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  • アナトール・フランスのCrainquebille(クランクビーユ)で執筆脳を考える8

    表3 情報の認知

    A 表2と同じ。情報の認知1 3、情報の認知2 2、情報の認知3 1
    B 表2と同じ。情報の認知1 3、情報の認知2 2、情報の認知3 1
    C 表2と同じ。情報の認知1 3、情報の認知2 2、情報の認知3 1
    D 表2と同じ。情報の認知1 3、情報の認知2 2、情報の認知3 1
    E 表2と同じ。情報の認知1 3、情報の認知2 2、情報の認知3 1

    A 情報の認知1は③その他の条件、情報の認知2は②新情報、情報の認知3は①計画から問題解決へである。  
    B 情報の認知1は②グループ化、情報の認知2は②新情報、情報の認知3は②問題未解決から推論へである。
    C 情報の認知1は③その他の条件、情報の認知2は②新情報、情報の認知3は①計画から問題解決へである。
    D 情報の認知1は③その他の条件、情報の認知2は②新情報、情報の認知3は①計画から問題解決へである。
    E 情報の認知1は③その他の条件、情報の認知2は②新情報、情報の認知3は①計画から問題解決へである。   

    結果  
      
     この場面でブリッシュ裁判長は、法の精神に浸透し、吾人であるマトラ巡査は過ちを犯すも、人間性を引いた警官第64号は過ちを犯すことがないとし、証言を受け入れた。そのため、購読脳の「現実と実体」からクランクビーユの置かれた立場「裁判と無謬性」という執筆脳の組を引き出すことができる。   

    花村嘉英(2022)「アナトール・フランスの『クランクビーユ』で執筆脳を考える」より

  • アナトール・フランスのCrainquebille(クランクビーユ)で執筆脳を考える7

    【連想分析2】

    情報の認知1(感覚情報)  
     感覚器官からの情報に注目することから、対象の捉え方が問題になる。また、記憶に基づく感情は、扁桃体と関係しているため、条件反射で無意識に素振りに出てしまう。このプロセルのカラムの特徴は、①ベースとプロファイル、②グループ化、③その他の条件である。
     
    情報の認知2(記憶と学習)  
     外部からの情報を既存の知識構造へ組み込む。この新しい知識はスキーマと呼ばれ、既存の情報と共通する特徴を持っている。未知の情報は、またカテゴリー化される。このプロセスは、経験を通した学習になる。このプロセルのカラムの特徴は、①旧情報、②新情報である。

    情報の認知3(計画、問題解決、推論)  
     受け取った情報は、計画を立てるプロセスでも役に立つ。その際、目的に応じて問題を分析し、解決策を探っていく。しかし、獲得した情報が完全でない場合は、推論が必要になる。このプロセルのカラムの特徴は、①計画から問題解決へ、②問題未解決から推論へである。

    花村嘉英(2022)「アナトール・フランスの『クランクビーユ』で執筆脳を考える」より

  • アナトール・フランスのCrainquebille(クランクビーユ)で執筆脳を考える6

    分析例

    1 裁判所に居合わせた男ジャン・レルミットがクランクビーユの裁判について解説する場面。  
    2 この小論では、「クランクビーユ」の執筆脳を「裁判と無謬性」と考えているため、意味3の思考の流れ、無謬性に注目する。    
    3 意味1①視覚②聴覚③味覚④嗅覚⑤触覚 、意味2 ①喜②怒③哀④楽、意味3無謬性①あり②なし、意味4振舞い ①直示②隠喩③記事なし。     
    4 人工知能 ①裁判、②無謬性。   
     
    テキスト共生の公式   
     
    ステップ1 意味1、2、3、4を合わせて解析の組「現実と実体」を作る。
    ステップ2 法の精神として人のことばではなく常に正しくある剣を優先せよとしたため、「裁判と無謬性」という組を作り、解析の組と合わせる。    

    A ①視覚+④楽+①あり+①直示という解析の組を、①裁判+②無謬性という組と合わせる。
    B ①視覚+③哀+②なし+①直示という解析の組を、①裁判+②無謬性という組と合わせる。
    C ①視覚+③哀+②なし+①直示という解析の組を、①裁判+②無謬性という組と合わせる。 
    D ①視覚+④楽+①あり+①直示という解析の組を、①裁判+②無謬性という組と合わせる。
    E ①視覚+④楽+①あり+①直示という解析の組を、①裁判+②無謬性という組と合わせる。   

