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  • ジャン・ポール・サルトルの「嘔吐」で病跡学を考える8

    【連想分析2】

    情報の認知1(感覚情報)  
     感覚器官からの情報に注目することから、対象の捉え方が問題になる。また、記憶に基づく感情は、扁桃体と関係しているため、条件反射で無意識に素振りに出てしまう。このプロセルのカラムの特徴は、①ベースとプロファイル、②グループ化、③その他の条件である。
     
    情報の認知2(記憶と学習)  
     外部からの情報を既存の知識構造へ組み込む。この新しい知識はスキーマと呼ばれ、既存の情報と共通する特徴を持っている。未知の情報は、またカテゴリー化される。このプロセスは、経験を通した学習になる。このプロセルのカラムの特徴は、①旧情報、②新情報である。

    情報の認知3(計画、問題解決、推論)  
     受け取った情報は、計画を立てるプロセスでも役に立つ。その際、目的に応じて問題を分析し、解決策を探っていく。しかし、獲得した情報が完全でない場合は、推論が必要になる。このプロセルのカラムの特徴は、①計画から問題解決へ、②問題未解決から推論へである。

    花村嘉英(2022)「ジャン・ポール・サルトルの『嘔吐』で病跡学を考える」より

  • ジャン・ポール・サルトルの「嘔吐」で病跡学を考える7

    分析例

    1 アニーと私の人生について語る場面。  
    2 この小論では、「嘔吐」の執筆脳を「自己への関心と執筆」と考えているため、意味3の思考の流れ、関心に注目する。   
    3 意味1①視覚②聴覚③味覚④嗅覚⑤触覚 、意味2 ①喜②怒③哀④楽、意味3関心①あり②なし、意味4振舞い ①直示②隠喩③記事なし
    4 人工知能 ①関心、②執筆   
     
    テキスト共生の公式   
     
    ステップ1 意味1、2、3、4を合わせて解析の組「吐き気と実存」を作る。
    ステップ2 私の人生を語るため心の声を漏らすため、「自己への関心と執筆」という組を作り、解析の組と合わせる。  

    A ②聴覚+③哀+①あり+②隠喩という解析の組を、①追求+②救済という組と合わせる。
    B ①視覚+③哀+①あり+②隠喩という解析の組を、①追求+②救済という組と合わせる。
    C ①視覚+③哀+①あり+①直示という解析の組を、①追求+②救済という組と合わせる。 
    D ②聴覚+③哀+①あり+②隠喩という解析の組を、①追求+②救済という組と合わせる。
    E ②聴覚+④楽+①あり+②隠喩という解析の組を、①追求+②救済という組と合わせる。   

    結果 表2については、テキスト共生の公式が適用される。

    花村嘉英(2022)「ジャン・ポール・サルトルの『嘔吐』で病跡学を考える」より

  • ジャン・ポール・サルトルの「嘔吐」で病跡学を考える6

    【連想分析1】
    表2 受容と共生のイメージ合わせ

    アニーと私の人生について語る場面

    A Des pensée sur Anny, sur ma vie gâchée. Et puis, encore au-dessous, la Nausée, timide comme une aurore. Mais à ce moment-là, il n’y avait pas de musique, j’étaient morose et tranquille..意味1 2、意味2 3、意味3 1、意味4 2、人工知能 1
    B Tous les ovjets qui m’entouraient étaient faits de la même matière que moi, d’une espèce de souffrance moche.意味1 1、意味2 3、意味3 1、意味4 2、人工知能 1
    C Le monde était si laid, hors de moi, si laids ces verres sales sur les tables, et les taches brunes sur la glace et le tablier decMadeleine et l’air aimable du gros amoureux de la patronne, si laide l’existence même du monde, que je me sentais à l’aise, en famille.意味1 1、意味2 3、意味3 1、意味4 1、人工知能 1
    D A présent, il y a ce chant de saxsophone. Et j’ai honte. Une glorieuse petite souffrance vient de naître, une souffrance modèle. Quatre notes de saxophone.意味1 2、意味2 3、意味3 1、意味4 2、人工知能 1
    E Elles vont et viennent, elles ont l’air de dire: Eh bien, oui! (245) 意味1 2、意味2 4、意味3 1、意味4 2、意味5 2

    花村嘉英(2022)「ジャン・ポール・サルトルの『嘔吐』で病跡学を考える」より

  • ジャン・ポール・サルトルの「嘔吐」で病跡学を考える5

    4 分析

     データベースの作成法について説明する。エクセルのデータについては、列の前半(文法1から意味5)が構文や意味の解析データ、後半(医学情報から人工知能)が理系に寄せる生成のデータである。一応、L(受容と共生)を反映している。データベースの数字は、登場人物を動かしながら考えている。
     こうしたデータベースを作る場合、共生のカラムの設定が難しい。受容はそれぞれの言語ごとに構文と意味の解析をし、何かの組を作ればよい。しかし、共生は作家の知的財産に基づいた脳の活動が問題になるため、作家ごとにカラムが変わる。

