人文科学から始める技術文の翻訳17


3.2 実務

 ドイツ語は専門ということもあり、語学面ではさほど抵抗を感じない。しかし、翻訳の作業単位が「語学+分野の背景知識」からなっていることを考えれば、当然、特許明細書を翻訳するにあたり、知的財産法の入門を勉強しなければならない。知的財産法は特許法、実用新案法、意匠法、商標法を指し、知的財産権はこれらの法律が定める権利のことをいう。
 周知のように、特許翻訳の多くが明細書の処理である。特許明細書とは、専門家がその発明を実施できる程度に内容を説明した書類である。特許出願の際に願書などと共に出願人に提出が義務づけられている。
 次の文は、料理用の飾り棚に関する文章の一部である。

【独文】
(5)Die Lösung dieser Aufgabe kennzeichnet sich erfindungsgemäß dadurch, daß die Schranktür mittels zweier, mit Abstand voneinander angeordneter Viergelenkketten mit waagerecht verlaufend angeordneten Achsen aus der Schließlage nach oben verstell- und feststellbar angelenkt ist.(ドイツ連邦共和国特許庁 公開資料2225328)

①用語
ここでは、Schranktür(戸棚の扉)、Gelenkkette(リンクチェーン)、anlenken(蝶番でとめる)を挙げておく。

②構文
この文は、Die Lösung dieser Aufgabeが主語で、kennzeichnet sichが述語、そして従属文としてdadurch, daß以下がある。

③考察
「1.1 因果関係」で説明した英日の技術文に関する「2段階の処理法」を独日にも試してみよう。英日と同じことが言えるかもしれないし、また独日に限った説明ができるかもしれない。
同様にして、「1.2 態の扱い」「1.3否定構文」で説明した英日の分析法が独日にも適応可能かどうか考えてみる。

表10
2段階の処理法 例えば、主語の「Die Lösung dieser Aufgabe」は「課題の解決」ではなくて、「課題を解決すると」にし、述語の「kennzeichnet sich erfindungsgemäß」は「発見であることがわかる」にする。
態の用法 従属文の述部にangelenkt istが使われている。他動詞の過去分詞とseinの人称変化との組み合せは、状態の受動を表している。
否定構文 なし
時制 現在形

【和訳】
(6)この課題を解決すると、戸棚の扉は、相互に距離のある水平軸を持つ二つの四リンクチェーンにより閉鎖状態であれば上部を調節して固定しながら蝶番でとめることができるため、発見であると認識される。

花村嘉英(2015)「人文科学から始める技術文の翻訳」より

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