リスク社会学の観点からマクロに文学を考える-危機管理10


 同様に他の作家についても相関係数を計算し比較すると、森鴎外、川端康成、井上靖、小林多喜二、魯迅、トーマス・マン、ハインリヒ・ベル、ナディン・ゴーディマのデータベースの文系と理系のカラムには、それぞれ正または負の何れかの相関が見られる。別の言い方をすると、読者の購読脳と作家の執筆脳には、一応相関関係があることになる。無論、選択した小説の場面次第で正負の違いは起こりうる。

表3 作家名と相関関係の説明
*森鴎外(1862-1922)
「山椒大夫」のデータベースのうち厨子王が芝刈りをする場面。言語の認知・思考の流れ(誘発と創発)と情報の認知・人工知能(行動とリスク回避)は、正の強い相関がある。シナジーのメタファーは、森鴎外と感情である。
*川端康成(1899-1972)
「雪国」のデータベースのうち駒子が三味線の稽古をする場面。言語の認知(無と創造)と情報の認知(五感と顔の表情)は、かなり正の相関がある。シナジーのメタファーは、川端康成と認知発達である。
*井上靖(1907-1991)
「わが母の記」のデータベースのうち母が深夜に徘徊する場面。言語の認知・振舞い(直示と隠喩)と情報の認知・人工知能の記憶と連合野のバランス(習慣化・熟知性と未経験の課題)は、負の強い相関がある。シナジーのメタファーは、井上靖と連合野のバランスである。
*小林多喜二(1903-1933)
「蟹工船」のデータベースのうち監督が労働者に勧告する場面。言語の認知・階級(労働者と権力者)と情報の認知・人工知能(不安障害であるとない)は、負の強い相関がある。シナジーのメタファーは、小林多喜二と積極性故の不安障害である。
*魯迅(1881-1936)
「狂人日記」のデータベースのうち狂人が覚醒する場面。言語の認知・五感(視覚とそれ以外)と情報の認知(問題解決と未解決の組)は、正の強い相関がある。シナジーのメタファーは、魯迅とカオスである。
*トーマス・マン(1875-1955)
「魔の山」のデータベースのうちクロコフスキー博士が療養所の患者たちに向かって講演をする場面。言語の認知の意味分析(距離が近いとそれ以外)と情報の認知(問題解決と未解決の組)は、かなり負の相関がある。シナジーのメタファーは、トーマス・マンとファジィである。
*ハインリッヒ・ベル(1917-1985)
「旅人よ、汝スパ...にいたりなば」のデータベースのうち作者がギムナジウムを回想する場面。言語の認知の意味分析・五感(視覚とそれ以外)と情報の認知の人工知能・頭頂連合野(空間認識とそれ以外)は、正の強い相関がある。シナジーのメタファーは、ハインリッヒ・ベルと頭頂連合野である。
*ナディン・ゴーディマ(1923-2014)
「ブルジョア世界の終わりに」のデータベースのうちクイーニーとアランの結婚式でマックスがスピーチをする場面。言語の認知の意味分析(課題や問題の受入または拒絶)と人工知能で心の働きのうち(意欲と適応能力)は、かなり負の相関がある。シナジーのメタファーは、ナディン・ゴーディマと意欲である。

花村嘉英(2019)「社会学の観点からマクロの文学を考察する-危機管理者としての作家について」より

シナジーのメタファー3


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