    結果 表2については、テキスト共生の公式が適用される。

    花村嘉英(2022)「アナトール・フランスの『クランクビーユ』で執筆脳を考える」より

  • アナトール・フランスのCrainquebille(クランクビーユ)で執筆脳を考える5

    【連想分析1】

    表2 受容と共生のイメージ合わせ
    裁判について解説する場面

    A Non pas que Matra (Bastien), né à Cinto-Monte (Corse), lui paraisse incapable d’erreur. Il n’a jamais pensé que Bastien Matra fût doué d’un grand esprit d’observation, ni qu’il appliquât à l’examen des faits une méthode mais l’agent 64. 意味1 1、意味2 4、意味3 1、意味4 1、人工知能1+1

    B Un homme est faillible, pense-t-il. Pierre et Paul peuvent se tromper. Descartes et Gassendi, Leibnitz et Newton, Bichat et Claude Bernard ont pu se tromper. Nous nous trompons tous et àtout moment.
    意味1 1、意味2 3、意味3 2、意味4 1、人工知能1+2

    C Nos raison d’erreur sont innombrables. Les perceptions des sens et les jugements de l’esprit sont des sources d’illusion et des causes d’incertitude. Il ne faut pas se fier au témoignage d’un homme: Testis unus, testis nullus. 意味1 1、意味2 3、意味3 2、意味4 1、人工知能1+2

    D Mais on peut avoir foi dans un muméro. Bastien Matra, de Cint-Monte, est faillible. Mais l’agent 64, abstraction faite de son humanité, ne se trompe pas. C’est une entité. Une entité n’a rien en elle de ce qui est dans les hommes et trouble, les corrompt, les abuse. 
    意味1 1、意味2 4、意味3 1、意味4 1、人工知能1+1

    E Elle est pure, inaltérable et sans mélange. Aussi le tribunal n’a-t-il point hésité à repousser le témoignage du docteur David Matthieu, qui n7est qu’un homme, pour admettre celui de l’agent 64, qui est une idée pure, et comme un rayon de Fieu descendu à la barre. 意味1 1、意味2 4、意味3 1、意味4 1、人工知能1+1

    花村嘉英(2022)「アナトール・フランスの『クランクビーユ』で執筆脳を考える」より

  • アナトール・フランスのCrainquebille(クランクビーユ)で執筆脳を考える4

    3 データベースの作成

     データベースの作成法について説明する。エクセルのデータについては、列の前半(文法1から意味5)が構文や意味の解析データ、後半(医学情報から人工知能)が理系に寄せる生成のデータである。一応、L(受容と共生)を反映している。データベースの数字は、登場人物を動かしながら考えている。
     こうしたデータベースを作る場合、共生のカラムの設定が難しい。受容はそれぞれの言語ごとに構文と意味の解析をし、何かの組を作ればよい。しかし、共生は作家の知的財産に基づいた脳の活動が問題になるため、作家ごとにカラムが変わる。

    【データベースの作成】

    表1 「クランクビーユ」のデータベースのカラム
    文法1 態  能動、受動、使役。
    文法2 時制、相  現在、過去、未来、進行形、完了形。
    文法3 様相  可能、推量、義務、必然。
    意味1 五感  視覚、聴覚、味覚、嗅覚、触覚。
    意味2 喜怒哀楽  情動との接点。瞬時の思い。
    意味3 思考の流れ 無謬性ありなし
    意味4 振舞い  ジェスチャー、身振り。直示と隠喩を考える。
    医学情報  病跡学との接点 受容と共生の共有点。購読脳「現実と実体」と病跡学でリンクを張るためにメディカル情報を入れる。  
    情報の認知1 感覚情報の捉え方  感覚器官からの情報に注目するため、対象の捉え方が問題になる。例えば、ベースとプロファイルやグループ化または条件反射。
    情報の認知2 記憶と学習 外部からの情報を既存の知識構造に組み込む。その際、未知の情報についてはカテゴリー化する。学習につながるため。記憶の型として、短期、作業記憶、長期(陳述と非陳述)を考える。
    情報の認知3 計画、問題解決、推論 受け取った情報は、計画を立てるときにも役に立つ。目的に応じて問題を分析し、解決策を探っていく。獲得した情報が完全でない場合、推論が必要になる。
    人工知能 裁判と無謬性 エキスパートシステム 裁判とは、物事を治め管理すること。無謬性とは、誤りを含まないこと。

