一方、kurzeのような中性の主格または目的格の形容詞の強変化は、NPの限定詞が空かまたは弱(例、ein)であることを要求する。そのために、ein kurzes TelegrammというNPが妥当となる。HPSGの分析は、いわゆるドイツ語の混合変化に関する一般論とは少し異なる予想を立てている。一般的に限定詞が弱のときは、形容詞は強でなければならず、限定詞が強のときは、形容詞が弱でなければならない。
つまり、弱変化の限定詞が二つ以上の形容詞に従うと、伝統的な説明では最初の形容詞だけが強変化して他は弱変化と見なされる。しかし、伝統的な説明よりも広くとって、この小論では多層で隣接する形容詞のMOD値は呼応すると見なしていく。修飾構造にあるN’のSYNSEM値が構造を共有するためである。例えば、ein kleines kurzes Telegramm がそれにあたる。属性形容詞の語彙項目は、テキスト内で定式化されるため、限定詞を下位範疇化する名詞句のみを修飾する。
ドイツ語の述語形容詞は、呼応について特記することはない。いずれの主語のNPとも互換性を示す。
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a der Junge ist klein.
b die Frau ist klein.
c Das Mädchen ist klein.
述語形容詞と属性形容詞を区別すると、述語構造には呼応が見られないとする標準的な説明にも対応できる。しかし、この説明は正しくない。語形変化がないため属性形容詞よりも情報は少ないが、述語形容詞には指標の呼応があり、全く制約のない名詞のクラスと互換性が取れると考えた方がよい。
ドイツ語には複数形による丁寧体がある。ドイツ語の語形変化の規則を表現するために、定型動詞のtrinken、fahrenそしてsindの単数語彙素を例にしてみよう。[NUM plur]と指定される指標は、一般的に集合体につながるが、丁寧体のSieは例外である。
Sieの指標は三人称複数であり、集合体も非集合体もアンカーとして要求するために、コンテキスト上の制約に欠ける。そこで発話のコンテキストの中で話し手が聞き手に尊敬の念を抱く場合の運用論上の条件を想定することにする(後述参照)。
花村嘉英(2018)「ことばの呼応とその運用を比較する-英語、ドイツ語、日本語、中国語を中心に」より