シナジーのメタファーの作り方6


 マックスは、精神的な動脈硬化に罹らないようにリスク回避を試みる。妹の結婚式におけるスピーチの場面では、マックスの脳内で快楽の神経伝達物質ドーパミンが前頭葉に分泌し、間脳を経て脳幹に信号が伝わっている。この場面では、妹にまつわる長期記憶とその後の彼らを占う作業記憶のうち後者が強いため、ゴーディマの執筆脳は、前頭葉が活発に働いている。
 前頭葉の一機能といえる意思決定は、唯一の答え、つまり真実を求める決定論型と優先事項に基づいた適応型に分かれる。ゴーディマとマックスの意欲は、適応型の意思決定(反アパルトヘイト)であり、そこに執筆脳に関する解決策を求めていく。
 適応型の意思決定では、状況依存型と状況独立型のバランスが良ければいいが、一概にそうはいかない。例えば、女性は状況独立型を好み、男性は状況依存形を好む。また、比較的変化が少なければ、独立型の方が懸命であろうし、不安定な状況では依存型の方が好ましい。さらに、無限の状態は変化に乏しいため、独立型が良いであろう。しかし、前頭葉の機能には、そもそも性差がある。(Goldberg 2007:127)  

表3 前頭葉の性差

比較項目     男性        女性
適応型の意思決定 状況依存型を好む。 状況独立型を好む。
状況依存型の意思決定 左前頭前野皮質が活動する。 左右両側の後部皮質(頭頂葉)が活動する。
状況独立型の意思決定 右前頭前野皮質が活動する。 左右両側の前頭前野皮質が活動する。
大脳皮質の機能 左右の脳の違いが著しい。 前部と後部の脳の違いが顕著。
言語情報の処理 左半球の前部と後部がともに活動する。 左右の大脳半球の前頭葉がともに活動する。
脳内の結合部 片側の大脳半球の前後をつなぐ白質繊維束が大きく、片側の大脳半球の機能的統合が顕著である。左右の大脳をつなぐ脳梁の部分が太くて、大脳半球間の機能的統合が顕著である。

 表3から見ると、女性であるゴーディマの執筆脳は、左右両方の前頭前野皮質が活動していたと想定できる。これが“The Late Bourgeois World”(ブルジョワ世界の終りに)を読んで思う「空間と時間」という受容の読みを厚くしてくれる。
 「空間と時間」という購読脳の出力は、意欲を通して適応能力となり、理解、思考、判断などの総合能力によって将来を見据えた作家のリスク回避につながっていく。ゴーディマのLのストーリーは、縦の受容が言語と文学→言語の認知→「空間と時間」となり、横の共生が「空間と時間」→情報の認知→「意欲と適応能力」になる。そこから、「ゴーディマと意欲」というシナジーのメタファーが作られる。また、作成したデータベースから記憶の種別を考えると、マックスの回想が場面ごとに見られるため、エピソード記憶が多い。

花村嘉英(2018) 「シナジーのメタファーの作り方について」より

シナジーのメタファー1


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