HPSGから見たことばの呼応とその運用について-英語、ドイツ語、日本語、中国語を中心に11


4 HPSGの束縛理論

 ここでは指示に関する名詞が分析の対象になる。指示の名詞とは、例えば、代名詞(she)、照応表現(herselfまたはeach other)そして固有名詞(May)や普通名詞(the girl)のことである。代名詞には言語レベルと言語外の世界をつなぐ役割があり、文を跨いである人やものを指示することができる。照応表現の場合は、同一文の中で同一の人やものを指示する。そして固有名詞や普通名詞は、特定の状況で人やものを指す表現になる。
 周知のように、チョムスキーは、GB理論の中で指示と照応の問題について階層的な統率(Government)の関係と束縛(Binding)の理論を立てている。
チョムスキーの束縛理論は、照応表現が同一文内で束縛されることを要求するが、代名詞については同一文内で束縛されることはない。例えば、YがZを束縛する条件は、(35)の①と②を満たす場合である。また、C統御は階層の概念であり、YがZをC統御する条件とは、(36)のように定義される。

(35) ① YとZが同一指標となり、② YがZをC統御する。
(36) ① ZがYを含む最大投射(XP)の中に含まれて、② ZがYに含まれない。

 YがZを束縛するという束縛の階層は、(37)のようになる。

(37)          X
.           △
.     Yi             △
.                        …Zi…

 チョムスキーのGB理論が階層的な束縛理論であるのに対して、HPSGは、GB理論の問題点を解決できるように、非階層的な束縛理論になっている。例えば、c統御は、斜格性の統御(Obliqueness command)と呼ばれる別の文法関係に代わっている。これは通常の樹形図ではなく、文法機能を相対的に示すボックスが使用されている。(花村 2005)

花村嘉英(2018)「ことばの呼応とその運用を比較する-英語、ドイツ語、日本語、中国語を中心に」より

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