中島敦の「山月記」で執筆脳を考える-パーソナリティ障害1


1 先行研究

 文学分析は、通常、読者による購読脳が問題になる。一方、シナジーのメタファーは、作家の執筆脳を研究するためのマクロの分析方法である。基本のパターンは、まず縦が購読脳で横が執筆脳となるLのイメージを作り、次に、各場面をLに読みながらデータベースを作成して全体を組の集合体にする。そして最後に、双方の脳の活動をマージするために、脳内の信号のパスを探していく。
 執筆脳の定義は、作者が自身で書いているという事実及び作者がメインで伝えようと思っていることに対する定番の読みとする。そのため、この小論では、トーマス・マン(1875-1955)、魯迅(1881-1936)、森鴎外(1862-1922)の執筆脳に関する私の著作を先行研究とする。また、トーマス・マン、魯迅、森鴎外の著作の中では、それぞれの作家の執筆脳として文体を取り上げ、とりわけ問題解決の場面を分析の対象にしている。さらに、マクロの分析について地球規模とフォーマットのシフトを意識して、ナディン・ゴーディマ(1923-2014)を加えると、“The Late Bourgeois World” 執筆時の脳の活動が意欲と組になるとことを先行研究に入れておく。
 筆者の持ち場が言語学であるため、購読脳の分析の際に、何かしらの言語分析を試みている。例えば、トーマス・マンには構文分析があり、魯迅にはことばの比較がある。そのため、全集の分析に拘る文学の研究者とは、分析のストーリーに違いがある。文学の研究者であれば、全集の中から一つだけLの分析のために作品を選び、その理由を述べればよい。なお、Lのストーリーは、人文と理系が交差するため、機械翻訳などで文体の違いを調節するトレーニングをするのもよい。

花村嘉英(2019)「中島敦の『山月記』の購読脳について」より

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