次に、受動化や修飾といったイディオムの統語特性が取り上げられている。通常、VPを形成するイディオムは、受動化できる。しかし、それによってイディオムの意味合いが薄れることがある。
(c) Hans gibt den Löffel ab.
(d) Der Löffel wird von Hans abgegeben.(イディオム性は薄れる)
修飾が可能な場合も(例えば、sprichwörterlich)、イディオム性が薄れる。
(e) Er gab den sprichwörterlichen Löffel ab(イディオム性は薄れる)
逆に、隠喩的なイディオムの構成要素が修飾されても、イディオムの意味合いは薄れない。
(f) Hans macht große Augen.(じろじろ見る)
(g) Hans macht ganz große Augen.
つまり、Erbach and Krenn (1993)は、統語特性の計算はできても、構成要素の意味を結合する通常の関数では意味特性の計算はできないと述べている。そこで、QIP(h)を修正していく。分析不能なイディオム(例えば、die Leviten lesen:きつく叱る)に含まれている固定要素の die Leviten は、ユダヤ教の聖典(旧約聖書レビ記)とある種の意味関係を持っていると連想するであろう。
花村嘉英(2022)「イディオム-MGからGPSGそしてHPSGへ」より