時代の背景では五四運動がある。1919年5月4日、第一次世界大戦のパリ講和条約で旧ドイツ租借地の山東省の権益が日本により継承されることになったのを受けて、天安門で北京大学の学生が反日のデモを繰り返した。この五四運動は、1921年の中国共産党成立にも影響があることから、政治的にも文化的にも影響が大きかった。魯迅は弟周作人とともに新文化運動の前線に立った。辛亥革命の不徹底を批判し、反帝国主義、反封建主義の立場を堅持した(郑择魁:1978、17)。毛沢東主席が「阿Q正伝」に言及したとき、通俗化と口語化を特に評価した(郑择魁:1978、66)。
「阿Q正伝」(1921)では、魯迅が阿Qに自らを同化させて、阿Qや彼の周りの人々が銃殺される罪人を陶酔しながら喝采する精神の持ち主と評した(片山智行:1996、145)。以下では、こうした「馬々虎々」をカオスと関連づけて考えてみる。これもまた記憶との連想が強い。
文学作品は、一般的に時代とか社会生活を反映しているものだ。描かれる社会生活には、作者の個性や感性を通した独特の趣がある。そして、作者の思想が登場人物の形象化により表現される。作品の登場人物を形象化することにより、作者は、芸術的な感動を伝えようとする(山本哲也:2002、415)。魯迅の生き写しである阿Qを追いながら、作品に見られる「馬々虎々」の様子を見ていこう。特に、阿Qが五感で捕らえた情報と意識や無意識との関連づけを入出力の対象とする。

コメントを残す