次に、中日両言語の異なる性質について見てみよう。言語には語順が自由なものと固定のものとがある。しかし、大半はその中間に位置する。前者の代表としてはラテン語が、後者の代表としては中国語があげられる。日本語は、語順がかなり自由な言語である。ドイツ語やオランダ語などのゲルマン系の言語も、類型論的には部分的に語順が自由な言語といわれている。中国語の語順はSVOであり、日本語やドイツ語はSOVになる。
文法関係を表す際、中国語は語順を頼りにし、日本語や韓国語は助詞(てにをは)を用いる。これが中国語は孤立語で、日本語が膠着語と呼ばれる理由である。中国語の語順は確かに英語に近いが、中国語には語尾変化や活用がない。日本語のようなSOV型は、世界の言語の約半分、英語や中国語などのSVO型は35%、ポリネシア語などのVSO型は10%余りを占る。
こうした語順の違いは、言語的な発想にも影響を及ぼす。山本(2002)によると、中国語は述語が主語のすぐ後に来るため、話し手や書き手の意図が肯定なのか否定なのかは早い段階で明らかになる。一方、日本語は述語が最後に来るため、話し手や書き手の意図が肯定なのか否定なのかは最後まで行かないとわからない。サピアは、こうした人の思考様式こそが言語習慣を規定するとし、弟子のウォーフと共に立てた仮説は、今でも語り継がれている。
また、中日の翻訳を考えると、語順のみならず推論も重要なポイントになる。発想は、一般的に発見とか発明に問われるものだが、文章を書く際にも語順とか段落の作り方または話の流れに言語上の小さな発想があると考えられる。発想はまた文系と理系とで異なるし、文理で組み立て方やまとめ方も違う。つまり、こうした違いを調節するためにシナジー論がある。
サピア(1998)よると、接辞の添加には、接頭辞、接尾辞そして接中辞がある。その中で接尾辞の添加が最も普通である。中国語は、語幹要素として文法的に独立した要素を利用しない特別な言語である。しかし、日本語の接辞「的」は、中国語の「的」からの影響であろうし、孩子や杯子の「子」も中国語の接辞といえる。
文法要素の内部変容とは、語の内部の母音または子音を変化させる過程である。日本語の場合は、動詞や形容詞の活用にそれが見られる。しかし、中国語には活用がないため、英語の母音変化(例えば、sing、sang、sung、song)に類似した例は見当たらない。
アクセントは、中国語も日本語もピッチアクセントである。例えば、中国語のfa[一声](発送する)とfa[四声](頭髪)のようなアクセントの交替は、声調の差異が必ずしも動詞と名詞を区別するわけではない。
花村嘉英(2015)「从认知语言学的角度浅析鲁迅作品-魯迅をシナジーで読む」より