HPSGから見たことばの呼応とその運用について-英語、ドイツ語、日本語、中国語を中心に1


1 英語の呼応

 この小論で扱う英語に関する3つの呼応の表現は、最初に代名詞と先行詞、次に主語と動詞、最後が限定詞と名詞の組み合わせである。(Pollard, Carl/Sag, A.Ivan Head Driven Phrase Structure Grammar The University of Chicago Press 1994)

1.1 代名詞と先行詞の呼応

 英語の代名詞は、人称、数そして性について先行詞の名詞と名詞句とが呼応する。この種の呼応は、代名詞が再帰的かどうか、または、先行詞が指示と量化のどちらにとれるのか、あるいは先行詞が代名詞と同一文にあるのかまたはさらに前の文にあるのかについて説明してくれる。(専門用語については、安井 稔 新言語学辞典 研究社 1982を参照すること。)
 同一指標(co-indexing)による識別は現実世界にではなくて談話表示のレベルにあり、同一指示(co-reference)とは区別される。例えば、(1)と(2)は同一指標(内包)であり、(3)と(4)は同一指示(外延)である。

(1)Bush looked at the President of the United States in the looking glass (Yasaui:1982).
(2)福田首相は鏡に見える自民党総裁の顔を見た。
(3)John killed himself.
(4)小川は自分が一番だと思っている。

 (1)の場合は、2003年8月の時点でブッシュとアメリカ大統領は確かに同一指示であるが、言語外の情報を含めると、談話表示のレベルである。(2)の場合は、2008年7月の時点で福田首相の内包は自民党総裁となり、これも談話表示のレベルになる。(3)の場合は、Johnとhimselfが同一指示である。一般的に見ると、再帰代名詞と先行詞はいずれの言語でも同一指示になる。日本語の場合は、(4)の小川と自分が同一指示である。
 代名詞と先行詞の呼応に関するPER、NUM及びGENDの素性は、一般的に言われている統語範疇の属性ではなく、インデックスの属性とする。インデックスの番号は、代名詞と先行詞の関係概念や呼応の情報を特定する対象を定義するためにあり、これが代名詞や先行詞の呼応を説明してくれる。代名詞にある変化形(he、she、it、we、I、they、you)は、インデックス内の異なる特定化(specification)と相互に関連する。

花村嘉英(2018)「ことばの呼応とその運用を比較する-英語、ドイツ語、日本語、中国語を中心に」より

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