    花村嘉英(2022)「アナトール・フランスの『クランクビーユ』で執筆脳を考える」より

  • アナトール・フランスのCrainquebille(クランクビーユ)で執筆脳を考える3

     第64号の巡査の思い違いも巡査としての役割から調節され実証として採用された。つまり、吾人は過失を犯している、吾人の五官による感覚と精神による判断は、瞑想の源であり、不確かさの原因である。一個人の人間の証言は信じてはならない。しかし、番号こそ信用しうる。バスティアン・マトラは過失を犯しうる、しかし、人間性を引いた警官第64号は誤りを犯すことがない。(Bastien Matra est faillible. Mais L’agent 64, abstraction faite de son humanité, ne se trompe pas. C’est une entité.)
     刑務所を出たクランクビーユの生活は、何一つ変わっていなかった。以前に比べて居酒屋に出入りするようになったぐらいである。道行く人は、刑務所から出てきた男には関わりたくはない。ロール婦人も然りである。クランクビーユは、誰一人軽蔑はしていない。しかし、彼女にだけ我を忘れて三度も罵しってしまった。
    皆がクランクビーユを疥癬患者扱いした。青物が売れなくなり根性がひがみ客の女たちを罵った。野卑な、付き合いの悪い、喧嘩っ早い男になってしまった。(Il devenait incongru, mauvais coucheur, mal embouché, fort en gueule.)飲酒の癖がついていた。しばしば朝の競り市にも間に合わなかった。堕落した自分に気づき、一心で激しくて強い気持ちを持っていた当時の生活は、過去のものとなった。
     とうとう一文無しになってしまった。夜遅い時刻に街に出た。巡査が一人ガス燈の灯影に立っていた。40歳位であろうか。近づいていき「犬め!」といってみた。巡査は、人が勤めをしているときにそんなことをいうもんじゃないという。(Quand un homme fait son devoir et qu’il endure bien des souffrances, on ne doit pas l’insulter par des paroles futiles.)クランクビーユは、雨の中を暗がりの中へ消えて行く。   
     山場は裁判の場面と考え、「クランクビーユ」の購読脳を「現実と実体」、執筆脳を「裁判と無謬性」とし、シナジーのメタファーは、「アナトール・フランスと裁き」にする。「クランクビーユ」は、アナトール・フランスが考える裁きに対する司法官の精神とその方向性とが融合した純度の高い小説である。

    花村嘉英(2022)「アナトール・フランスの『クランクビーユ』で執筆脳を考える」より

  • アナトール・フランスのCrainquebille(クランクビーユ)で執筆脳を考える2

    2 Lのストーリー

     アナトール・フランス(1844-1924)の「クランクビーユ」は、1901年に出版された。還暦を過ぎた老青物商人がパリの街を荷車に載せた野菜とともに練り歩く昔ながらの日常の話である。クランクビーユは、いつものように得意先の婦人らに声をかけては新鮮などこにも負けない野菜を売っていた。 
     十月に入りモンマルトルも秋めいてきた。些細な出来事があった。昼過ぎに靴屋のバイヤー婦人が老商人の車にやってきて葱を物色する。15スーでは高いから14スーにしてほしい。今店に行って金をとってくるから少し待つようにいう。しかし、第64号の巡査が現れ、クランクビーユに立ち止まらずに歩けと伝える。(C’est alors que l’argent 64 survint et dit à Crainquebille. Circulez!)
     法律を軽蔑しているわけではない。お代を待っているだけだと説明する。モンマルトル通りは、車の雑踏が頂点に達し、巡査は、混雑を緩和することしか頭になかった。靴屋の婦人はなかなか戻らず、別に反抗したわけではないが、警官を侮辱した違反者とでっち上げられ、クランクビーユは拘束された。(C’est sous cette forme que spontanément il recueillit et concréta dans son oreille les paroles du délinquant.)現場に居合わせた医者のマチュー博士が思い違いをしていると説明したにも関わらず。刑務所に連れていかれても野菜を積んだ自分の車の心配をしていたところへ弁護士が事情聴取に訪れた。  
     「犬め!」といったいわないで裁判が進行する。弁護士のルメルル先生は、第64号のマトラ巡査が過労もあり聴覚上の幻覚症状があったとか強執病で纏執発作にとらわれていた可能性もあり、一方でクランクビーユの発することばが犯罪の性質を有するかどうかも問題になるとした。結局ブリッシュ裁判長は、クランクビーユを15日間の拘留と50フランの罰金に処した。(M. le president Bourriche lut entre ses dents un jugement qui condamnait Jérôme Crainquebille à quinze jours de prison et cinquante France d’amende.)罰金は、すぐさま情けが出た。

