リスク社会学の観点からマクロに文学を考えるー危機管理者としての作家について1


1 はじめに

 この論文は、小説のデータベースを作成しながら、作家の執筆脳を集団の脳の活動として広義に説明するために、社会のあらゆる側面を考察の対象にする社会学の観点に基づいたマクロの文学分析を試みる。
 これまでは作家の執筆脳としてシナジーメタファーを作家毎に狭義で研究してきた。今回は集団を意識して、作家としての人間の条件にリスクの警鐘を鳴らす危機管理者というエキスパートとしての資質を設け、社会とリスクという観点に立ち、シナジーのメタファーから集団の脳の活動について考察していく。リスクとは現実に被る不利益や損益のことで、危機はそうなるかもしれないという不安感を指す。この論文でいう危機管理者は、双方を扱うことにする。作家の役割としては、他にも文化とか自然の観察者あるいは歴史の伝承者を考えることができる。
 花村(2018)の中で取り上げた作家、トーマス・マン、魯迅、森鴎外、ナディン・ゴーディマ、井上靖が試みるリスク回避の研究をさらに濃くするために、それぞれの作家の小説を用いてデータベースを作成し、平易な統計分析、例えば、バラツキ、相関関係、多変量そして心理学によるデータ分析を行っている。こうすると文学や言語学に関するミクロの研究や国地域の比較に加えて、トップダウンからのリスク社会論に基づくマクロの研究と共に、中間に位置するメゾの研究を処理することができるからである。
 また、国地域に関して言語や文化による分け隔てはなく、地球上のどこもが研究の対象になるため、シナジーのメタファーは、すべての言語に適応可能な研究方法といえる。因みにこれまで筆者が研究した作家の国地域を見ると、東アジア(森鴎外、魯迅、井上靖、川端康成、小林多喜二)、ヨーロッパ(トーマス・マン、ハインリッヒ・ベル)、南アフリカ(ナディン・ゴーディマ)であり、さらに北米や南米など他の国地域の作家たちにもシナジーのメタファーの研究を適応させていきたい。

花村嘉英(2019)「社会学の観点からマクロの文学を考察するー危機管理者としての作家について」より


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