森鴎外の「佐橋甚五郎」のデータベース化とバラツキによる分析7


場面のイメージを分析する

データの抽出

 作成したDBから2つの特性からなるカラムを抽出し、標準偏差によるバラツキを調べてみる。例えば、A:思考の流れ(1外から内の誘発と2内から外の創発)、B:ジェスチャー(1直示と2隠喩)、C:情報の認知プロセス(1旧情報と2新情報)、D:情報の認知プロセス(1問題解決と2未解決)というように文系と理系のカラムをそれぞれ2つずつ抽出する。

◆場面1 鷺を打つ

 とある広い沼(ぬま)のはるか向うに、鷺(さぎ)が一羽おりていた。銀色に光る水が一筋うねっている側の黒ずんだ土の上に、鷺は綿を一つまみ投げたように見えている。A1, B2, C2, D2
 ふと小姓の一人が、あれが撃(う)てるだろうかと言い出したが、衆議は所詮(しょせん)打てぬということにきまった。 A1, B1, C2, D1
甚五郎は最初黙(だま)って聞いていたが、皆(みな)が撃てぬと言い切ったあとで、独語(ひとりごと)のように「なに撃てぬにも限らぬ」とつぶやいた。 A2, B2, C1, D2
 それを蜂谷(はちや)という小姓(こしょう)が聞き咎(とが)めて、「おぬし一人がそう思うなら、撃ってみるがよい」と言った。A1, B1, C1, D2
「随分(ずいぶん)撃ってみてもよいが、何か賭(か)けるか」と甚五郎が言うと、蜂谷が「今ここに持っている物をなんでも賭きょう」と言った。A2, B1, C2, D2
 「よし、そんなら撃(う)ってみる」と言って、甚五郎は信康の前に出て許しを請(こ)うた。A2, B1, C2, D2
信康は興ある事と思って、足軽(あしがる)に持たせていた鉄砲(てっぽう)を取り寄せて甚五郎に渡(わた)した。A1, B1, C2, D2
 「あたるもあたらぬも運じゃ。はずれたら笑うまいぞ」甚五郎はこう言っておいて、少しもためらわずに撃ち放した。A2, B1, C2, D1
上下こぞって息をつめて見ていた鷺(さぎ)は、羽を広げて飛び立ちそうに見えたが、そのまま黒ずんだ土の上に、綿一つまみほどの白い形をして残った。A1, B1, C2, D1
 信康を始めとして、一同覚えず声をあげてほめた。田舟(たぶね)を借りて鷺を取りに行く足軽をあとに残して、一同は館(やかた)へ帰った。A1, B1, C2, D1

花村嘉英(2018)「日本語教育のためのプログラム-中国語話者向けの教授法から森鴎外のデータベースまで」より

日本語教育のためのプログラム


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