谷崎純一郎の「盲目物語」で執筆脳を考える4


【連想分析1】

表2 受容と共生のイメージ合わせ

お市が信長のもとに戻る

A ながまさ公は御のりものゝきわまでおみおくりに出られまして、そのあさはもうこれを最後の御しょうぞくで、くろいとおどしのおんよろいにきんらんの袈裟をかけていらしったそうでござります。いよ/\おのりものをかき上げますとき、「ではあとをたのんだぞ、たっしゃでくらせよ」とおことばをおかけになりましたのがゆうきのはりきったさわやかなおこえでござりました。おくがたも「おこゝろおきのう御りっぱなおはたらきを」と、気じょうにおっしゃって、おんなみだをおみせにならずに、じっとがまんをなされましたのはさすがでござります。 意味1 2、意味2 3、意味3 1、意味4 1、感情伝承1

B すえのおふたりのひめぎみたちは西もひがしもおわかりにならぬほどでござりましたから、お乳の人の手におだかれになって、なんのことゝも夢中でいらっしゃいましたけれども、おちゃ/\どのはてゝごの方をふりかえり/\、いやじゃ/\ときつうおむずかりになりまして、なか/\なだめすかしてもお泣きやみになりませんので、お供のひと/″\はそれをみるのが何よりつろうござりました。
意味1 2、意味2 3、意味3 1、意味4 1、感情伝承1

C この姫たちが三人ながらのちに出世をあそばして、お茶々どのが淀のおん方、おはつどのが京極さいしょうどのゝおん奥方常高院どの、いちばんすえの小督どのが忝くもいま将軍家のみだいでおわしますことを、だれがそのときおもいましたでござりましょう。かえす/″\も御運の末はわからぬものでござります。
意味1 2、意味2 1、意味3 2、意味4 1、感情伝承2

D のぶなが公はおいちどのや姪御たちをお受けとりになりますと、たいそうおよろこびになりまして「ようふんべつして出て来てくれた」と、ねんごろに仰っしゃって、「あさいにもあれほどことばをつくして降参をすゝめたのに、どこまでもきゝ入れないのは、あっぱれ名をおしむ武士とみえた、あれを死なすのはじぶんのほんいでないけれども、ゆみやとる身の意地であるからかんにんしてもらいたい、そなたもながのろうじょうでさぞくろうをしたことだろう」と、そこは骨肉のおんあいだがらゆえ御じょうあいもかくべつで、わけへだてないおものがたりがござりまして、すぐに織田こうずけの守どのへおあずけなされて、よくいたわってとらせるようにとの御諚でござりました。意味1 2、意味2 1+3、意味3 1、意味4 1、感情伝承1

E いくさの方は二十七にちのあさからやんでおりましたが、おいちどのをわたしたうえはもはや猶予することはない、しろをひといきにもみつぶして浅井おやこに腹をきらせるばかりだと、のぶなが公おんみずから京極つぶら尾というところへおのぼりになってそうぐんぜいに下知をなされ、ひらぜめにせめおとせとおっしゃいましたので、えい、えい、おう、と、寄せ手はすさまじい鬨ときのこえをあげて責めにかゝったのでござります。意味1 2、意味2 3、意味3 1、意味4 1、感情伝承1

花村嘉英(2020)「谷崎純一郎の『盲目物語』の執筆脳について」より


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