2 翻訳の作業単位
単文で翻訳のトレーニングをすることに確かに意味はある。例えば、単文を訳すことによって、中日の品詞の違いについて確認ができる。 しかし、一文ごとの翻訳では、一つの中文が複数の日本語に訳出されることがある。
(1)你让我安静一会儿,好吗?(汉訳日精编教程)
(2)私を少し一人にさせてよ。いいですね。
(3)私を少し一人にしてよ。いいですね。
(1)の和訳は、(2)でも(3)でもよい。しかし、(1)が段落の中に入ると、そうはいかない。文法に則して使役に訳すのか、それとも普通の平叙文で訳すのかを読み易さという観点から考える必要がある。文法通りに訳してしまうと、かえって読みにくくなることがあるからだ。読み易すい日本語とは、誰もが一読でわかるようなやさしい表現を用いた和文のことである。推敲する際にも、この点を考えるとよい。小説やエッセイを訳す時でも、段落に書かれた場面のイメージが浮かぶように訳していく。
外国語の学習者は、とかく文法を気にする傾向にある。しかし、表現法を問う場合には、あまり文法を気にせずに、こうも言えるしまたそうも言えるといった感覚でことばを処理していくとよい。作業単位を段落にすると、当然量が増えるわけだから、量が問われる翻訳作業に対しても抵抗がなくなると思う。そのため、作業単位を段落にすれば、表現の読みやすさを追及しながら、量にも対応できるといった効果が期待できる。
花村嘉英(2017)「日本語教育のためのプログラム-中国語話者向けの教授法から森鴎外のデータベースまで」より