(20)、(24)、(25)のもう一つの読み、即ち「あるプロセスの始まり、終了」を規定する樹系図及びILへの翻訳式は、モンタギューのオリジナルの理論から規則づけることはできない。
この結果は、予期されたものである。なぜならば、様相因子が主語内的、主語外的とは生成意味論的な手法を改案し、表層統語レベルでの根拠づけを果たすために設けられた分析手段であり、表層に現れた言語現象に見られる曖昧性を取り、真理値の必要十分条件を定めるために設定されたモンタギューの内包論理に基づく意味解釈とは、本質的に異なるからである。
しかし、この問題を解決する上で見込みがないわけではない。例えば、Cooper(1976)には、生成意味論とモンタギューの文法理論との折衷安が示されており、例として、文に現れる複数の読み(意図性、プロセスの変化)は、統語的に曖昧と考えず、つまり、単一の統語分析を考え、あくまで意味解釈の過程で厳密に分析されるべき問題となっている。
この論文は、モンタギューの文法理論に対して決して否定的な立場にあるわけではない。言語学の目的の一つに、「ことばの意味に対する説明上妥当な記述を施すこと」というものがある限り、モンタギュー流の厳密な手法に基づく意味解釈の規定とは、それなりに意義があるからである。
花村嘉英(2020)「Anfangen、beginnen、aufhörenにおける様相因子の動きから生まれる文の曖昧性-モンタギュー文法による形式意味論からの考察」より