クッツェーの「Age of Iron(鉄の時代)」で執筆脳を考える2


2 「Age of Iron」のLのストーリー

 ジョン・マックスウェル・クッツェー(1940-)は、アフリカーナ―の両親のもと南アフリカのケープタウンに生まれた。大学までケープタウンで過ごし、英文学と数学の学士号を取る。1961年にイギリスへ留学し、フォード・マドックス・フォードで修士論文を書く。その後、南アフリカに帰国するも、博士論文作成のためアメリカに渡り、テキサス大学でサミュエル・ベケットに関する言語学からの考察で博士号を取得する。
 「Age of Iron」(1990)は、元大学教授のカレンという女性とアパルトヘイトに反対し米国に移住した彼女の娘が交わす手紙という形で物語が進んでいく。カレンが書簡体の一人称のナレーターである。手紙の中で娘もさること、読者に直接呼びかける文体である。クッツェーの小説は、coming-age novelと解釈され、主役の成長に焦点を当てた一種の発展小説である。
 医者に末期がんを宣告されたカレンは、近くキャンプから出て来たホームレスのヴァーキュールという男と心が通う(P.131)。カレンには、フローレンスという子持ちの家政婦がいるにも関わらず、突然の体の痛みに彼が手を貸してくれたからである。カレンは、確かにフローレンスの息子が居合わせることが不快であった。
フローレンスの子供ベッキの友人ジョンが大けがをする。皆が病院に見舞いに行くも、カレンとヴァーキュールは、車に残る。ヴァーキュールは、末期がんであることを娘に告げるように勧める。

花村嘉英(2020)「クッツェーの『Age of Iron(鉄の時代)』の執筆脳について」より


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