側頭葉は言語の発達に関わり、後頭葉は視覚の発達に関わっている。では、前頭葉は何の発達に関わっているのか。それは、道徳の発達だという。前頭葉は、18歳位で発達が完成する。脳の成熟度の目安に、神経経路の有髄化(髄鞘の完成)がある。脳の様々な部分と繋がっている長い経路の軸索は、エミリンという白い脂質組織に覆われている。このエミリンが経路に沿って進む神経の信号伝達速度を上げるため、脳の各領域間の伝達は素早く、確実になる。前頭葉は、他の様々な脳領域の活動を調整しており、長距離の伝達はとりわけ重要である。18歳位になると、前頭葉と遠く離れた脳領域を繋ぐ経路が完全に有髄化されて、前頭葉は様々な役割を完璧に果たすことができるようになる。(Goldberg 2007)
語り手の白人女性は18歳のときに妊娠して、マックスと結婚し子供を産む。彼の父は、統一党の代議士であり、体面を重んじるファン・デン・サント家のしきたりには合わない。しかし、マックスも結婚して、妻と自分の赤ん坊を授かり、儀式や忠誠がわかる大人になったため、妹のクイーニーと花婿アランのために乾杯の音頭をうまくとれる。
細くて背丈は中位で手首が太くブルーで小さな目をしたマックスは、母方に似ていた。クイーニーも美しい。結婚式のスピーチの冒頭では、新郎新婦の幸せと二人の努力を心から祈る。ここでも前頭葉の活動が重要になる。前頭連合野には、困難な状況下で最適な行動を導くための一般知性とともに、社会的、感情的な知性が存在し、これが成功するための鍵になるといわれている。
結婚式のスピーチの中では、人生に役立ちそうなことをいうものである。外部者を締め出して、居心地のいいクラブの中で必要以上の物を食べていると動脈がボロボロになる。しかし、一方に独善と欺瞞に染まった精神的な心の動脈硬化があり、白人地区はすべてこれに感染していて、しかも治療が難しい。白人地区のやり方で子供を育てると精神的な動脈硬化になるという。マックスのスピーチは、お説教のようでもあり、果たして結婚式で言うべきことなのであろうか。たわいもないように核心をつく。道徳は発達している。
花村嘉英(2018)「『ブルジョワ世界の終わりに』から見たゴーディマの意欲について」より