    花村嘉英(2022)「アナトール・フランスの『クランクビーユ』で執筆脳を考える」より

  • アナトール・フランスのCrainquebille(クランクビーユ)で執筆脳を考える1

    1 はじめに

     文学分析は、通常、読者による購読脳が問題になる。一方、シナジーのメタファーは、作家の執筆脳を研究するためのマクロに通じる分析方法である。基本のパターンは、まず縦が購読脳で横が執筆脳になるLのイメージを作り、次に、各場面をLに読みながらデータベースを作成し、全体を組の集合体にする。そして最後に、双方の脳の活動をマージするために、脳内の信号のパスを探す、若しくは、脳のエリアの機能を探す。これがミクロとマクロの中間にあるメゾのデータとなり、狭義の意味でシナジーのメタファーが作られる。この段階では、副専攻を増やすことが重要である。 
     執筆脳は、作者が自身で書いているという事実及び作者がメインで伝えようと思っていることに対する定番の読み及びそれに対する共生の読みと定義する。そのため、この小論では、トーマス・マン(1875-1955)、魯迅(1881-1936)、森鴎外(1862-1922)に関する私の著作を先行研究にする。また、これらの著作の中では、それぞれの作家の執筆脳として文体を取り上げ、とりわけ問題解決の場面を分析の対象にしている。さらに、マクロの分析について地球規模とフォーマットのシフトを意識してナディン・ゴーディマ(1923-2014)を加えると、“The Late Bourgeois World”執筆時の脳の活動が意欲と組になることを先行研究に入れておく。 
     筆者の持ち場が言語学のため、購読脳の分析の際に、何かしらの言語分析を試みている。例えば、トーマス・マンには構文分析があり、魯迅にはことばの比較がある。そのため、全集の分析に拘る文学の研究者とは、分析のストーリーに違いがある。言語の研究者であれば、全集の中から一つだけシナジーのメタファーのために作品を選び、その理由を述べればよい。なおLのストーリーについては、人文と理系が交差するため、機械翻訳などで文体の違いを調節するトレーニングが推奨される。

    花村嘉英(2022)「アナトール・フランスの『クランクビーユ』で執筆脳を考える」より

  • ジャン・ポール・サルトルの「嘔吐」で病跡学を考える10

    5 まとめ

     サルトルの執筆時の脳の活動を調べるために、まず受容と共生からなるLのストーリーを文献により組み立てた。次に、「嘔吐」のLのストーリーをデータベース化し、最後に文献で留めたところを実験で確認した。そのため、テキスト共生によるシナジーのメタファーについては、一応の研究成果が得られている。
     この種の実験をおよそ100人の作家で試みている。その際、日本人と外国人60人対40人、男女比4対1、ノーベル賞作家30人を目安に対照言語が独日であることから非英語の比較を意識してできるだけ日本語以外で英語が突出しないように心掛けている。 

    参考文献

    片野善夫 ほすぴ181号 ヘルスケア出版 2021
    花村嘉英 計算文学入門-Thomas Mannのイロニーはファジィ推論といえるのか? 新風舎 2005
    花村嘉英 从认知语言学的角度浅析鲁迅作品-魯迅をシナジーで読む 華東理工大学出版社 2015
    花村嘉英 日语教育计划书-面向中国人的日语教学法与森鸥外小说的数据库应用 日本語教育のためのプログラム-中国語話者向けの教授法から森鴎外のデータベースまで 南京東南大学出版社 2017
    花村嘉英 从认知语言学的角度浅析纳丁・戈迪默 ナディン・ゴーディマと意欲 華東理工大学出版社 2018
    花村嘉英 計算文学入門(改訂版)-シナジーのメタファーの原点を探る V2ソリューション 2022
    Jean-Paul Sartre La nausée (「嘔吐」白井浩二訳)Gallimard 2006
    Jean-Paul Sartre Wikipedia

    花村嘉英(2022)「ジャン・ポール・サルトルの『嘔吐』で病跡学を考える」より

  • ジャン・ポール・サルトルの「嘔吐」で病跡学を考える9

    表3 情報の認知

      同上   情報の認知1 情報の認知2 情報の認知3
    A 表2と同じ。 2     2     2
    B 表2と同じ。 2     2     2
    C 表2と同じ。 3     2     1
    D 表2と同じ。 3     2     2
    E 表2と同じ。 3     2     2

    A 情報の認知1は②グループ化、情報の認知2は②新情報、情報の認知3は②問題未解決から推論へである。
    B 情報の認知1は②グループ化、情報の認知2は②新情報、情報の認知3は②問題未解決から推論へである。
    C 情報の認知1は③その他の条件、情報の認知2は②新情報、情報の認知3は①計画から問題解決へである。
    D 情報の認知1は②グループ化、情報の認知2は②新情報、情報の認知3は②問題未解決から推論へである。
    E 情報の認知1は②グループ化、情報の認知2は②新情報、情報の認知3は②問題未解決から推論へである。   

    結果  
     この場面でサルトルは、 アニーと私の人生について語り、世界の実存が非常に醜いため、かえって家族で寛いでいる気分になる。吐きたい気分は、私の人生についての観念の下にある。サクソフォーンの調べに合わせて行き来しながら苦しむべきだと心で語るため、購読脳の「吐き気と実存」からサルトルの置かれた立場「自己への関心と執筆」という執筆脳の組を引き出すことができる。

    花村嘉英(2022)「ジャン・ポール・サルトルの『嘔吐』で病跡学を考える」より