HPSGから見たことばの呼応とその運用について-英語、ドイツ語、日本語、中国語を中心に13


5 中国語の照応を考える

 チョムスキーは、照応束縛の理論の中で、照応がLF(logical form)レベルでInfl(inflection)のAGR(agreement)へ移動すると説明した。LFとはPF(phonetic form)と共に統語論を支える部門のことである。そこではAGRが主語と一致するために、すべての照応が主語に束縛されることを予告している。(45)は、AGRへの移動についての説明である(Pollard/Sag 1994, 272)。

(45) They told us that pictures of each other would be on sale.

 (45)の意味をはっきりさせるには、each otherの束縛詞をusではなくて、theyとしたほうがよい。しかし、usが再帰代名詞の先行詞となる読みもある。その場合には、主文の目的語が優先的に先行詞となる。

(46) a Lora told her two daughters that each other’s pictures were prettier.
b The matchmakers told Wang Xiansheng and Li Xiaojie that each other’s parents were richer than they really were.

 英語の場合は、どのようにして照応が目的語によって束縛されて、C統御されないNPと同一指標が付与されるのか。また、どのようにして談話の先行詞を選択するのかについて議論されてきた。そして、AGR移動に基づいた等距離依存の照応束縛は、支持されないことになった。この種の説明は、中国語や日本語などに見られる等距離依存の照応を処理するために提唱され、これにはC統御される主語の先行詞のみが可能であると主張されてきた。しかし、派生の段階で先行詞が主語として妥当な分析を持たない場合には、ある種の自分束縛が構造上の条件ではなくて、談話によって支配されると説明されている。

(47) 自分の娘の結婚が中野さんの出世を促した。

 構造と談話という2つの異なるメカニズムを想定する自分束縛の混合理論は、説明力が弱いため、可能性のある先行詞についての制約を適切に述べることができない。

花村嘉英(2018)「ことばの呼応とその運用を比較する-英語、ドイツ語、日本語、中国語を中心に」より 

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