森鴎外の「佐橋甚五郎」のデータベース化とバラツキによる分析8


◆場面2

 源太夫はこういう話をした。甚五郎は鷺(さぎ)を撃つとき蜂谷と賭(かけ)をした。蜂谷は身につけているものを何なりとも賭けようと言った。A2, B 1, C2, D2
 甚五郎は運よく鷺を撃(う)ったので、ふだん望みをかけていた蜂谷の大小をもらおうと言った。A2, B 1, C2, D2
 それもただもらうのではない。代わりに自分の大小をやろうというのである。A2, B1, C2, D2
 しかし蜂谷は、この金熨斗(きんのし)付きの大小は蜂谷家で由緒(ゆいしょ)のある品だからやらぬと言った。 A2, B1, C2, D2
 甚五郎はきかなんだ。「武士は誓言(せいごん)をしたからは、一命をもすてる。よしや由緒があろうとも、おぬしの身に着けている物の中で、わしが望むのは大小ばかりじゃ。ぜひくれい」と言った。A2, B1, C2, D2
 「いや、そうはならぬ。命ならいかにも棄(す)ちょう。家の重宝は命にも換(か)えられぬ」と蜂谷は言った。A2, B1, C1, D2
 「誓言を反古(ほご)にする犬侍(いぬざむらい)め」と甚五郎がののしると、蜂谷は怒って刀を抜(ぬ)こうとした。A2, B1, C2, D2
 甚五郎は当身(あてみ)を食わせた。A2, B1, C2, D2
 それきり蜂谷は息を吹(ふ)き返さなかった。A1, B1, C2, D1
 平生何事か言い出すとあとへ引かぬ甚五郎は、とうとう蜂谷の大小を取って、自分の大小を代りに残して立ち退いたというのである。A2, B1, C2, D1

花村嘉英(2018)「日本語教育のためのプログラム-中国語話者向けの教授法から森鴎外のデータベースまで」より

日本語教育のためのプログラム


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