【連想分析1】
表2 受容と共生のイメージ合わせ
A 私がお前たちの母上の写真を撮ってやろうといったら、思う存分化粧をして一番の晴着を着て、私の二階の書斎に這入って来た。私は寧むしろ驚いてその姿を眺めた。母上は淋しく笑って私にいった。産は女の出陣だ。いい子を生むか死ぬか、そのどっちかだ。だから死際しにぎわの装いをしたのだ。――その時も私は心なく笑ってしまった。然し、今はそれも笑ってはいられない。
意味1 1、意味2 4、意味3 1、意味4 1、記憶感情2
B 深夜の沈黙は私を厳粛にする。私の前には机を隔ててお前たちの母上が坐っているようにさえ思う。その母上の愛は遺書にあるようにお前たちを護らずにはいないだろう。よく眠れ。不可思議な時というものの作用にお前たちを打任してよく眠れ。意味1 2、意味2 1、意味3 2、意味4 1、記憶感情1
C そうして明日は昨日よりも大きく賢くなって、寝床の中から跳おどり出して来い。私は私の役目をなし遂げる事に全力を尽すだろう。私の一生が如何いかに失敗であろうとも、又私が如何なる誘惑に打負けようとも、お前たちは私の足跡に不純な何物をも見出し得ないだけの事はする。きっとする。
意味1 1、意味2 4、意味3 2、意味4 1、記憶感情2
D お前たちは私の斃れた所から新しく歩み出さねばならないのだ。然しどちらの方向にどう歩まねばならぬかは、かすかながらにもお前達は私の足跡から探し出す事が出来るだろう。
意味1 1、意味2 4、意味3 1、意味4 1、記憶感情2
E 小さき者よ。不幸なそして同時に幸福なお前たちの父と母との祝福を胸にしめて人の世の旅に登れ。前途は遠い。そして暗い。然し恐れてはならぬ。恐れない者の前に道は開ける。行け。勇んで。小さき者よ。
意味1 1、意味2 4、意味3 2、意味4 1、記憶感情2
花村嘉英(2020)「有島武郎の『小さき者へ』の執筆脳について」より