの平均値)]の和/
    √(A-Aの平均値)2の和x(B-Bの平均値)2の和

    上記計算表を代入すると、

    相関係数 = -4.5/√4.5 x 4.5 = -4.5/4.5 = -1

    従って、負の強い相関があるといえる。

    花村嘉英(2020)「ハントケの『幸せではないが、もういい』の相関関係について」より

  • ペーター・ハントケの「幸せではないが、もういい」の相関関係について4

    A 言語の認知(感情の縺れ):1ある、2ない →4、1
    B 人工知能:1記憶、2感情 →1、4
     
    ◆A、Bそれぞれの平均値を出す。
    Aの平均:(4+ 1)÷ 2 = 2.5 
    Bの平均:(1+ 4)÷ 2 = 2.5
    ◆A、Bそれぞれの偏差を計算する。偏差=各データ-平均値  
    Aの偏差:(4 – 2.5)、(1 – 2.5)= 1.5、-1.5
    Bの偏差:(1 – 2.5)、(4 – 2.5)= -1.5、1.5
    ◆A、Bの偏差をそれぞれ2乗する。
    Aの偏差2乗 = 2.25、2.25
    Bの偏差2乗 = 2.25、2.25
    ◆AとBの偏差同士の積を計算する
    (Aの偏差)x(Bの偏差)= 2.25、2.25
    ◆AとBを2乗したものを合計する。
    Aの偏差を2乗したものの合計 = 2.25 + 2.25 = 4.5 
    Bの偏差を2乗したものの合計 = 2.25 + 2.25 = 4.5
    ◆Aの偏差xBの偏差の合計を計算する。2.25 + 2.25 = 4.5

    花村嘉英(2020)「ハントケの『幸せではないが、もういい』の相関関係について」より

  • ペーター・ハントケの「幸せではないが、もういい」の相関関係について3

    3 小説の場面に適用する

    表1 母マリアが自分の居場所を把握する場面

    A Sie lief nie weg. Sie wußte inzwischen, wo ihr Platz war. “Ich warte nur, bis die Kinder groß sind.” Eine dritte Abtreibung, diesmal mit einem schweren Blutsturz. Kurz vor ihrem vierzigsten Lebensjahr wurde sie noch einmal schwanger. Eine weitere Abtreilung war nicht mehr möglich, und sie trug das Kind aus. 
    言語の認知1、人工知能1

    B Das Wort “Armut” war ein schönes, irgendwie edles Wort. Es gingen von ihm sofort Vorstellungen wie aus alten Schulbüchern aus: arm, aber sauber. Die Sauberkeit machte die Armen gesellschaftsfähig.
    言語の認知1、人工知能2

    C Der soziale Fortschritt bestand in einer Reinlichkeitserziehung; waren die Elenden sauber geworden, so wurde “Armut” eine Ehrenbezeichnung. Das Elend war dann für die Betriffenen selber nur noch der Schmutz der Asozialen in einem anderen Land. 言語の認知2、人工知能2

    D ”Das Fenster ist die Visitenkarte des Bewohners.” So gaben die Habenichte gehorsam die fortschrittlich zu ihrer Sanierung bewilligten Mittel für ihre eigene Stubenreinheit aus. 言語の認知1、人工知能2

    E Im Elend hatten sie die öffentlichen Vorstellungen noch mit abstoßenden, aber gerade darum konkret erlebbaren Bildern gestört, nun, als sanierte, gesäuberte “ärmere Schicht”, wurde ihr Leben so über jede Vorstellung abstrakt, daß man sie vergessen konnte. Vom Elend gab es sinnliche Beschreibungen, von der Armut nur noch Sinnbilder. 言語の認知1、人工知能1

    花村嘉英(2020)「ハントケの『幸せではないが、もういい』の相関関係について」より

  • ペーター・ハントケの「幸せではないが、もういい」の相関関係について2

    2 相関の作り方

     シナジーのメタファーのために作成しているデータベースは、データの種類で見ると、俗に言う測れないカテゴリーデータからなる。数量データといわれる身長、体重、気温、湿度などとは異なり、値が連続ではなく飛び飛びで離散的となる。前野(2012)によると、カテゴリーデータは、対象の性質を表したり、現象や区別を表したりする。性別、好き、嫌い、うまい、まずい、おもしろいなどあるものの性質や現象が示される。
     相関とは原因から結果が生じ、それが互いに関係しあっていることをいう。また、相関関係があるとは、ある測定値の変化に対して他の測定値も変化する場合に使われる。相関の強さは、ピアソンの相関係数で表す。合わせて共分散という統計用語が重要になる。 

