2 「飢餓同盟」のLのストーリー
阿部公房(1924-1993)は、八方塞がりの壁を突破する可能性を探り続けている。戦後、長期保守政権下にあった日本の政治を壁に見立てて、その縮図から突破口を探求していく。町の秩序に順応できない余計者からなる飢餓同盟は、一応人間の絶対自由を実現するための集まりである。リーダー格の花井太助は、自身で湯が出ない町の復興を夢見る男で、地熱探査技師の友人識木順一を担ぎ出し、温泉の吹き上がる蒸気で地熱発電所を作ろうと考える。
突破口を破るには、金を工面し、役所の認可も要請しなければならない。しかしながら、こうした花井の計画は、現状維持を掲げる町長や開業医のボスに横取りされ、狂人として病院に収容される。理想を掲げる運動が紆余曲折を経て変わっていく様子が日常目の当たりになる。そして風刺や寓意を得意とする阿部公房の真骨頂が発揮される。
佐々木(2011)によると、「飢餓同盟」の特徴としてもじりの手法を挙げている。花井の夢は幻であり、所詮挫折に通じるといった寓話ではなく、ほろ苦いアイロニーとブラックユーモアからなっているためである。そこで、「飢餓同盟」の購読脳は、「アイロニーとユーモア」にし、その出どころとして現実を寓話以上に寓話と見る阿部公房の眼と、さらに現実こそ非現実と感じる彼の心を想定しているため、執筆脳は「視覚と心的活動」にする。「飢餓同盟」のシナジーのメタファーは、「阿部公房と意識」である。
花村嘉英(2020)「阿部公房の『飢餓同盟』の執筆脳について」より