ドイツの魂とは国家の魂のみならず個人の魂も指し、精神的に豊かなドイツ人は誇り高く自己を支配する。こうした魂を盾にして文明の文士が活躍する。文明の文士とは戦争の敵でも平和主義者でもなく、戦争が文明に従事する場合には戦争を拒否しない。ところがドイツの侵略やドイツの抵抗を見ると戦争に抗議する。文明の文士が望むものはドイツの発展である。(T. Mann 1983)
トーマス・マンの危機感はドイツの発展が止まってしまうことであった。そのため発展が止まらぬように「考察」を続けていく。国家の不和や民族間の戦いを人間の文化とか社会生活のための基本的な問題と理解して、ドイツが進めた西の文明と東の専制政治に対する民族闘争を褒め称えた。従って、「非政治的人間の考察」から「魔の山」へと続くマンの論説は、ドイツ国民への告白でありメッセージといえよう。
花村嘉英(2014)「20世紀前半に見る東西の危機感」より