5 医学
5.1 漢方
漢方は中国伝統の薬学である。漢代にその基礎的な理論と方法論が確立し、その線に沿って中国の医学は進んでいきた。日本へは、小野妹子とともに遣唐使(630-894)として唐へ渡った留学生が、帰国時にたくさんの医学書を持ち帰った。このころから中国との交流が盛んになり、医学の情報もたくさん入るようになってきた。しかし、鎌倉時代までは、僧侶が祈祷を交えて医師として活躍した。室町時代(1338-1573)になると、実験的な治術が発達した。
江戸時代になって、諸大名が自分の領内で漢方薬を研究し、次第に日本の風土や日本人の体質に合ったものに改良された。原料のほとんどが植物であるため、本草とも呼ばれている。鎖国中も長崎を中心にオランダ医学が紹介され(例えば、解体新書:ターヘルアナトミア)、中国でも日本でも知られていなかった神経やリンパ管が明らかになり、漢方も一段と進歩した。
明治時代になって、軍人を対象とする軍事上の理由から外科が主流となり、西洋医学(ドイツ医学)が漢方医学にとって代わった。こうして漢方は、日本の医学の表舞台から姿を消していく。しかし、有効性は否定しがたい部分もあり、中国はもとより日本でも民間レベルで今でもかなり用いられている。
花村嘉英(2018)「中国から日本に伝わったことばや文化について」より