    【データベースの作成】
    表1 「嘔吐」のデータベースのカラム
    文法1 態 能動、受動、使役。
    文法2 時制、相 現在、過去、未来、進行形、完了形。
    文法3 様相 可能、推量、義務、必然。
    意味1 五感 視覚、聴覚、味覚、嗅覚、触覚。
    意味2 喜怒哀楽 情動との接点。瞬時の思い。
    意味3 思考の流れ 関心ありなし
    意味4 振舞い ジェスチャー、身振り。直示と隠喩を考える。
    医学情報 病跡学との接点 受容と共生の共有点。購読脳「吐き気と実存」を共生にスライドさせるため、メディカル情報をここに置く。  
    情報の認知1 感覚情報の捉え方 感覚器官からの情報に注目するため、対象の捉え方が問題になる。例えば、ベースとプロファイルやグループ化または条件反射。
    情報の認知2 記憶と学習 外部からの情報を既存の知識構造に組み込む。その際、未知の情報についてはカテゴリー化する。学習につながるため。記憶の型として、短期、作業記憶、長期(陳述と非陳述)を考える。
    情報の認知3 計画、問題解決、推論 受け取った情報は、計画を立てるときにも役に立つ。目的に応じて問題を分析し、解決策を探っていく。獲得した情報が完全でない場合、推論が必要になる。
    人工知能
    自己への関心と執筆 エキスパートシステム 関心とは、ある物に対し向けられている積極的な心構えまたは感情のこと。執筆とは、筆をとって書くこと。

    花村嘉英(2022)「ジャン・ポール・サルトルの『嘔吐』で病跡学を考える」より

  • ジャン・ポール・サルトルの「嘔吐」で病跡学を考える4

     偶然性は、消去できる見せかけの仮象ではない。絶対的なものである。無償である。そのことを理解すると、気持ちがむかつき、吐き気をもようすことになる。
     もう少し、自分のことを語るのは止める。なんの役に立つのか。吐き気、恐怖、実存、これらのことはすべて自分の胸にしまっておく方がよい。
     最も強い強烈な恐怖や吐き気の際に、自分が救われることを期待していた。まだ若いし、やり直す十分な力がある。しかし、何をやり直すのであろうか。私は死に、一人で自由であり、けれどもこの自由は、死に似ている。
     今日、私の肉体は衰弱しているため、吐き気は耐えられない。しかし、病人でも、病気の意識を忘れてしまうほどの幸福で衰弱なときがある(Aujourd’hui mon corps est trop épuisé pour la supporter. Les maladies aussi ont d’heureuses faiblesses qui leur ôtent, quelques heures, la conscience de leur mal)。吐き気は、また戻ってくるとわかっていても、短い猶予を与えてくれた。
     また発作がおきるのではないかとか次はもっと激しい発作かもしれないといった不安が消えなくなる予期不安は、パニック障害でよく見られる症状である。
     ブーヴィルのエリアは、非常に静かで清らかである。ビクトル・ノワール通り、ガルヴァ二通りをよく散策した。吐き気もここを大目に見ている(emploierais-je ces derniers moments à faire une longue promenade dans Bouville, à revoir le boulevard Victor-Noir, l’avenue Galvani, la rue Tournebride? La Nausée l’avait épargné)。ペンを放さずに持っていれば、吐き気を遅らせることができる。頭に浮かぶことを書きながらそれをする。
     過度なストレスは、体に置く影響を及ぼすが、適度なストレスだとよい影響になることがある。ストレスを受けたときに、脳内にβエンドルフィンや副腎皮質刺激ホルモンが分泌され、集中力や注意力を高めてくれる。吐き気のありかは、台なしになった私の人生に関する観念の下にある。私の人生の上には、機械的な計算があった。吐き気は、曙のようにおどおどしている。
     そこで、サルトルの「嘔吐」の購読脳は「吐き気と実存」にし、執筆脳は「自己への関心と執筆」にする。シナジーのメタファーは、「サルトルと自覚存在」である。

