永井荷風の「濹東綺譚」で執筆脳を考える2

2 Lの分析

 永井荷風(1879-1959)は、「濹東綺譚」(1937)の中で薄幸な娼婦お雪と自身らしい作家とのやり取りについて見聞録をさらりと書いている。濹は、墨田川を表し、その東で聞く世にも珍しくて面白い話が描かれている。
 1916年、永井荷風は、慶應義塾の教授を退き、大正末期から昭和に入って銀座のカフェーに通った。秋庭(2010)によると、1936年濹東の玉の井の娼家に出入りするようになり、荷風日記にその様子を記し、日記を「濹東奇譚」と命名した。「濹東奇譚」は、作中の人物が活動する場所やその背景を人情味のある筆致で描いている。お雪が女房になりたがったため、荷風らしい作家は惜別を選ぶ。荷風の女性観もあろう。そこで、購読脳は、「儚い縁と季節の変り目」にする。 
 また、戦時中でも戦時臭さがないのは、風情が香気漂うぐらいで昭和の色町を風物詩として後世に伝えるためであった。そのため、執筆脳は、「感覚と心情」にする。この執筆脳を購読脳とマージした際のシナジーのメタファーは、「永井荷風と詩趣」である。

花村嘉英(2020)「永井荷風の『濹東綺譚』の執筆脳について」より

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