人文科学から始める技術文の翻訳2


1 英語の技術文

1.1 因果関係

英語の技術文から見ていこう。ここでは英語の技術文のうち因果関係のある文章を取り上げる。一般的に技術文は、内容が因果関係からなっているといってもよい。原因と結果が一つの文に書けると、技術文らしい簡潔な英文になる。
富井(1996)には、そのための方法として無生物主語構文についての説明がある。この構文は英語では発達しているが、日本語にはあまり見られないという。書き方には二つのステップがある。初めに主語に含まれる原因を書き、次に述語の処理として結果を書いていく。

(1)電流が過度だと、ワイヤーは加熱する。

まず「電流が過度だと」は、「過度な電流」という原因を表す主語に英訳して、「名詞と自動詞」からなる構造を「名詞と自動詞から転じた名詞」に置き換える。次に、「ワイヤーは加熱する」という自動詞構文を「ワイヤーを加熱させる」という結果を表す英語の他動詞構文にする。

(2)Excess current causes a wire to overheat.(技術英語構文辞典)

 これが因果関係を表す技術文の基本形である。
つまり、技術文の翻訳作業を2段階で考えていく。まず両言語の主語を調節する。日本語では節になるところを英語では句としてとらえ、逆に英語で句になるところを日本語では節としてとらえる。これが翻訳の第一のプロセスになる。
次に述部の処理が来る。述部が「他動詞+目的語」の場合、目的語を主語にして他動詞を自動詞にする。このクロスの処理が第二のプロセスである。その結果、「~すると、~は~になる」という日本語の技術文の基本構文ができあがる。

表1 技術文の翻訳プロセス(因果)
翻訳作業 説明
入力文 日本語の技術文の基本構文「~すると、~は~になる」になる。
第一段階 両言語の主語を調節する。日本語の節は英語で句とし、逆に英語の句は日本語で節とする。
第2段階 述部が「自動詞」の場合、結果を表す英語の他動詞構文にする。
述部が「他動詞+目的語」の場合、日本語の目的語を主語にして他動詞を自動詞にする。

こうした無生物主語構文を作る動詞には以下のものが挙げられる。

表2 表現内容 無生物主語を取る動詞の例
因果関係を表す allow, permit, lead to, result in, provide, enable
直接増減を表す increase, decrease, reduce, shorten, lower
変化を表す produce, change

以下で、技術文に見られる英日の発想の違いを処理するために、この2段階の方法を試していく。

花村嘉英(2015)「人文科学から始める技術文の翻訳」より

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