    花村嘉英(2022)「ジャン・ポール・サルトルの『嘔吐』で病跡学を考える」より

  • ジャン・ポール・サルトルの「嘔吐」で病跡学を考える3

    3 作家サルトル

     La nauée「嘔吐」の中から吐きたいメンタルな気持ちを書き出していく。同時に心のありようである人間らしさは、脳の働きによるもので、脳内を動き回り心を左右する神経伝達物質についても説明する。心の状態を左右しているのは、神経伝達物質の種類と量である。
     あの男は、吐き気を待っている。胸がむかついた。吐き気がしたのかと思ったが、そうではない。1917年の冬は、捕虜でもあり、食べ物の事情が非常に悪く、病気になった。私は、病人である。
    発作が起こる(Une belle crise)。確かに人間はすばらしい存在である。私の頭からつま先まで発作が全身を揺らす(ça me secoue du haut en bas)。一時間前に発作が起こることを知っていたが、認めたくはない(Il y a une heure que je la voyais venir, seulement, je ne voulais pas me l’avouer)。世界が実存することを知っている。吐きたいと思うことが頭を悩ます。
     ここでは、興奮性の神経伝達物質であるノルアドレナリンが分泌している。主な作用は、興奮、覚醒、恐怖、怒り、不安、集中力と関係している。パニック障害の特徴がある症状といえる。
     鉄道員の店で吐き気があり、公園でも別のものが、今日はとびきり強い吐き気があった。
     吐き気は、直ちに離れることはない。私は、吐き気に襲われることはない。吐き気は、病気でも咳込みでもなく、私自身となった。
     実存の鍵とは、吐き気の、つまり私自身の生活の鍵であり(j’avais trouvé la clef de l’Existence, la clef de mes Nausées, de ma propre vie)、これを発見すると、あらゆるものが不条理に行きつく(tout ce que j’ai pu saisir ensuite se ramène à cette absurdité fondamentale)。
     人間の観念は、視覚、嗅覚、味覚からはみ出ている(Ce noir-là, présence amorpha et veule, débordait, de loin, la vue, l’odorat et le gout)。異常な瞬間が来る。身動きもせず、凍りついていると、何か新しいものが現れる。吐き気を理解し、それに精通した。ことばにするのは容易であり、偶然性こそが大切である。実存とは必然でなく、単にそこにあることをいう。実存するものは、出現し、偶然の実存に任せるが、実存するものを演繹することはない。

    花村嘉英(2022)「ジャン・ポール・サルトルの『嘔吐』で病跡学を考える」より

  • ジャン・ポール・サルトルの「嘔吐」で病跡学を考える2

    2 人間サルトル

     ジャン・ポール・サルトル(1905-1980)は、幼少時に父親が死に、母方の祖父の下で育った。3歳で右目を失明し、強度の斜視になる。
     1933年から1934年までベルリンに留学し、気象学を学んだ。1935年、想像力の実験のため、友人の医師ラガシュによりフェネチルアミン系の幻覚剤メスカリンを注射してもらう。甲殻類が身体を這いまわる幻覚に襲われ、鬱症状が続いた。甲殻類は嫌いであった。ベルリンに留学し執筆を始めた「嘔吐」は、フランスに戻ってル・アーブルやパリで教鞭をとる傍ら、1938年に出版される。
     戦中戦後にフッサールの現象学やハイデッカーの存在論、そしてソビエトの諸外国への信仰を擁護する立場からマルクス主義に傾倒していく。そこには、カミュやポンティとの決別もあった。ソビエト寄りの共産党には加入せず、次第に反スターリン主義の毛沢東のグループを支持するようになる。
     その後、マルクス主義は、発見学として捉えられ、その中で個人の意識の縦は、精神分析学の成果を、社会の横の統合は、アメリカ社会学の成果を取り入れた。これにより、20世紀の知恵をまとめるべく構造的、歴史的人間学を基礎づけた。
     公的な賞に関してすべて辞退している。ノーベル賞は、辞退の書簡の到着が遅れたため、ノーベル文学賞決定後の辞退となる。1964年のことである。
     1973年、激しい発作に襲われる。右目の失明に加え、左目の眼底出血により両目を失明する。そのため、内妻のヴォ―ヴォワールとの対話を録音し、自力での執筆ができなくなったことを共同作業で補うとした。主体重視の実存主義からユダヤ教への思想の転換もあり、サガンと交流するようになった。
     1980年肺水腫で亡くなり、モンパルナス墓地に埋葬された。養女のエル・カイムらの編集により、死後、多数の著作が出版されている。