    (1) 共分散の公式
    共分散=[(xの各データ-xの平均値)x(yの各データ-yの平均値)]の和/データ数
       =[(xの偏差)x(yの偏差)]の和/データ数
       = xとyの偏差積の和/データ数

    正の相関があると0より大きく、負の相関があると0より小さくなる。

    (2) 相関係数(ピアソン)
    相関係数=XYの偏差平方和/√(Xの偏差平方和)x(Yの偏差平方和)

    ‟Wunschloses Unglück”の問題解決の場面を使用して、簡単な例を見てみよう。

    花村嘉英(2020)「ハントケの『幸せではないが、もういい』の相関関係について」より

  • ペーター・ハントケの「幸せではないが、もういい」の相関関係について1

    1 先行研究

     母の半生と精神障害を描いた‟Wunschloses Unglück”(幸せではないが、もういい)の自作のデータベースを使用し、既存の研究と照合すると、執筆時のペーター・ハントケ(1942年-)には、母との距離や自分との距離に纏わる感情の縺れが確認できる。  
     この小論では、当該のデータベースを使用して相関関係を考察する。言語の認知のカラムは、感情の縺れが1ある、2ない、情報の認知のカラムは、人工知能を1記憶、2感情にする。 

    花村嘉英(2020)「ハントケの『幸せではないが、もういい』の相関関係について」より

  • ペーター・ハントケの「幸せではないが、もういい」のバラツキについて9

    3 まとめ 
     
     リレーショナル・データベースの数字及びそこから求めた標準偏差により、‟Wunschloses Unglück”に関して部分的ではあるが、既存の分析例が説明できている。従って、この小論の分析方法、即ちデータベースを作成する文学研究は、データ間のリンクなど人の目には見えないものを提供してくれるため、これまでよりも客観性を上げることに成功している。 

    【参考文献】

    花村嘉英 計算文学入門-Thomas Mannのイロニーはファジィ推論といえるのか?新風舎 2005
    花村嘉英 从认知语言学的角度浅析鲁迅作品-魯迅をシナジーで読む 華東理工大学出版社 2015
    花村嘉英 日语教育计划书-面向中国人的日语教学法与森鸥外小说的数据库应用 日本語教育のためのプログラム-中国語話者向けの教授法から森鴎外のデータベースまで 南京東南大学出版社 2017
    花村嘉英 从认知语言学的角度浅析纳丁・戈迪默 ナディン・ゴーディマと意欲 華東理工大学出版社 2018
    花村嘉英 ハントケの‟Wunschloses Unglück”の執筆脳について ファンブログ 2020
    Peter Handke Wunschloses Unglück Suhrkamp 2019

  • ペーター・ハントケの「幸せではないが、もういい」のバラツキについて8

    ◆グループC:情報の認知プロセス(1旧情報と2新情報)
    場面1(特性1、0個と特性2、5個)の標準偏差は、0となる。
    場面2(特性1、0個と特性2、5個)の標準偏差は、0となる。
    場面3(特性1、0個と特性2、5個)の標準偏差は、0となる。
    【数字からわかること】
    場面1、場面2、場面3を通して、新情報が多いため、ストーリーがテンポよく展開していることがわかる。

    ◆グループD:情報の認知プロセス(1問題解決と2未解決)
    場面1(特性1、4個と特性2、1個)の標準偏差は、0.4となる。
    場面2(特性1、1個と特性2、4個)の標準偏差は、0.4となる。
    場面3(特性1、3個と特性2、2個)の標準偏差は、0.49となる。
    【数字からわかること】
    ペーター・ハントケは、‟Wunschloses Unglück”執筆中、場面の最後で問題解決を試みていることから、場面単位で作品の構成を考えている。

    花村嘉英(2020)「ペーター・ハントケの『幸せではないが、もういい』のバラツキについて」