森鴎外の「佐橋甚五郎」のデータベース化とバラツキによる分析10


標準偏差による分析

 グループA、グループB、グループC、グループDそれぞれの標準偏差を計算する。その際、場面1、場面2、場面3の特性1と特性2のそれぞれの値は、質量ではなく指標であるため、特性の個数を数えて算術平均を出し、それぞれの値から算術平均を引き、その2乗の和集合の平均を求め、これを平方に開いていく。
 求められた各グループの標準偏差の数字は、何を表しているのだろうか。数字の意味が説明できれば、分析は、一応の成果が得られたことになる。

◆グループA
場面1(特性1:6個と特性2:4個)の標準偏差は、0.49となる。場面2(特性1:1個と特性2:9個)の標準偏差は、0.3となる。場面3(特性1:7個と特性2:3個)の標準偏差は、0.46となる。
【数字から分かること】
 場面2を見ると、創発を表す数字が極端であるため、「佐橋甚五郎」は、個人主義による作品であると言える。

◆グループB
場面1(特性1:8個と特性2:2個)の標準偏差は、0.4となる。場面2(特性1:10個と特性2:0個)の標準偏差は、0となる。場面3(特性1:7個と特性2:3個)の標準偏差は、0.46となる。
【数字から分かること】
 原文の最後にも記されているように、「佐橋甚五郎」は「続武家閑話(ぞくぶけかんわ)」という文献から起こした作品であり、場面1、場面2、場面3を通じて、アイロニーが少ないことがわかる。

◆グループC
場面1(特性1:2個と特性2:8個)の標準偏差は、0.4となる。
場面2(特性1:1個と特性2:9個)の標準偏差は、0.3となる。
場面3(特性1:0個と特性2:10個)の標準偏差は、0となる。
【数字から分かること】
 場面1、場面2、場面3を通じて、新情報の2が多いため、ストーリーがテンポよく展開していることがわかる。

◆グループD
場面1(特性1:4個と特性2:6個)の標準偏差は、0.49となる。、場面2(特性1:2個と特性2:8個)の標準偏差は、0.4となる。場面3(特性1:4個と特性2:6個)の標準偏差は、0.49となる。
【数字から分かること】
 場面1、場面2、場面3を通じて、場面の前半は問題未解決、場面の後半は問題解決というパターンである。作品の冒頭に問題提起があることから、各場面の問題解決が関連するように配慮されており、作品の構成に近いデータが取れている。

花村嘉英(2017)「日本語教育のためのプログラム-中国語話者向けの教授法から森鴎外のデータベースまで」より

日本語教育のためのプログラム


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