作家が試みるリスク回避について-魯迅、森鴎外、トーマス・マン6


4 西欧の危機感

 西欧では英国を代表する知識人の一人スノーがシナジー論に関して興味深い講演を行っている。彼は物理学者であると同時に作家である。講演の内容をまとめた「二つの文化と科学革命」という著作の中で、当時の西欧人が直面していた知的生活上の問題点をうまく説明している。
 西欧の社会には二つの極端なグループがあるという。一つは文学的な知識人であり、また一つは科学的な知識人である。この二つの文化は全く相容れない。人文の人間は科学者が人の条件に気がつかない楽天主義者だといい、科学者は文学的な知識人が先見の明に欠け、同胞に無関心なところがあるという。例えば、物理関係者が人文の人間に質量とか加速度とは何かと問えば、逆に人文の知識人がシェークスピアの作品を何か読んだことがあるのかと切り返す。二つの文化は互いにぶつかり合い、話し合うことがないために、真空の状態を作っている。(スノー 1967)こうした状態は何も英国だけではなく、全ての西洋に見られるものであった。
 双方が相容れない状態から抜け出す方法はあるのか。スノーは、教育を再考することが取るべき方法だという。しかし、その折に学生時代のみならず、社会人としても実務プラスαという形で総合的に人間を評価することが重要である。普段から縦の専門性と他の分野の調節を組で考えるようにすればよい。これは人文、社会、理系を問わずいえることである。シナジー論への興味関心を育みそして実践に移す。人材育成のプログラムはそうあるべきである。

花村嘉英(2014)「20世紀前半に見る東西の危機感」より

シナジーのメタファー4


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