有吉佐和子の「華岡青州の妻」で執筆脳を考える2


2 「華岡青州の妻」のLのストーリー

 世界初の全身麻酔による乳癌手術の成功者華岡青洲(1760-1835)は、当時でいう先端を行く外科医として乳癌の手術の方法を探していた。京都帰りの25歳のときには、曼荼羅華を主成分とする麻酔剤が研究テーマであった。
 青洲の妻加恵は、封建社会の家を重んずる姑と敵対関係にあり、和歌森(2010)にいわせると、家と女の関わりは、今も昔も特別といえる。歴史に名高い医者の家でも女心の葛藤は、有吉佐和子(1931-1984)をして小説の題材になった。そのため、購読脳は、「女心の葛藤と外科医術の開拓」にする。
 作品の中では、精神内部で異なる方向の力同士が衝突している。衝突しながらも、小姑お勝が乳癌になってから、青洲の麻酔薬作りは人体実験の段階に入り、姑と嫁の争いが頂点に達する。青州は、最初母に麻酔剤を試してみる。しかし、母は、薬の完成を早呑み込みしたため、青洲も内心忸怩たるものがあった。 
 加恵の献身は、自身を実験台として麻酔剤を生産させたことである。青洲は、曼荼羅華の花や種を多量にし、猛毒の草烏頭も調合した。於継に飲ませた量とは比べものにならない。加恵の場合、三日二晩寝続け、目が覚めてから健康状態に戻るまで半月かかった。しかし、辛いとは思わなかった。そして通仙散が誕生した。無論、青州の達成感も格別であった。
 息子も出産し、麻酔剤も成就させ、加恵は、盲目になるも達成感のある晩年を過ごす。そこで、執筆脳は「衝突と達成」にする。また、購読脳と執筆脳をマージしたシナジーのメタファーは、「有吉佐和子と葛藤」である。

花村嘉英(2020)「有吉佐和子の『華岡青州の妻』の執筆脳について」より

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