リスク社会学の観点からマクロに文学を考える-危機管理3


2 ネットワークの構築

 社会学の考え方として、多方面に渡って人間相互のネットワークを分析することにより、人間の条件を理解するというものがある。橋爪他(2016)は、社会のごく一面に注目して研究を進める政治学や経済学や法学とは異なり、社会学こそが社会全体を丸ごと研究する学問とし、人間と人間との関係こそが社会であると考えている。政治も経済も法律も確かに人間と人間との関係を扱っている。しかし、いずれも権力や金や法律による関係であって、特殊なものである。一方、社会学は、多様な関係のより一般的な在り方を研究する学問である。
 作家の執筆脳を理解するとき、文理に通じるようにシナジーのメタファーという用語を使用している。作家が自身で執筆していれば、読者に伝えようと思っている情報が小説の中に必ずあるはずである。例えば、定番の読みといわれるもの、トーマス・マンならばイロニー、魯迅ならば馬虎(詐欺をも含む人間的ないい加減さ)、川端康成であれば無と創造がそれに当たる。
 そもそも作家の執筆脳は、人の目には見えないものである。執筆脳の研究をするとしたら、理系の研究者の場合、生存者の脳波を取り、反応している部位の細胞を調べていくであろう。一方、人文の研究者は、あくまで文献学が専門のため、亡くなった作家についても自分で書いていることを条件にデータベースを作成しながら研究するとよい。

花村嘉英(2019)「社会学の観点からマクロの文学を考察する-危機管理者としての作家について」より 

シナジーのメタファー3


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