1.2 態の扱い
日本語では主語のない文が存在するため、英訳の際に工夫が必要になる。英語は物を主語にして文を作るため、英語の場合、日本語の目的語を主語にして、動詞の態を変換させる。(5)
(14)レバーを引くとケースの蓋が開く。
(15)When the lever is pulled, the casing cover is opened.
つまり、「レバーを引く」を「レバーが引かれる」と発想する。レバーが主語になり、動詞の態も日本語の能動態から英語の受動態に変わってくる。
ここで一つ注意するポイントがある。日本語は行為を表す場合、能動態で書かれ、状態を表す場合、受動態で書かれる。記述の内容が行為か状態かは、前後関係から判断する。
(16)カバーを開ける。(行為)
(17)カバーが開けられている。(状態)
(18)The cover is opened.
技術文の「__は・・する」を英訳する場合、自動詞を使用して訳すことができるが、「__を・・する」の場合は、受動態を使用すると言われる。(5)
(19)抵抗を小さくすると、電流は高くなる。
(20)When resistance is decreased, current will increase.
しかし、何も全ての技術文を自動的にこの法則に当てはめなくてもよい。態を決定する際のポイントが他にもあるからである。例えば、行為者がわかっている場合には、英語も能動態の方が直接的で力強いようである。もちろん行為者がはっきりしない場合には、受動態を使用して説明する。さらに文脈を通して主語で態を調節することもできる。
表3 技術文の翻訳プロセス(態)
入力文 | 「レバーを引くとケースの蓋が開く。」 |
第一段階 | 英語は物を主語にして文を作るため、日本語の目的語を主語にして、動詞の態を変換させる。 |
第2段階 | 「レバーを引く」を「レバーが引かれる」と発想する。レバーが主語になり、動詞の態も日本語の能動態から英語の受動態に変わる。 |
花村嘉英(2015)「人文科学から始める技術文の翻訳」より