    花村嘉英(2022)「ジャン・ポール・サルトルの『嘔吐』で病跡学を考える」より

  • ジャン・ポール・サルトルの「嘔吐」で病跡学を考える1

    1 はじめに

     病跡学については、作家を一人の人間として見たときにいえる病気の症状や小説の中に描かれているメディカル情報が考察の対象になる。サルトルの場合、斜視で眼が不自由であった。1973年には左目の視力が健常時の半分もなくなり、読み書きができなくなる。ボケの症状が現れ、一日のうち3時間ぐらいしか正常でいられなくなった。半盲状態になると、エジプト人の秘書に本を読んでもらい、対話して過ごした。 
    また、白井(2006)によると、サルトルは、30年以上にも渡り神経症を患っていたため、自身の実存を正当化するために文学を絶対視していた。しかし、飢餓状態に比べれば、芸術など一文の値打ちもないとする。
     原題のLa nauéeは、嘔吐物を意味せず、吐きたい気持ちを表す。そこで小説の中からメンタルな症状を覗いて見たい。「嘔吐」の中には、パリでの生活から見えてくる吐きたくなるような場面がいくつも現れる。吐き気をもようす場面を中心に病気の跡を辿り、人間サルトルの症状と合わせて病跡学の考察とする。
     政治への関心は、少なからず文学活動に影響を与えた。文学の政治参加は、小説により労働者階級を開放させることである。
     「嘔吐」執筆時は、自身を単独者と見なしており、社会の絆をよそに自分には社会におうものなどなく、社会の方も自身に手を出すことはないと考えていた。「嘔吐」ではブルジョワを下劣と批判したことが単独者としての文学からの帰結になった。つまり、サルトルが人生とは何かを真面目で真剣に追求した結果、小説「嘔吐」が生まれた。 

    花村嘉英(2022)「ジャン・ポール・サルトルの『嘔吐』で病跡学を考える」より

  • クロード・シモンのLe Tramway(路面電車)で執筆脳を考える9

    5 まとめ

     シモンの執筆時の脳の活動を調べるために、まず受容と共生からなるLのストーリーを文献により組み立てた。次に、「路面電車」のLのストーリーをデータベース化し、最後に文献で留めたところを実験で確認した。そのため、テキスト共生によるシナジーのメタファーについては、一応の研究成果が得られている。
     この種の実験をおよそ100人の作家で試みている。その際、日本人と外国人60人対40人、男女比4対1、ノーベル賞作家30人を目安に対照言語が独日であることから非英語の比較を意識してできるだけ日本語以外で英語が突出しないように心掛けている。  

    参考文献

    花村嘉英 計算文学入門-Thomas Mannのイロニーはファジィ推論といえるのか?新風舎 2005
    花村嘉英 森鴎外の「山椒大夫」のデータベース化とその分析 中国日语教学研究会江苏分会 2015
    花村嘉英 从认知语言学的角度浅析鲁迅作品-魯迅をシナジーで読む 華東理工大学出版社 2015
    花村嘉英 日语教育计划书-面向中国人的日语教学法与森鸥外小说的数据库应用 日本語教育のためのプログラム-中国語話者向けの教授法から森鴎外のデータベースまで 南京東南大学出版社 2017
    花村嘉英 从认知语言学的角度浅析纳丁・戈迪默 ナディン・ゴーディマと意欲 華東理工大学出版社 2018
    花村嘉英 川端康成の「雪国」から見えてくるシナジーのメタファーとは-「無と創造」から「目的達成型の認知発達」へ 中国日语教学研究会上海分会 2018
    花村嘉英 計算文学入門(改訂版)-シナジーのメタファーの原点を探る V2ソリューション 2022
    Claude Simon Le Tramway(平岡篤頼訳), Les Editions de minut, 2001
    Claude Simon Wikipedia 

  • クロード・シモンのLe Tramway(路面電車)で執筆脳を考える8

    表3 情報の認知

    A 表2と同じ。 情報の認知1 1、情報の認知2 2、情報の認知3 2
    B 表2と同じ。 情報の認知1 1、情報の認知2 2、情報の認知3 2
    C 表2と同じ。 情報の認知1 2、情報の認知2 1、情報の認知3 2
    D 表2と同じ。 情報の認知1 2、情報の認知2 2、情報の認知3 1
    E 表2と同じ。 情報の認知1 3、情報の認知2 1、情報の認知3 2

    A 情報の認知1は①ベースとプロファイル、情報の認知2は②新情報、情報の認知3は②問題未解決から推論へである。
    B 情報の認知1は①ベースとプロファイル、情報の認知2は②新情報、情報の認知3は②問題未解決から推論へである。
    C 情報の認知1は②グループ化、情報の認知2は①旧情報、情報の認知3は②問題未解決から推論へである。
    D 情報の認知1は②グループ化、情報の認知2は②新情報、情報の認知3は①計画から問題解決へである。
    E 情報の認知1は③その他の条件、情報の認知2は①旧情報、情報の認知3は②問題未解決から推論へである。   

    結果   
     この場面でシモンは、路面電車の長さや社内広告について語り、ペルピニャン市のあちこちで同じ広告を呆れるほど愉快に目にし、広告が時の経過で変色してしまい、封建君主ばりの土地のワイン業者が一切の規制から外れていることをつなげている。そのため、購読脳の「車窓から浮かぶ客観的な事実と時空の交錯」という組を作り、ヌーヴォー・ロマン作家シモンの特徴「回転とシーケンス」という執筆脳の組に引き渡すことができる。

    花村嘉英(2022)「クロード・シモンのLe Tramway(路面電車)で執筆脳を考える」より